恋は未完のままで
涼太は以前に愛沙が話していたことを思い出した。
「私、マリー・ローランサンのような絵が描きたいの」
これを耳にした時、涼太はなるほどなあと思った。男勝りのような愛沙だが、心は柔らかい。
「涼太君の下絵、少し色でごまかしてみるわ」
そんなことを言い、愛沙は微笑んでいる。
「ここに忘れないように、愛沙と涼太のイニシャルを入れておくわよ」
愛沙は、A/Rと入れて、その絵を涼太に渡した。そして、「さあ、次は涼太君よ、何か私達の記念になる言葉を入れて頂戴」と指示をしてくる。
涼太は「ああ」と答え、その絵の裏側に、「高校二年生のある秋の日、それは二人の青春への旅立ち」と書き入れた。
愛沙はそれを見て、「その通りだわ」と頷く。そして涼太を真正面に見据えて、真剣な顔付きで言う。
「ねえ涼太君、この絵大事に持っておいて。何年か後に逢った時に、この絵を完成させて・・・・・・私達二人の青春を終わらせましょう」
愛沙はそんな意味ありげなことを涼太に告げ、じっと見つめてくる。
涼太はそんな妖しさに負け、「きっと、そうしよう」と約束してしまうのだった。