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仕事伝説 ―いざ、伝説へ!―

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 ディークは仕事を終え、おんぼろの家へと戻った。既に、空は暗闇に覆われていた。
 ふと足を止めた彼は、風に乗って運ばれてくる、何かの臭いに気付いた。
(血臭か。まだ、新しい・・・)
 『仕事屋』をやる前まで、彼は傭兵としてあちこちを回っていた。血の臭いには、敏感だった。
(関係しない方が無難だな)
 厄介事は避けようと、ディークはまっすぐ自宅に向かった。だが。
「ん?」
 家の中に入って、すぐ気付く。血臭の本は、自分の家に在った。
「誰か居んのか?出て来なよ」
 場合によっては、その人間を追い出す。そう思いつつ、気配のする方向へと近付いた。
「来ないで」
 酷くかすれた、女の声。それでも近付こうとして何かを投げられ、ディークは頭を少し横に傾けただけで、それを避けた。
(投剣・・・ナイフか)
 女はそれを避けられ、焦燥していた。
「もう一度・・・言うわ。来ないで!」
「ここは俺の家だ。あんたこそ、ここから出て行ってもらえるか?」
 問いに答えず、女は何かにはっとなった。彼も、その方向を見た。誰かが、外に居る。
「何なんだよ、ったく・・・」
 ディークは女をそのままに、ぼろぼろのドアを片手で開けた。
「あの~、何か用なのかい?あんた」
「ここに女は来なかったか」
「女ぁ?」
 ディークは低く言う男の問いに、とぼけるように返した。
「あっちに行きゃ、いっぱい居るぜ。女には不自由してないし、行った事は無いがよう」
 酒でも酔っているかのようにディークは話し、終いにはかかか、と高笑いを浮かべた。
「ならいい・・・・・・。酔っ払いはさっさと寝てろ」
 男が去ってしまうのを、へらへらと片手を振って見送ると、彼はドアを閉めた。
「さて・・・ありゃりゃ・・・!」
 物音に振り返ってみると、来るなと忠告していた女が、うつ伏せに倒れていた。まるで、男の居なくなったのを見届けたかのように。
「おねえさん!!」
 幼い少女の声がして、ディークは視線をそちらに向けた。

 ぼんやりとした世界が、辺り一面に広がっていた。良く見えない。もう少し、目を開けてみた。しかし今度は眩しくて、彼女は目を細めた。
「よう、目が覚めたか」
 彼女はその声に跳ね起き、すぐに呻き声を上げた。
「寝てろよ。あんたの武器は手元に無いし、その怪我じゃ、まず立てないさ」
「あなた・・・誰?」
 彼女は怪我に喘ぎながら、尋ねた。
「そーいうのは、あんたの方から言うもんだろ」
 ディークは、半身を起こした彼女に言った。彼女は吐息を漏らし。
「リュカス・・・ウェッジ」
 ぽつり、と小さく名乗った。
「何処から来たんだ?」
「そういうのは・・・・・・、あなたが・・・、名乗ってからに・・・して、くれる?」
 傷の痛みに耐え切れなくなってきたらしい。彼女の顔が、しかめっ面になっていた。
「そうだな。俺はディーク・ロー。『仕事屋』だ」
「ディーク・・・!?は、まさか・・・!」
 そう言うとリュカスはずるずると、半身をベッドに預けた。
「・・・目当ての本人に・・・・・・こう簡単に・・・会えるとはね・・・」
「何だ。俺に用があったのかよ。それなら、そう言えば良かっただろ」
「そういうわけには・・・・・・いかなかったの・・・よ」
 それだけ言うと、彼女は目を閉じた。どうやら、意識を失ってしまったらしい。
(こうなりゃ、あのお姫サマが目を覚ますまで待つしかないな)
 リュカスと共に居た少女。彼女はリュカスがベッドを占領している為、ソファで規則的な寝息を立てていた。

