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仕事伝説 ―コンビ誕生!!―

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 驚いたような、イリスの顔。
「言っただろ!!仕事屋は、人殺しは無しだって!!なのにお前、何人殺した!?
 それじゃ今までと変わんねぇだろ?!リュカス・ウェッジ!!」
「!!仕方ないじゃない!!ああしなきゃ、突破しようなかったわ!!」
 リュカス・ウェッジ。イリスが情報機関に居た頃の、旧名。もう棄て去った名前。
 もう、彼女を形作る柱ではない。それでも、ディークは旧名を呼んだ。
「そこを殺し以外で何とかしようと思え!!もうお前は、伝説の仕事屋、ディーク・ローの相棒、イリス・バルトだ!!もう、人を殺す事は俺が許さねえ!!」
「・・・馬鹿」
 イリスが笑った。こんな状況で、笑みが零れた。
「行くぞ、イリス!」
 再び走り出す。侵食され、刺々しい地形となった谷を。
「おい!こっちだ」
 ぼろぼろの服をまとったひげ面の男が、こちらに囁いた。
 追手は大分近くまで来ている。いちかばちか。その男の方へ、ディークは走った。
 ひげ面の男が左を指す。左へ曲がると、小さな洞窟があった。見つからぬよう、奥へと入り込み、息を潜める。
「危なかったな、お二人さん」
 人懐っこい顔で、ひげ面の男は笑った。
「・・・あんたは?」
「同業だ。シュワルツ・ハルク。ここに二ヶ月ほど隠れてる」
「ディーク・ローだ。こっちはイリス・バルト」
 シュワルツはよろしく、と返した。
 二ヶ月間伸びっ放しのひげのせいで、幾つなのかは分からない。だが、声から二十代位の青年だろう。少し伸びた髪を一つに結び、同業というだけあって、肉体は鍛えられている。
「助けてくれて、ありがとな」
「良いんだ。俺も同じクチだからな。ここだとまた見つかる。案内するよ、ついて来な」
 洞窟の奥の方へと、シュワルツは手招きした。
 彼を先頭に、暗い洞窟を歩いていく。
「なあ、あいつらは一体、何をやってるんだ?」
「良質の鉱石を掘って、密売してるんだ。あのラースっていう商人が、この谷の所有者らしい。多分、ブライツ王国辺りに売ってるんだろう。あそこは戦好きのヒゲがいるからな」
「じゃ、あの金は・・・」
「あれか。あれは買い手がこの事をバラさないように、口封じする為だ。ぼろ儲けしてるだろうから、あれ位の支出はどうって事ないのさ」
 どんなに貧しいこの国でも、法律というものは存在する。密売は、勿論非合法にあたる。
 自国だけではなく、他国と商売をする際は許可が要る。許可を得た者は、収入の五分の一を国に納めるようになっている。
 ただ、それは一部の、収入の多い商人に限られる。ディーク達のような、小さな商いであれば、許可は必要ではない。
 まあまあ儲けのあるラースは、自らの収入を五分の一とはいえ国に納めるのを惜しみ、密売を行っているという事だろう。
「じゃあ、何で俺達を・・・」
「お前達、駆け出しの仕事屋だろ?」
「え?あ、ああ・・・・・・」
 うなずく。何故、シュワルツは分かったのだろう。
「ラースは、駆け出しの仕事屋を騙して、ただ働きをさせるつもりだったのさ。駆け出しなら、仕事も余りない、カネにも困ってる。そこを大金で雇うと言ったら、迷わず飛びつく。受ける前に疑いもせずな。俺もそうだった。駆け出しの仕事屋が死んだところで、誰も怪しみはしない」
「何て奴だ・・・!!くっそお!!」
 両手で抱えた頭を、ぶんぶんと振るディーク。
「だから、私は気乗りしなかったのよ。で、貴方は二ヶ月ここに隠れていると先刻言ったわね。どうして逃げないの?」
