戦国ファンタジー物(仮)
募集している場所は、街道の途中にある開けた所にあった。街道って言ってもしっかりと整備された道路ではなく、たまたま多くの人が踏み慣らして歩きやすくなっているだけのただの地面である。道中では賊に出くわすことなく無事に到着することが出来た。もっともこれからが無事であるかという保証はどこにもないのだけれど。
「けっこういっぱい人がいるね」
故郷の農村では全員あわせて五十人程である。これは農村としてはかなり多い部類なのだとか。しかし、この場にはそれどころじゃない規模の人間が集まっている。多分千人は超えているだろう。
「それだけ皆生活に困っているのだろう」
しのは抑揚なく答える。しのからすれば、この人数の集まりは当たり前の光景なのだろう。ボク自身もその内慣れるのかもしれない。無論のこと無事でいれば・・・だけど。
「おう!兄ちゃんら、偉く顔が整ってるじゃねぇか! 」
「夜困ったら相手してくれよ!」
ガハハと豪快に笑いながら、がっしりとした体型の男達が話しかけてくる。
「戦わなくても良いくらいの稼ぎがあるなら考えよう。もっともそんな金があるなら、女のほうから寄ってくると思うがな」
「ちげぇねぇや!」
「兄ちゃんらなら、お偉いさんがお声かけてくださるかもな!」
しのが男達に応える。こういう時の対応は、ボクはまだどうすればいいかわからないから、しのに任せることにしている
「んまっ、お互い生きているといいな、ガッハッハ」
男達はそう言って去っていった。
基本的に戦場では、ボクらのような傭兵は生き残ることが最優先となる。いざという時はその場で近くにいた人と協力したりすることも十分に有り得る。そこで事前に目に付いた人に声をかけたり、場合によっては徒党を組んだり相棒になったりもする。しのは装備もしっかりしているし、何より刀を持っている傭兵は少ないから目星をつけるために声をかけてくることが多い。そして女であるしのや、まだ若いボクの組み合わせは覚えられやすい。
「あいつらは多分冗談で言ったのだと思うが、流は本当に上の人間に声をかけられるかもな」
しのは冗談めいた笑みを見せる。
「それはそれで笑えないよ・・・」
「あはは!」
しのは愉快そうに笑う。声をかけてきた男達もそうだったが、笑ったりしておくことが大事なのだという。ボクにはまだそんな余裕はないが、こうやって馬鹿なことで笑っていられる最後かもしれないボクらはこれから命のやり取りをしにいくのだから。だからくだらない事で笑っておくことが、戦慣れした人を見分けるこつなのだとか。そのことがしのが頼れる相棒であることを証明し、同時に戦の現実をボクにつきつける。
あと、偉い身分の人は男性・女性どちらも愛することが常識らしい。農村で生まれ育ったボクからすれば考えられない常識だ。
「あんまり兵の質は良くなさそうだな」
軽く見渡した限りではボクには質はどの程度良いのかはわからない。けれど、先程の男達やボクとしのみたいに鎧などを身に纏っている人はほとんど見られない。確かに山を登るのに重装備は論外だ。けれど、武器防具どころか、水や食料を持っていそうな人が少数派というのはさすがに酷い・・・と思う。
「これは食料が貰えたら良い方かなぁ、勝てそうだけど」
「逆だ」
しのはそう言うとボクに耳打ちしてくる。
(こんな集団じゃほとんど生き残らないだろう。戦闘力が期待できないのはもちろん、ちょっとでも時をかけるものなら、戦わずに飢えと渇きで死ぬだろう)
・・・。
ボクは何も答えることができなかった。少し考えてみる。ボクらの役割は整備されていない山を登りながら、守っている人間と戦って、後ろから山に道を作る人のために時間を稼ぐことだ。山の上から来るであろう敵は何をしてくる? 弓をうってもいい、槍を投げてもいい。高さがあるから、いらない物や石、固めた土、水や排出物を流したって効果がある。威嚇のために叫ぶだけでも山を登る際に驚いて転び、死ぬかもしれない。そもそも何もされなくても死ぬ可能性だってあるのだから。
それに対してボクらはどうする? しのみたいに弓をしっかりと扱えるならいい。ボクみたいに威力が期待できない武器でも遠くからなら反撃に怯えてくれるかもしれないからまだマシだ。遠くを狙える武器を持ってなくても防具があれば即死する可能性は減るだろう。
じゃあ武器も防具もろくにない人達は?
運が良くなければ動く的だ。その的が大勢いる。たったそれだけ。多くは無事では済まない。
そしてその多くない人達が無事にたどり着いたとしよう。多くない人達の多くが水も食料もろくに持ってない。戦わなくても多くの人間が死ぬことが決まっているのだ。
(この戦略は私達傭兵が多く犠牲になることを前提にしているな)
ボクの表情が険しくなったところで、しのはさらに残酷な現実をボクに告げる。
(主力の中でも、あんまり役にたたない人間を作業させる。そして頼りになるであろう主力は、ある程度時間を遅らせてから別の道を使って攻めるのだろう。私達がそのまま城に攻め入るならそれで良し、それでなくても守備側の兵力を削ぐだけでも有利になる。しかも何も嘘は言っていない。私達は道なき道をつかって城を攻める。主力は私達が作った道からでも、安全な道からでも、ひょっとしたら両方を使って攻めることが出来る)
あちこちから明るそうな声や笑い声が聞こえる。下世話な話題から、報酬で何をしようかという夢物語、自分の家族の話題、町で見かけた美人の女の話題、それらの声はやがて土に還ることが決まっているのだ。でも、誰を責める事は出来ない。ボクらや彼らは生きるために募集していた傭兵として戦に出る。ボクらが故郷を出なければ食料は足らなくなって故郷が滅ぶかもしれない、滅ばなくてもけっきょく誰かが飢えて死ぬ。ただ単に生きるために自分自身を含めた誰かが死んでいくだけなのだから。
よく見れば笑いの中心にいるのは、少し年がいった人達だった。最初に笑い出したのは多分、この戦の戦略の意味を分かっているのだろう。それが周り周りへと伝わって、誰も死にそうにない、そんな音を響かせていた。
「・・・ねぇ、しの」
「ん? どうしたのだ?」
ならば、この戦、ここに集まった人達が辿る道を知ったボクも
「報酬でいっぱい贅沢できるかな?」
「ふっ、出来るに決まっている。勝つのは明らかだからな」
明るく、夢を語ろう。
ボクらが生き残ること
一人でも多く生き残るために
作品名:戦国ファンタジー物(仮) 作家名:グランゼーラそうえん