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仕事伝説 ―自称する男―

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 襲撃後の朝。二人は、昨夜の件を話さない事にした。もしこれで運搬人達がパニックに陥り、逃げてしまえば元も子もないからだった。
 ――――そして今、彼らは砂漠の道を再び歩んでいる。
「そういやイリス。お前ナイフを投げたよな?」
 イリスは、あの時ナイフを投げ、覆面に不意打ちしていた。呻き声が聞こえたという事は、それが覆面の誰かに当たったという事だ。
「ええ。後方に、私のナイフを持った奴が居たわ。手首に当たったみたいね」
「血の痕とか無かったもんな・・・・・・何処に行ったんだか」
 血痕を残さずに退却したのだ。かなりの手練だろう。
「辺りは砂漠だから、オアシスの中に居たのかもしれないわ。砂漠にがむしゃらに逃げたって、死ぬだけだもの。特に夜はね」
 砂漠は、昼と夜では全く気温が違う。何の準備も無ければ、死にに行くようなものだ。
「う~ん・・・・・・。もう失敗したから来ないんじゃないか?」
「それはないわ。あれを得ずに逃げ帰る事だけは、したくないはずよ」
 そう言って持ち場に戻ったイリスは、奇妙な点に気が付いた。昨日までは、何とも思わなかったが。
 運搬人達の手首に巻かれた、包帯らしき布。全員が、両手首にしていた。
 冷ややかかな目で、彼女はある運搬人を見つめた。彼は、片手で荷を持っていた。
 もう片方の手は、何も持っていない。
(気のせいなら、いいけど・・・・・・)
 ため息を吐き、イリスは彼から視線を外した。

 再び、日が暮れ始めた。目標のオアシスまでは行けそうにもない。その場にテントを張る事となった。
「あー、こんな所で野宿か」
「夜中動くのは危険って、分かってるでしょ」
 砂漠のような場所に行くには、集団の方がいい。場慣れしている人間でなければ、独りでは赴けない。
 もし、また襲撃された時の事を考えると、危険だが・・・・・・。
「おい、兄ちゃん、姉ちゃん」
 先日、二人のケンカに水を差した運搬人が、テントから声を掛けてきた。
「済まんなぁ。大変だろ?」
「いや、仕事だしなっ」
 軽く、ディークは笑った。独りでやっていた頃、不眠不休はしょっちゅうだったのだから、まだましだ。
「ほれ、差し入れだ」
 彼は茶を二人に渡し、言った。
「あとちょっとだ。頼むぜ、兄ちゃん」
「おう。――――いや~、有り難いよな~、・・・こういうのは」
 一人で感心するディークを相手にし切れず、イリスは、檻の中のゾウモドキを見た。
 立ちっ放しで、餌の草を鼻でつまんで食べている。資料にあった通り、長い鼻は便利な道具らしい。
 しかし、裏社会の人間達はどういう了見をしているのだろう。
(こんなものを人が食べても、脂肪の取り過ぎになるだけだと思うけど・・・・・・)
 後ろを振り返れば、いまだディークが感心しながら、茶を飲んでいた。
(全く・・・いつもお気楽なんだから)
 イリスは、今日こそはディークに、いつもの彼の言動について言おうと決意した。
「ディーク」
「・・・・・・ん」
 イリスの背中に、面倒くさそうなディークの声が投げらかけられる。
「あのね、ディーク」
「ん~~?」
「あのねっ!!いい加減に・・・」
 余りの脱力した声に、イリスは我慢ならなくなった。後ろを振り返る――――が。
「ぐ~っ・・・」
 彼は、櫓を漕いでいた。
「ちょっと・・・ディーク!!」
 急に眠り始めた彼に、イリスの強烈なビンタも通用しなくなっていた。いつもならこれで起きるというのに・・・・・・。しかも、かなり熟睡している。
