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仕事伝説 ―いざ、伝説へ!―

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 良くそんな事が出来たな、と同時、何故彼が馬を持っているのだろうと、思った。
「それよりお前・・・。怪我はいいのか?酷く出血してただろ」
 あれから止血はしたものの、改めてちゃんとした手当てはしていなかった。
「大丈夫・・・。そうでないのは、もう帰らない魂の方よ」
 かつては自分の仲間だった、追っ手達。失敗すれば、死を選ぶ。
 ああいう風にプログラムされた人間なのだ。勿論、裏切った自分も、もう死んでもいいと何度思い、口に出したか分からない。
「スパイは闇に生き・・・闇に死す。・・・・・・人に知られないまま、いつの間にか死ぬ・・・・・・。私は、もう、そんなのは・・・御免ね」
 ざ、と砂の音がした。慌てて後ろを振り返れば、イリスが落馬していた。
「イリスッ!?馬鹿野郎!やっぱり無理しやがって!」
「無理は・・・・・・してない、つもりだったんだけど・・・・・・っ!」
 苦しげにしながらも、自嘲するイリス。下が砂であったとはいえ、おそらく傷口が開いただろう。
「言い訳はするな!お前、また死にかけるかもしれないだろーが!!」
「・・・ふ、それも、そう・・・ね」
 ディークは彼女を抱え、馬に乗せようとした。・・・と、何か巨大な影が、彼らを覆った。
「な、何だ・・・?・・・ティルか!?」
「やぁ、ディーク。・・・それにしても、やっぱり私の馬を盗んだんだね、彼女。召喚術は、無駄に力を使うんだから」
 巨大過ぎて、間抜けな顔のオウムに乗った魔術師、ティル・バリーはそう言った。
「疲れるから、移動手段が馬なのか?もしかして」
「その通り♪いやぁ、まさか彼女に、鳩尾に拳喰らった位で気絶してしまうとはねぇ。
 さぁ、イリスをこっちに乗せて。向こうに連れて帰って手当てしよう」
 うなずき、彼女をゆっくりとティルに預けたと同時、オウムが翼を広げ、上昇し始めた。
「えっ!?お、おい!!俺は乗せてくれないのかよ!?」
「こいつは定員二名様だよ。君はその馬を、無事に私の家に届ける役目があるじゃないか。頼んだよ―――っ」
 きらーん、というこれまた間抜けな音を残して、彼は一直線に去って行った。
「卑怯者ぉぉぉ~~~~~~~っっ!!!」
 ディークの虚しい声が、砂漠の真ん中に響き渡った。

 イリスが目を開けると、この間のようなぼんやりとした光景が目に入った。
「よう、気が付いたか」
「ディーク・・・?」
 半身を起こそうとしたが、起きるなと言われてしまい、渋々それに従った。
「なあ、スリルのある依頼って面白いな。・・・なるべく厄介事から身を避けようと思ってたけど、国家間の運命が掛かった依頼とかがこんなに誇らしい事は無いって、思ったぜ」
 イリスはやっと慣れてきた目で、ディークを見た。彼の目は輝き、遠くを見つめていた。
「何せ、俺がやる事で、国の興亡が決まるんだからな」
「・・・・・・自分が、殺されそうに・・・、なっても、かしら?」
「ああ。・・・俺は伝説になるんだ。いつか、語られるような立派な『仕事屋』に!」
 そして、彼は床に就いているイリスに言った。
「なぁ、イリス。行く当てとか無いんなら、俺と仕事しないか?殺しは無しだが、損はさせない。絶対だ」
「――――いい、わ」
 肯定すると、ディークは彼女の肩をむんずと掴んだ。
「ほんとか!?」
「但し、条件。一つ、損をさせたら私は逃げる。一つ、仕事は私が決める。一つ・・・、まだ傷痛むから、肩を揺らす手を離す事」
 ディークははっと我に返ると、イリスの肩を掴んでいた手を離した。
「分かったよ、イリス」
「じゃあ、よろしく頼むわね、『仕事屋』さん」
 小さく出された手を、ディークは握り返した。