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仕事伝説 ―コンビ誕生!!―

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 その昔、大国の元・諜報員と、自称・伝説の仕事屋が居た。
 仕事屋というのは、〝殺し〟以外なら何でもやる、いわゆる何でも屋。
 その中で、どんな困難な仕事であろうと必ず解決すると言い放った、とんでもない男が居た。
 ある意味で、伝説級のその仕事屋の名は、ディーク・ローと言う男性。
 手が付けられないそんな男と手を組んだ大国の元・諜報員は、イリス・バルトと言う女性。
 これは、そんな二人が組んで間もない頃のお話・・・。

 巨大な砂漠を中心に、複数の国が点在する、ザウンマルク大陸。
 北から南はブライツ王国、東にベルク共和国とザクマン共和国、ケルテ王国。
 その中のベルク共和国、首都・デフツは、下町にぼろぼろの家が建ち並び、治安も悪い。しかし、そこに住む人間は多い。産業が発達しておらず、余り裕福な国ではない。
 その下町。おんぼろの一軒家。ぎしぎしときしむ、今にも壊れそうなベッドから、女性がひょいと降りた。暑いこの国の気候に合わせた、七部丈のスカートと、七部袖の服をまとっている。
 肩より少し下まで、伸ばした金の髪。前に垂れていたその一房を、片手でさっと後ろに払う――そんな姿だけでも、目を遣ってしまうほどの白い肌。冷やかな青い目は、宝石でも埋め込んであるのではと思わせるほど。髪も肌も目も、西や北に見られる人の特徴だ。
 すらりと伸びた長身を、ぐっと伸ばす。
 そして彼女は、これまたおんぼろなソファで眠っている男の方へ歩を進めた。
 今日に限って、彼はお寝坊さんのよう。短く調えた茶髪が、所々はねている。好都合だ、と女性は笑った。
「ディーク」
「んあ・・・?」
 微かな返事。まだ目覚めていない。ますます好都合だ。
 ざくっ。
「・・・・・・」
「起きた?」
「にょほひっ!?!」
 次の瞬間、男の声とは思えない、奇声が下町に響き渡った。