(まさか・・・・・・)
 イリスの心(なか)で、一瞬の焦りが生まれた。だがそれを顔に出さず、彼女は渡された茶の匂いを嗅いだ。
(――――知らない薬ね。ディークが気付かない訳だわ)
 茶の香りに混じらせ、薬の匂いを消したのだろう。だが、彼女はスパイ歴を持つ。
 こういった薬の匂いは、どんなに小さくても逃さない。
 自分は幸い、飲んでいない。
 テントの方は、もう明かりがなかった。寝静まったフリをして、一人か二人は覆面の仲間が待っているのだろう。
 こうなったら、化けの皮をはがすのみだ。彼女はそう思い、寝るフリをし、テントから人が出て来るのを待った。
(・・・・・・来た、か)
 砂の音。誰かが歩いている証拠だ。その足音は、檻へと近付いている。檻に触れようとした、その時――――。
「何してるの?」
「!!?」
 イリスが起きているとは知らず、驚いた運搬人は振り向こうとした。だが彼女がナイフを首筋に当てた為、身動きが取れない。
「何処に連れて行くのか知らないけど・・・・・・それは止めてもらいましょうか」
「姉ちゃん・・・・・・そんな余裕かましていいのかい?」
 彼女に捕まった運搬人は、ケンカに水を差し、そして茶を渡した男だった。彼が笑った、その時!
 後方の殺気に、イリスは男の首筋からナイフを離し、避けた。
 彼女の周りに、運搬人だった男達。手には、湾刀を携えている。昨日の覆面達の正体。まさか全員がそうだとは思っていなかった。
「まったく、私も鈍ったのかしらね」
 苦笑し、イリスは呟いた。
「さあ、どうする?姉ちゃん。一対十じゃ、勝ち目はないぜ。諦めるか?そうすりゃ、危害は加えねぇ」
 横には、熟睡しているディークが居る。
(ディークなら、大丈夫でしょうね)
 寝ている彼を襲う事はあるかもしれないが、そう簡単に死ぬ男ではない。
 イリスは思い切って前に出た。隠し持っていた数本のナイフを取り出し、突っ切る。
「死ぬ気か、姉ちゃん!!」
 湾刀を振りかざしてくる男の目の前を、彼女は跳んだ。
「うっ!?!」
 バランスを崩させ、背中へ後ろ蹴り。更にその男を踏み台にして、他の仲間達にもフェイントを入れて攻撃する。
 イリスの戦闘能力は、かなりのもの。しかし、十人も相手にしつつ、護るのは難しい。
 隙を見た一人が、檻へと近付いてしまっていた。
 目の隅にそれが見えた途端、イリスはその男の手元目掛けてナイフを飛ばした。
「今だっ!!」
 あの男が、合図を出す為に叫ぶ。
(しまった・・・!!)
 たった数秒の出来事。彼女は網の中に捕らえられていた。
「ゾウモドキに気を取られ過ぎたなぁ、姉ちゃん。悪いが、俺達と一緒に来て貰うぜ」
 男が網の口を縛ろうとした、その時。
「ふぁ~~・・・何してんだ?」
「何っ!?」
 今の声は、ディークだ。
「ディーク?」
 どうしてだろう、彼は眠ってしまったはずだ。
「ど、どういう事だ!あんたも飲んでなかったのか、兄ちゃん!!」
「飲んじゃったさ、まさか薬入りとはなぁ。俺が『伝説の仕事屋』じゃなかったら、こう早く起きなかったとこさ」
 そう言い放つディークに、イリスはげんなりする。自称のくせに、堂々と格好つけるのは止めて欲しいものだ。
(というか、飲む前に気付きなさいよ。自称する位なら)
「ま、そーいう訳だ。かかって来い!!」
「フン・・・・・・何を言ってるんだ、兄ちゃん。姉ちゃんが殺されてもいいのかい?」
 湾刀を首筋に当てられるイリス。だがその様子を見ても、彼は動じない。彼女なら、易々とは殺されないと分かるからか。
「んじゃ、そうなったら、俺はゾウモドキを逃がす」
『な、何ぃぃっ!!?』