「俺も逃げようと思った。けど、駄目なんだ」
「駄目・・・?」
 今まで狭かった洞窟が、急に開けた。
「俺みたいな人間が、他にもいるからさ」
「!!」
 暗闇の中、微かな明り。そこには、二十人ほどの人が座っていた。やはりぼろ布のような服をまとい、全身が汚れている。
 女性、男性、子供、老人。西や北、南からやって来たらしい人もいる。
「彼らはラースに騙されて奴隷になった人間だ。難民が多い。半分はこの国の浮浪者、半分は西と北と南の難民だな」
 西には、大帝国がある。数十年前から急成長し、西の諸国を統一し、北にあった大国を滅し、吸収した。南にも侵入を始めている。今最も力を持っている国、ブライツ王国という。
 元々あった国に住んでいた者は戦火を逃れて様々な所に散らばり、蓄えの無い者達は難民となっている。今も、増えつつある。
 ディークはイリスをいちべつ一瞥した。彼女は顔色一つ変えず、シュワルツの話を聞いている。
 彼女も被害者の一人ではあるが、加害者でもある。イリスは何処の国から来たかは言わないが、おそらくブライツ王国の人間だろう。
「この人数で逃げ出そうとすれば、ばれちまう。道のところどころに、見張りがいるからな。俺は、彼らに助けてもらった。だから、あんたは逃げて、この事を国に伝えてくれないか。そうすりゃ、ラースの奴はお終いだ」
「ディーク、彼の言う通りにした方が良いと思うわ。一番リスクが少ない」
「いいや」
 はっきりと、ディークは告げた。
「ディーク!?」
「シュワルツ、お前はここにいる人達に助けてもらったんだよな。そして、俺達も同じように助けてくれた。俺だって、一人で逃げるような真似は出来ねぇよ。逃げる時は、一緒に逃げる。一人で逃げちゃあ、伝説の仕事屋の名が廃るってもんだ」
 イリスが額に手を当てた。仕事を共にするのは今回が初めてだが、耳にたこが出来るほど聞かせた言葉が出てきたからだろう。〝伝説の仕事屋〟という言葉が。
 〝伝説〟と名が付くほどの偉業は成し遂げてはいない。そもそも偉業というのは他人が評価するものだ。どんな小さな事でも、偉業に成り得る。
 ――なら、目の前にある事をやらないでどうする?
「・・・お前って、凄い男だな」
「そーいうのは、脱出に成功してから言ってくれ。早速作戦会議だ」
「・・・って、私の意見はムシなのね」
 わはは、とディークは笑った。

 洞窟の外も、すっかり暗くなった頃。
「じゃあ手筈通りに頼むぜ、シュワルツ」
「気を付けろよ」
 シュワルツ達に見送られながら、ディークとイリスは再び谷の方へと向かった。
 ただ逃げるだけでは、追手がやって来る。それに加え、まだ谷では働かされている者も大勢いる。
 ディークは、全員が助からなければ意味が無いと思っていた。
「・・・静かだな」
 自分達の口封じに失敗し、てっきりまだ探していると思っていたが、全くそんな様子は無い。こちらの動きがバレているのか。
「けど、バレてるんなら、逆に相手の動きも読みやすいって事だな」
「凄い発想ね。貴方の頭の中がどうなっているのか見てみたいわ」
「見るなら一億金もらうぜ。行くぞッ!」
 物陰から出て、駆ける。番兵を、気付かれる前に気絶させていく。
 逃げ出した者から聞いた話では、坊主頭の男の後ろに見えていた洞窟は、自然のものではなく、爆薬を使って空けたものだという。
 爆薬を使っているのだから、魔術師はいない。魔術師がいるならば、一発で穴は空く。爆薬など比ではない。番兵と、あの坊主頭の男を押さえてしまえば勝ち目はある。
「邪魔するなあっ!!」
 番兵の繰り出す槍を片手で掴み、それを支えにぐるんと回り、飛び蹴りを喰らわせる。
「おを?!」