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仕事伝説 ―いざ、伝説へ!―

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 満月が、神々しい光を辺りに照らしている。それを綺麗、と思えるようになっている自分に苦笑し、イリスは歩き出した。自分の国に、戻る。そう決断していた。
 ふと、足を止めた。そこには月光を背に、ディークが立っていた。
「よう」
「・・・いやだ、気が付いていたのね。――――貴方も、来るつもり?」
「ああ・・・」
 イリスはナイフを引き抜こうとした。彼を危険な目に遭わせたくは無かった。これまでも確かにそうであったが、今度は自分の問題である。
「貴方には関係が無いわ。そこ、どいてくれる?」
「まぁ待てよ。ちょっとお前に言わなきゃならない事がある。今まで黙ってたんだが・・・・・・」
 彼はそう言うと、背中に隠していた右手をぶん、と振り下ろした。
「あ・・・・・・」
 思わず、声を漏らす。
 かつてイリスは、彼の持っているそれを、見た事があった。
 足から肩位まである長剣。それは、フュウと同じ物。
「どうして・・・貴方が――――」
「・・・やっぱり、見た事あるんだな。これは、あいつと同じ剣だ。リクナスの戦いを知ってるか」
 うなずく。その戦いで、無敵と名高いブライツ軍は敗れていた。
「フュウが『メイス』の同僚を、何人か倒したって聞いたわ。〝恐れぬ獅子〟。そう、彼は機関で呼ばれていた」
「ああ。・・・俺も、その戦いに参加したんだ」
 それがどういう事か、イリスはすぐには分からなかった。
 フュウと同じ剣を持ち、リクナスの戦いに参加したというディーク。
 彼は『仕事屋』をする前、何をしていたというのか。
「貴方・・・・・・、もしかして、軍人だったの?」
「んー、近いな。傭兵だったんだ。で、あの戦いであいつに初めて会った」
「・・・まさか」
 乾いた声で、言う。それでは、もしかして――――。
「・・・ああ。『メイス』の人間は、半分は俺が倒した。つまり、〝恐れぬ獅子〟とは俺とフュウ、半々だったってワケだ」
 言葉を失う。殺し以外なら何でもやるという今の彼が、手を血で染めていたというのか。しかも、以前は自分の敵であったという事になる。
 ――――信じられない。
「その時の戦いは凄いモンだった。嫌になって、俺は傭兵を辞めた。この剣を手にするのも、久しぶりになる」
 言葉の出ない彼女に、ディークは言った。
「今度手にする時は、何かでかいものに当たる時だってな、そう決めてた。――――それに・・・・・・」
「それに?」
 ようやく、イリスは口を開いた。
 その言葉に、ディークは恥ずかしそうに言った。
「なぁ、覚えてるか?俺がお前に言った言葉」
「どの言葉?」
「〝俺のやる事で、国の興亡が決まる〟ってな。――――今が、それを確かめる、いい機会なんじゃねぇかと思ってよ」
 イリスは虚を突かれた。確かにそう言って、彼は『伝説の仕事屋』と名乗り始めたのだ。
「まさか、ブライツ王国自体を、崩壊させるつもりなの!?貴方って人は・・・・・・」
「別にそこまでは言わないけどよ、あのオッサンが占領した国の所だけでも、元に戻してやろうかと思ってな」
 生真面目に言うディークに、イリスは笑った。大声で。
「おい・・・、笑う事は無いだろ?」
「本当にあの時言った事を、やろうとしているなんて、思わなかったのよ。・・・そう、ね。
 貴方が何処まで強運の持ち主か、見届けてあげる」
 最早関わらせない訳にはいかないようであるし、イリスは見てきたのだ。最悪の事態に陥った、語り尽くせないほどの依頼を、その度に乗り越えてきた彼を。
「よっし、じゃぁ、行くか!イリス!」
(全く、仕方ないわね)
 うなずいて、彼女はもう一度月を見上げた。決意して、言う。
「・・・絶対、死なないでよ」
「お前もな」
 ディークは固く誓った。こんな事で死ぬ訳にはいかない。イリスも、死なせない。
 自分は、『伝説の仕事屋』なのだから。