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グランゼーラそうえん
グランゼーラそうえん
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戦国ファンタジー物(仮)

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 さて、現在朝のやや遅い時間、視界に広がるのは山である。草木は生え放題。人間も滑り放題だ。お題はきっとその人の命に違いない。まぁ、そんなくだらないことを考えていても仕方がない。山といえば、ある程度踏みならされた山道しか歩いた経験はないだろう。どちらかと言えば砂や土で作った山に草木を植えたもの、それが巨大になった印象だ。そしてその印象は恐らく間違ってない。山の上に石か何かを転がせば麓まで一直線に転がり落ちる。この山で転がるとしたら人間だけど。高さは山としてはそれほど高くはない。しかしそれは山道を歩く場合だ。これは想像を絶する辛さを体験することになるんじゃないだろうか?
 上からの指示は単純明快「山の上にある城を攻撃しろ」これだけだ。小ぶりの握り飯と僅かな水を与えられた。どうせ死ぬのだからということなのか、とても美味しそうな白い飯だ。
「流、山を登った経験はあるか?」
しのがボクに声をかける。
「あるにはあるけど、こんな道がない所を登るのは初めてかな」
いくつか荷物を置いていくか考える。そう少し考えを巡らせていたボクだったがしのがさらに続ける。
「流は軽いからな、それくらいの荷物だったら身につけていたほうが却って安定するだろう」
そう言いながら、しのは持っていた装備をいくつか外し始める。肩当て、伸縮する身長ほどの長さの槍、手甲、と外していく。
「外した装備はどうするの?」
自作した、無いよりかはましな程度の装備のボクと違って、しのがつけていた装備はそれなりに値が張りそうなものばかりだ。
「誰かが拾って使うだろう。この戦の報酬でこれより良い物が買える」
金額はおろか、お金の存在すら知らなかったボクではわからない基準だ。もっとも報酬を知らされたところで理解できなかったし、そう分かっていたからしのも説明しなかったのだろう。
「片手で弓、もう片手で適当な長さの枝を持っておけ、それだけで安定感が変わる」
そう言って、しのは目の前にあった枝を折った。ボクもそれに習って、地面に落ちていた長めの枝を拾う。なんとなく生えている木から枝を折りたくなかった。まぁ別に折った人を咎めるわけじゃないんだけど。
そしていよいよ山に足を踏み入れる。なるほど、これは枝で地面を指しながらじゃないと平衡感覚が保てない。つくづくしのと一緒で良かった。
「う・・・」
そう思ったら、ボクは転びかけた。これはかなり登るだけでも命懸けだな・・・


第三話 死線

 ここで冒頭の場面まで戻る。さて、状況を確認してみよう。
 まず、ボクらの目標は山の上にある城を攻めることだ。そして山道をそのまま進むのではなく、防備が薄いであろう道無き道を進む。しかし、これはあくまでも表向き。ボクらが行うべきは時間稼ぎだ。戦闘をなるべく避け、戦闘になったとしても、戦功よりも命が最優先。山間にいると時間がわからないが、昼を過ぎているということはないと思う。
 そしてボクの身体の上を矢が飛んでいる状態。ボクは地面になっている・・・もとい伏せている。
「流、そこから敵は見えるか?」
ボクよりやや後ろで伏せているしのが声をかけてくる。少し・・・いや、かなり恐いが顔だけ前を向く。
見渡す限り草木が生えているだけだ。前の方で見つかった人に向けて放った矢が流れてこっちに飛んできているだけなのだろうか。
「こっちからは見えない!」
聞こえているか不安なので、自然と大きめの声になってしまう。
「わかった、慎重にゆっくり進むぞ」
少し物音がしたと思ったら、しのは身体をおこし、身を屈ませた状態で先を進む。その様子をみて少し勇気が出てきて、ボクも身体を起こしてしのと同じような格好で進む。やっぱり誰かが進みだすと自分も大丈夫という心理が働くのだろうか。っていうか、しのは一瞬しか前を確認していないボクの言葉だけで進んで大丈夫なのだろうか。まぁ大丈夫じゃないと命が危ないのだけど。
ボクが動き出した様子を感じとって、しのが進むのを遅くして、ボクの後ろにつく。男であるボクが先を行く・・・という立派なものではなく、ボクがいつ重心を崩してもいいようにボクに気を配ってくれているのだと思う。いざとなったらボクを盾にするかもしれない。いや、さすがにしのに限ってはそんなこともないとは思うが、どちらにせよしのがいないとボクは生きていられないので、盾にされても文句は言えないのかもしれない。
「考えながら進むのもいいが、なるべく前と足元には注意するのだぞ」
しのは定期的に何か話しかけてくる。何か返した方が良いのかもしれないけど、どこからか(って言っても山の上からしか攻撃は飛んでこないと思うけど)攻撃されるかわからない緊張感と、いつ滑るかわからない恐怖でとても返答する余裕がない。
「あ」
「どうした?」
ボクが声をあげて立ち止まったのでしのが声をかけてくる。
「なんか、空気の流れ? が違うような」
山の空気は草木を風が通り、その香りを運ぶ。その草木のだけの香りとはまた違った空気が肌を撫でる。目を瞑ってみるとさらに色々と景色が変わる。物理的に何も見えないのは当然だが、元々あった草木、建物、人、熱気、血・・・。現実の視界を閉じた方が色々な物がみえるというのもなんか不思議な感覚だ。
そして、もう一段階空気の流れが変わる。これは少し覚えがある、小さい頃に小動物や虫を捕まえる時に近くにいた近い年齢の子が発していたような空気の流れ・・・
「流?」
「・・・隠れていたほうがいいかも?」
なんか漠然とした感じなので、言い方が曖昧になってしまう。
「わかった」
しのはそれでも、すぐに従ってくれる。ひとまず、大きめの木の影に身を潜める。矢みたいな攻撃だったらこれで凌げるだろう。木を貫通するようなら、どうしよう・・・。まぁ、そうならないように願って、水筒に口をつけ、少しだけ水を含む。
「飲み過ぎないように気を付けるのだぞ。かといって飲まないのもだめだが」
「うん」
戦において、飲み水はかなり大事な物である。動く上に命のやり取りの緊張感もある。同じ運動量でも日常生活とは比べ物にならないほど喉が渇く。流れ矢しか飛んできていない、まだ敵と遭遇していない状態で、既にこの渇きだ。
 そして水が尽きることも少なくない。場合によっては水だけを持っている部隊がいたりするのだが、今回はそれが期待できない。仮にいたとしても尽きることだってある。そういうときは土の水分を絞ったり、木の樹液を舐めたり、もっと大変な時は死んでいる人の血を吸うこともあるらしい。ボクは血を吸うような場面には幸運なことに遭遇していないが、この先も生きていたらそんな状態になるのかもしれない。
「この辺で少し休んでもいいかもな」
しのが休憩の提案をしてくる。ボク自身もかなり疲れているが、しのも同じなのだろうか。それともボクの疲労具合を見越しての発言なのか、わからない。
「そうだね・・・」
隠れるのに使っていた木にもたれ掛かる。よくみればしのもかなり汗をかいている。
「ふぅ・・・。どこまで登ればいいのか、このままやり過ごせばいいのか、判断に困るな」
戦の経験が豊富なしのも、この戦の加減や、整備されていない山を登るのに苦労しているように見える。
「しのでも疲れるの?」