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仕事伝説 ―いざ、伝説へ!―

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 それならば定魔名を掛ける際、付加しておく呪詛にも納得がいくが、訊く必要は無い、とディークは思った。
 彼女が話そうと思った時に、聞いてやればいい。
「おにいさん、どこにいくの?」
「隣国、ザクマン共和国だ。お嬢ちゃんの父さんの、知り合いが居る。彼は忠義心厚いからな、守ってくれる」
「う~・・・。ねぇ、おじょうちゃんってやめてくれる?レティシアって、なまえでよんで」
 歯痒さを覚えたのか、レティシアはそう言った。
「いや、呼び捨てにしていいか分からなかったからなぁ」
 高らかに笑い声を上げると、彼女もディークにつられて笑い出した。
 しかしディークは急に笑うのを止め、彼女を片手で抱え、走り出した。
「きゃぁぁっ!!どうしたの~~~っ!?」
 揺らされて声が変になるレティシアに、ディークは言った。
「あの時の追っ手だ!監視していたらしい、俺達に尾いてきやがった!!」
 馬に乗り、短弓を向けて放ってくる者達と、魔術師が一人。彼らに背中を向けたまま、勘だけで矢と攻撃魔術を避ける。
「なんて奴らだ・・・!砂漠で馬を駆るだなんて、普通出来ないぞ!?」
 このまま隣国まで行くのは不可能だ。ディークにも限界があるし、何処で矢に当たるか分からない。しかし良く考えれば、彼らはレティシアだけを狙っていただろうか?
(まさか・・・、イリスの方にも・・・!?)

 ディークが憂いた通り、ティルの家にも、侵入者が二人ほど居た。
「〝ティル・バリーが名に於いて、汝等を炎上、破壊するものとする――――爆裂〟!!」
 短い詠唱と共に、彼の身体が火を噴き、侵入者達に飛び火した。彼らの火は燃え上がったが、ティルは火を噴いた以外、何とも無かった。
「〝汝等の魂よ、救われる事願う〟」
 最後の詠唱を唱えると、侵入者達の身体は、灰となって消えた。
「・・・・・・また、性懲りも無く・・・、来た、のね」
 女の声に、ティルは振り返った。イリスが、彼の張った結界の中から声を掛けてきた。
「気が付いたんだね。気分はどうだい?」
 安全を確認して結界を解くと、彼はイリスに尋ねた。
「悪くはない、わ。怪我さえ・・・除けば」
 まだ重傷には変わらない。左脇腹を抑えながら、彼女は言った。
「ねえ、魔術師さん。――――お願いが、あるのだけれど」
 小さな声で言った為、彼はイリスの方へと近付いた。
「しばらく・・・、寝ていて」
 その時イリスの拳が、ティルの鳩尾を、確実に突いていた。

