仕事伝説 ―自称する男―
流石にこれは止めて欲しいらしい。全員が、きれいに声を合わせて言う。
「た、頼むっ!!そんな事したら、親分に怒られる!それだけはやめてくれっ!!」
(・・・・・・なんか、セコいわね。ま・・・、いいか)
男は慌てた声で、主張する。呆れながらも、その隙にイリスはナイフで網を断ち切り、逃げた。
「ディーク、二つとも檻を開けて!」
「あっ!!いつの間に!」
男はイリスが抜け出した事を知らずに、彼を説得していたようだ。だが、もう遅い。
「ゾウモドキは、明らかに殺意を持った相手に向かっていくって書いてあったから、それを利用するのよ」
「分かった。そっちを頼む。俺は、こいつらを牽制しておくっ!!」
言うが早いか、彼は砂を蹴り、拳を握って男達に向かう。
「俺と戦おうだなんて、百万年早いっ!!」
イリスに負けぬ位の敏捷さに、彼らの湾刀は逸れ、空を切るのみだった。
ふと、彼らの攻撃が止んだ。
地響きを立て、ディークの間近に二頭のゾウモドキが歩いてきたのだ。
1頭の上には、イリスが乗っていた。
「う、うわっ!!ホントにやったな!?」
男は、その巨体を見、後ろに退き始めた。他の仲間も同様だ。
「ディーク、乗って」
「よし!」
もう一頭に乗ると、ディークは向きを彼らに合わせた。
威圧感というものだろうか、それに圧された一人が、ナイフを投げた。
すかさずイリスのナイフが、それを相殺する。
今の攻撃で、ゾウモドキは声を上げ、男達へと突進し始めた。
「に、逃げろっ!!こ、殺される~っ」
ナイフを投げた男が、そう言って真っ先に逃げ出した。
「コラ待て!!任務を途中で放棄するな!戻らんか!!」
だが他の仲間も次々に逃げ出し、結局彼もその仲間達を追って逃げ出す。
「逃がさないぜ!!」
――――その後。男達が何かから逃げるように、ケルテ王国へとやって来た。後ろにゾウモドキに乗った、二人の男女と共に。
男達は捕まり、彼らを雇った裏業者も捕まったという。しかし二人の男女は、いつの間にかその国から姿を消していたそうだ。
「赤字っ!!?」
下町のある一角で、男の悲鳴が聞こえた。
「そう、赤字」
悲鳴の主は、またしてもディーク。あれから三ヵ月後、二人はまた、借金地獄へと突き落とされていた。
「何でだよ・・・・・・あんなに大金入っただろ!?」
「確かに赤字はなくなったわ。でも、収入はまた別の仕事で使ってパーよ」
「そ・・・そんなバカな・・・・・・!!」
ぺたり、と床に座り込む彼に、イリスの帳簿攻撃が繰り出される。
「ほら、これ」
赤いインクで書かれた数字が、ズラリと並んでいた。
「な・・・何とかならないのか・・・・・・っ?」
呻くように声を出す彼に、彼女はあいまいに言った。
「さあね。この仕事を受ければ、多分大丈夫だと思うけど、どうする?受けないなら、私は出て行くけど」
「何っ!?仕事があるのか!!?」
「・・・三十件位ね」
意地悪そうにイリスは言ったが、そんな言葉は彼の耳には入らなかったようだ。すぐさま、訊ねてくる。
「で、どんな仕事なんだ!?どんな仕事でもやるぞおぉっ!!」
イリスはくす、と笑い、彼に三十件もの仕事を伝えたのだった。
終わり
作品名:仕事伝説 ―自称する男― 作家名:竹端 佑