 あれからどれ位寝ているのだろうかと、ふと彼女は考えた。浅い眠りに戻りかけていたが、このままでいたいとも、思っていた。しかし次の瞬間、彼女は強制的に起こされた。
「ば、馬鹿やろ~っ!!暴れるな、このぉっ、あ、そこ抑えててくれよ。女のくせに、なんつー力だ・・・ってうわおぅぅっ!!?」
 男――――ディークの叫びが聞こえ、物凄い音が辺りに響き渡った。
「・・・・・・下手くそな、手当てね・・・っ!」
 リュカスは顔を歪めながら、ゆっくりと半身を起こした。
「おねえさん、ねてないとだめ」
 自分が連れてきた少女が、そう言ってリュカスを制した。ふと見ると、負傷した左脇腹に、何かの薬が塗られていた。これが、せっかくの眠りを妨げてくれたものだろう。
「何すんだ!?せっかく手当てしてやってるのに、痛いからって暴れるなんてな・・・!?」
「これ位・・・、自分で・・・出来るわ。しばらく、外に行ってて」
「何でだよ」
 ふとした疑問を、ディークは投げかけたつもりであったが。
「貴方、変態?」
 そう言われては立つ瀬が無い。彼は少女を連れ、家の外へと出た。
「なぁ、お嬢ちゃん。ほんっとに、あんな女に守られて来たのか?俺は信じられない」
「おねえさんは、とてもやさしいよ!わるいひとじゃないもん!!」
 ディークは事の次第を、少女から聞いていた。リュカスがこの少女――――レティシアを守り、この国に来た事を。どうやら少女の命を狙う者が居て、彼女がそれから守っていたようであったが、さすがにレティシアが幼い為、詳しい事は訊けなかった。
 時間を見計らってレティシアに様子を見に行かせ、手当てが終わったと分かると、彼も家の中へ戻った。
「あんたの名前はもう聞いた。年はいくつだ?」
「――――十、六」
 臥せった状態で腕を組みながら言うリュカスに、ディークはぶっ、と吹いてしまった。
 落ち着き過ぎていて、十六とは思えない。
「お、俺より三つも下かよ・・・」
「悪い?もっと年下だって・・・、機関には、居た・・・わ」
 口をぱくぱくさせたままのディークに、彼女は続けた。
「特殊潜入機関。簡単に、言って、しまえば・・・・・・、スパイの、事」
「んじゃぁ、この子を守っているのも、その任務の途中って事か?」
 しかし、リュカスは首を横に、小さく振った。いいえ、と。
「・・・詳し・・・くは、教えられないの。ただ、一つ、言える事は・・・、私が・・・、任務を放棄して・・・、このコを守って、ディーク・ローに・・・会えって、言われて来た・・・って事」
「誰に?」
「・・・フュウ・トリフェス。・・・このコの、父親よ」
 ディークは、彼を知っていた。かつて共に、大きな戦で戦った。彼は長剣使いで、かなり腕の立つ、ある国の元首の息子であった。
「って事は、ほんとにこの子はお姫サマで・・・、あいつの娘か」
「あの国は、もうすぐ滅びる・・・。私は、そこに、潜入していた・・・スパイだったから」
 ここに来る前、何を彼女は見たのだろう?何か深く考えるような、少し悲しげな顔。
 おそらく、リュカスが仲間を裏切った要因は、フュウが握っているのだろうが・・・。
「で、俺に会って、それからあんたはどうしたいんだ?」
「――――っ!!」
 急に、リュカスがベッドの上で、びくん、と跳ねた。まるで釣り上げられた魚のように。
「お、おい。どうしたんだよ?」
 左胸を抑えて苦しむ事は、今まで無かった。その箇所に、傷も負っていない筈だ。
「・・・・・・っ、ま・・・ずい、わ、ね・・・・・・」
 吐く息に混じって紡がれる言葉は、とても小さい声であった。
「まずいって、どういう事だ?」