 もう駄目だと思いかけた頃、相手の矢が尽きた。
(しめたっ!!)
 魔術師さえ警戒すれば、まだチャンスはある。そう思っていた時、何かを抜く音がした。きらりと光るそれは、湾刀。近付いて、直接自分達を斬るつもりだ。
「じょ、じょーだんじゃねぇひょぉ~~~~っ!!」
「こわひぃぃ~~っ」
 二人の悲鳴が交錯しては、砂漠の彼方へ消えていく。馬に追い着かれた、その時!
「ディークッ、――――伏せなさいっ!!」
「何だって!?」
 その声にディークが慌てて従うと、馬は踏みつけるどころか前足を上げ、踏み止まった。
「リュカス・ウェッジ!!馬鹿な!?」
 一人が、そう叫んだ。彼らの目の前に、馬にまたがった、イリスが割って入った。
「〝ウェッジ、汝の身体、固まれ〟!!」
 仲間の一人である魔術師が、彼女の前の名字を呼んだ。おそらく、定魔名の呪詛の一種。 
「効かないだと!?まさか姓まで・・・っ!?」
「残念。その人間はもう居ないわ」
 だが、彼女の身体は固まるどころかナイフで空気を割き、魔術師の胸を突き刺した。
 しかし、二本目は別の男を狙ったが外れ、イリスは舌打ちした。
 ディークははっと気付いた。イリスの服は、赤く染まっていた。左脇腹が。
(あいつ、傷口が開いてる!?無理しやがって!)
 レティシアをその場に残し、乱闘と化している方へと走る。
「退けえぇぇぇっ!!」
「何だと!?」
「馬鹿っ、逃げなさい!」
 こうだと決めたら、どうでもいい!不安定な砂を蹴って跳躍し、一人の馬を乗っ取った。
「おおおおっ!!」
 雄叫びを上げ、彼は無我夢中で拳を振るった。相手に反撃の猶予も与えずに。元々傭兵の彼は、鍛えられたその身体が、凶器であった。何人もの男達が、吹き飛ばされる。
 気が付くと生きている者は、イリスとディーク、レティシアの他、居なかった。イリスが倒した魔術師以外、捕らえられるのを恐れたか、全員自害して果てたからだった。
「・・・なんて、馬鹿なの」
 それはディークに対してか、以前は同僚であった、既に息絶えた者達に向かってか、イリスはぽつんと呟いた。

 数日後。隣国ザクマン共和国へ辿り着いた。
「・・・頼む、あいつの子供を、助けてやってくれ」
 昔自分と共に戦ったフュウの旧友に、ディークはレティシアを匿ってくれるよう頼んだ。
「いつか、ここもあの国に攻められる。・・・だが、その時はあの子が旗印だ。負けはしない。必ず、彼の国を復興する」
 初老の旧友は、あごひげをさすりながら承諾し、そして言った。
「そしてその時、全てを知るだろう。父親がどういう死を遂げ、国がどう滅んだか」
「その時は、きっと私も責めるんでしょうね。どうして父を助けなかったと」
 レティシアから離れて、やって来たイリスがそうぼやいた。
「フュウがそう言ったと伝えても、きっと信じないわ」
 イリスが言っている事は、おそらく真実。
「大丈夫だ。何もお前が心配する事ぁねぇよ」
「公国の次期継承者、フュウの娘であるならば、現実を素直に受け入れ、父の誇りを受け継ぐだろう」
 初老の旧友が、そう言ってイリスを納得させた。
(確かにそうかもしれないわね・・・フュウ。貴方は誇り高い人だったから)
 だからこそ一人残って、自分にレティシアを託したのだ。
 もし自分の国と、この国が戦になる時、再びレティシアに会う事があったのなら・・・、その全てを伝え、彼女にはフュウ譲りの誇りで以って、この事を自らの糧としてもらいたいと、イリスは思った。
「じゃあ、帰るぜ」
「待って。・・・あのコに、言いたい事があるの」
 意を決したようなイリスに、ディークは笑って答えた。
「おう。言ってやれよ」
 彼女はうなずくと、レティシアに近付き、目線を合わせる為しゃがんだ。
「レティシア・・・、有難う。貴方が私を助けてくれって、言ってくれて」
 意識が朦朧としていた時、イリスはその言葉だけを、何故か覚えていた。必死で、彼女が「たすけてあげて」と叫んでいたのを。だから、今も自分は生きて、ここに立っている。
「・・・いままでたすけてくれたから、おれいはいいの。もうおあいこだよ、おねえさん」
「・・・そうね。おあいこ」
 イリスは自然と満面の笑みを浮かべ、うなずいた。レティシアも、また。
「よし、行くか」
 イリスが乗って来た馬の手綱を握り、ディークは言った。
「おねえさん、おにいさん、またね!!」
 ディークが合図したと同時に、馬は走り始めた。砂漠へと通じる、その荒野を。

 馬で駆けながら、ディークはイリスに尋ねた。
「なあ、ちょっと思ったんだが、この馬、お前のか?」
「いいえ。・・・ティルとか言う、魔術師の家に有った馬」