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仕事伝説 ―コンビ誕生!!―

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 ディークには、イリスが何処の国からやって来たのか、見当は付いていた。ただ、訊かないだけで。
「お偉いさんの考えるこたぁ、良く分かんねぇもんだな」
「・・・良く笑えるわね。その能天気さには感服するわ」
 深いため息を吐くイリス。
「いや、どっちにしたって、そいつらはやって来るんだろ?あたふたするよりも、どっしり構えて〝ようこそ~〟って言ってやった方が良いじゃねえか」
「貴方、馬鹿ね」
「はっはっ、それは誉め言葉として取っておくぜ」
 少しだけ、イリスが笑った。笑わせる事が出来たのだから、ディークはそれでいいと思った。が、イリスはすぐに真面目な顔をする。
「ディーク。一つだけ、訊きたい事があるんだけど」
「あん?何だよ改まって」
「貴方・・・・・・フュウ・トリフェスとどういう関係なの?訊こう訊こうと思ってたのよ。王族の彼と、たかが仕事屋の貴方と、何処に接点があるの?」
 フュウ・トリフェスとは、イリスが国を裏切るきっかけとなった、ある公国の皇太子だ。
 今、彼が生存しているかどうかは全く分からないが。
 イリス曰く、フュウがディーク・ローを頼れ、と言ったらしい。イリスは、おんぼろの家に住んでいる男と、かたや豪華な屋敷に住む男では、身分の差がありすぎると思っているようだ。確かに身分の差はあるが――。
「ん~・・・・・・それは話が長くなるからパスする。お前が素性明かさないように、俺も切り札を明かしたくないってのが素直な意見だ」
「それで私が引き下がるとでも――」
 イリスが詰め寄ろうとした時だ。
「仕事屋、ディーク・ローさんでいらっしゃいますか?」
 人の良さそうな小太りの男が、召し使いを従え、にこにこして立っていた。
「仕事をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか」
「仕事・・・・・・」
 歩くだけで、福が寄って来た。

 男は橙色のベレー帽を被り、橙色の絹織物を身にまとい、橙色の大きな宝石の付いた指輪を嵌めていた。豊かの象徴と言わんばかりに、橙色尽くし。
 おんぼろの下町には、おおよそ似合わない恰好である。動く身代金という言い方が良く似合うのでは無かろうか。
「いやはや、探しました。ああ、暑い暑い」
 召し使いが扇ぐよりも早く、ぱたぱたと自分の橙色の帽子で扇ぎ出す男。
「おっと、申し送れました。わたくしは、ラース・ボイル。この国では、まあまあ儲けのある商人と申しましょうかな」
「どうも。あ、こいつはイリス・バルト。俺と組んでます」
「成る程、貴方の同業の方でしたか。お美しいから、奥方かと思った」
「違います」
 金色の歯を輝かせながら話すラースに対し、即答のイリス。
(・・・少しは動揺してくれよな・・・・・・)
 即答は、男として悲しいものがある。だが、ここで「いやあそうなんですよ、わはは!!」と言ってしまった後には、自分の血を見る事は間違いなさそうなので、黙っておく。
「御用件は?」
「おっと、そうでしたな。積荷を運んで頂きたい」
 仕事屋に来る依頼では、ポピュラーなもの。ポピュラーではあるが、それほど大変な仕事だから依頼される、というのが実状だ。
「そう大きな物ではありませんが、少し重いですね。それと、丁寧に運んで頂きたい。
 傷付き易い物なので。四日で、目的地へ運んで頂いて、報酬は三千銀と考えておりますが・・・いかがですかな?」
 銀(ぎん)というのは、この国で使われる通貨。因みに五十銀で一金(きん)という値の貨幣となるが、庶民の身では、五十銀も稼ぐ事が難しい社会である。三千銀というのだから、かなりの大金だ。勿論、今まで受けてきた依頼の中では最高額の報酬。
「やる!!やります!!それ位お安い御用!!」
 ラースへ噛みつかんばかりに叫ぶディーク。
「おお、それは良かった。では、場所をお教えしましょう」
 ラースは羊皮紙の巻物を広げた。この国の地図だった。
「ここから二つ街を隔てたところ・・・エイルの谷という所です。そこまで運んで頂ければ、向こうに受け取りの者が待っておりますので。荷は、お手数ですが、我が屋敷に取りに来てもらえますかな?」
「分かりました!!明日の早朝、荷を取りに来て、すぐ出発します!!!」
 ディークの瞳に、炎が揺らめく。漢(おとこ)として、燃えている。
「では、我が家の場所もお教えしておきましょうか」
「いや、大丈夫です!!ラースさんほどの屋敷なら、すぐ分かります!!!」
 そう、この国で屋敷と言う名が似合う建物など限られている。この近くなら尚更だ。
「そうですか。では、わたくしはこれで」
 一礼すると、ラースは召し使い達を連れ、ディークのおんぼろ家から出て行った。
「くあ~~~~~~~~っ!!!やった!!!大金いただきだぜ!!!さようなら借金くん!!俺はやるぜ!!!好機(こ・き)く、くるくれこよ!!!」
 意味不明な言動、奇声を発しながら、ディークは家の中をぐるぐると回る。怪しい儀式を執り行っているように見えなくも無い。
「ディーク」
「ぽぽーっ!!!ん?何か言ったか?イリス」
「悪いけど、私はこの仕事を受けるの反対よ」
 半ばげんなりとしながら、小さく手を挙げ、告げるイリス。
「何だよ。あんなに仕事したがってたくせに」
「それとこれとは別。この仕事、きな臭いと思わない?積荷はそう大きくないのに重くて、傷付き易い。額が大きいのは、まあそれほど繊細な積荷なんだろうけど」
「それがどうした?重要な物なら、大きさとか重さとか、距離とか関係ないぞ。普通だと思うけどな、俺は」
 ますます、イリスの顔がしかめっ面になっていく。悟れ、と言わんばかりに。
「そんな大事な物を、まだ駆け出しの仕事屋に任せるかしらね。依頼人と目的地にも問題があるわ。先刻(さっき)話したでしょ?」
「それが、何か?」
「だから!!豊かな資源が眠っている所がエイルの谷で!!そこを押さえているのがラースだって言ってるのよ!!」
 珍しく、イリスが声を荒げた。とことん思考の足りないディークに、苛立っている。
「・・・イリス。それを証明するものが、何かあんのか?」
「――え」
 口を閉ざすイリス。動揺し、年相応の表情が露わとなる。
「お前がそういう仕事をしていたって、分かって言ってるんだ、俺は。
 いいか、どんな仕事だろうが、依頼主を疑っちゃ仕事にならねぇ。どんな仕事で蔑まれようと、その仕事をやり遂げる。それが仕事屋だ。俺はそう思ってるぜ」
「――――・・・ごめんなさい」
 顔を伏せ、イリスは呟いた。そのまま家を出て行こうとする。
「イリス、何処行くんだ!」
「ちょっと、頭冷やしてくるわ。夕方には戻って来るから、心配しないで」
 イリスは微笑むと、さっといなくなった。少し、悲しげな目をしていた。
(言い過ぎた・・・・・・か?)
 俗世に下りた彼女は、まだ分からないのかもしれない。人とどう接し、どう生きていけば良いのか。
「・・・って待て。あいつまだ、ここの地理に明るく無かったよな!?!」
 今日は道案内をするつもりだったのを、忘れていた。
 下手をすれば、戻って来られない。いや、戻って来られないのを良い事に、イリスは何処かへ行ってしまうかもしれない。
「イリス~~~ッ!!!」