「何しやがるイリス・・・ッ!!殺す気か?!」
 慌てて跳ね起き、茶髪の男は叫んだ。
 彼の枕には、刃渡り二十センチほどの短剣が突き刺さっている。金髪の女性が、不意討ちでやったものだ。勿論、わざと。
「早く起きないからよ」
「いや・・・もちょっと普通の起こし方を・・・」
「あんまり無防備に寝てると、寝首掻かれるわよ」
「お前はそういう職場だったかもしれないけどなあ・・・」
 薄汚れた半袖の服から見える、日焼けした逞しい腕をさすりながら呟く男。どうやら、鳥肌が立ってしまったようだ。
 そんな彼が、ディーク・ロー。自称・伝説の仕事屋である。
 とはいえ、仕事屋となったのはほんの二年前。普通なら、伝説を名乗るなどしない、普通なら。
 使うものは己の拳と足のみ。それ以外の武器は使わない。
 かつては傭兵として剣を振るっていた身ではあったが、今は皆無である。
 そして、金髪の女性、イリス・バルト。
 ディークから詳しく訊ねた事はないが、彼女曰く、元々ある国の情報機関に属していたらしい。
 任務に失敗し――国を裏切り――、負傷したところをディークに匿われた。そしてそのまま、手を組む事となった。それも、ほんの一ヶ月前の事。
 大人びてはいるが、イリスは十六歳。ディークは十九歳である。が、精神年齢はどちらが高いか、一目瞭然。
「お、そういやお前・・・もう、大丈夫なのか?」
 目の前に立つイリスを見、訊ねるディーク。
 一ヶ月前、ここにやって来たイリスは、助からないのではと思うほど、怪我が深く、衰弱していた。しかし、今はそんな風だったとは全く見えない。
「ええ、全快。ヤブ医者みたいな魔術師にかかった割にね。彼、良い腕してるわ」
 にっ、とイリスは笑った。不敵な笑み、というのが似合っている。
「・・・あいつが聞いたら悶絶するぜ。怒って良いのか喜んで良いのかってな」
 ディークは少し、いや、とても怪しい医者兼魔術師の男を頭に思い浮かべた。
「で、手を組んだからには私も仕事したいのだけれど、次の仕事は入ってるのかしら?伝説の仕事屋さん?」
「いやーそれがな、予定は全然無い!」
 ――沈黙。
「・・・ねえ、それ、威張って言う事?良く今まで、怪我人だった私の分まかなえたわね」
「はっはっ、ほめろ!!」
 今の状況でどう誉めろと言うのだ、とイリスがじっと睨みつける。
 だが本当に、これまで仕事があったという事が奇跡だった。
 伝説の仕事屋とは言っているが、無名なのには違いないのだ。
「ディーク、帳簿ある?」
「帳簿・・・・・・あるにはあるけど、全然書いてないぞ」
 ぴき、と何かが割れた音がした。
「――いくら俗世から離れた次元で働いていた私でもね、帳簿というものがどんなものかは知っているわ。そういう発言は、夢の中でしなさいよ!!」
 彼女の得物・ナイフが、ディークの喉下に突きつけられる。
「わ、わ、分かったよ、イリス。だからナイフをしまって・・・ぐえ!?」
「組む前に言ったけど、もう一回条件を言うわ。良く聞きなさい、ディーク。仕事探しは私がやってやるわ。付け加えで、帳簿管理も。貴方は肉体労働。きりきり働くのよ」
 イリスの目は、本気だった。ここでいいえと言えば、天国へ逝ける折り紙付きである。
「わ、分かった。頼もしいぜ、相棒」
 乾いた笑いしか、ディークは出来ない。本気で笑ったら、ナイフが刺さる。
 全快してくれたのは嬉しいのだが、こう脅されるならば、大人しくベッドで寝ていてくれた頃が一番良かったと思う。
 ようやく、ナイフが喉下から離れた。
「それから、もし破産したら、私はここからとんずらする。肝に銘じておいてね」
「・・・・・・ハイ」
 どうやら、イリスは自分の本業を辞めたつもりは無いようだ。元々居た機関には戻れないとはいえ、裏業界に入れば、いくらでも就職口はある事だろう。
 だが、個人的な意見としては、もう彼女には、その道に戻って欲しくない。
 痛いほど、イリス自身も分かっている事だと思うが。
(ここは、こいつの言う通り頑張って働くしかないか)
 しかし半分は、自分から役を買って出てくれたのは有り難いと感じていた。

 昼になってから、ディークとイリスは、外に出た。
 ディークが、仕事を探しながら町を歩こう、と提案したからだ。
 イリスはまだ、この町がどんな所かを良く知らない。遅まきながらの案内といったところだ。尤も、観光の目玉なんてものは無い、貧しい国なのだが。
「すっごくぼろぼろな国だろ?イリス。国のほとんどは、こんな感じだ」
「・・・そうみたいね。でもそれは、豊かな資源が眠っているのを知らないだけだわ」
「・・・そうなのか?」
 目をぱちくりさせるディーク。この国の住人だが、そんな話は聞いた事が無い。
「確かな話よ。武器を造るのに必要な鉱石が、この国には沢山ある。この国の有力者が、その場所を押さえていると聞くわ」
「有力者・・・ねぇ・・・・・・」
 まさか、他国の人間から自国の裏情報を聞こうとは。これではあべこべである。
「ああ、ごめんなさい。もう、この話は仕事に関係なかったわ」
「昔なら、関係あったのか?」
「まあ、ね。いつかはこの国に、重武装の軍隊が押し寄せてくると思うわ」
 それがどういう事か、それ以上イリスは言わなかった。