戦国ファンタジー物(仮)
最前線で戦う、物資を輸送する、ここの兵士が戦において大多数を占めることになる。
大雑把にわけるとこんな感じである。そして、書いた順番に物語として扱われることが多い。まったくないとは言わないが、最前線で戦う兵士を描くパターンはあんまり無いだろう。まぁそれはそうだ、今まで言ってきた所謂「英雄」とは違い、ただの兵士の話など華がなくひたすらに泥臭いだけだ。
「何をぼんやり考えているんだ?」
凛々しい声を後ろからかけられる。
「うん?いやぁ雑兵も大変だなぁって思って」
ボクは声をかけてきた相棒にして男装麗人のしのの方を向く。
「確かにいつ死んでもおかしくはないが、うまく稼げれば向こう十年は困らない」
しのはボクよりも背が高いし、齢も二十三とボクよりも大分年上だ。しのもしので、どこか遠くを見ているようだ。
本来戦場には女は兵士として参加することはできない。一応前線の炊事だったり、雑務だったり、夜伽の相手として女が戦場にまったくいないというわけではない。緊急時には女が武器をとって戦うことだって皆無というわけでもない。しかし、基本的には兵士として女は選ばれない。これは概ね女は男よりも体力でも腕力でも劣るからである。差別と捉える人もいるかもしれないが、目の見えない人間や、歩けない人間を兵士に選ぶわけにはいかない。そういった次元で女が選ばれないだけだ。これは子供や老人も該当する。だけど、しののように男として混ざっている場合や、男よりも体格も力も遠目でみただけで上回っているような場合だってあるから、その限りではないんだけど。
「だけど、稼ぐよりかは生き残ることだ。死んだら意味が無い」
そう言ってしのは寂しげな顔に変えた。
ここまで言っていれば気づいている方もいるかもしれないが、ボクは兵士に位置する人間である。
とある寂れた農村の集落で生まれ、家族の多さ故に十五歳になったのを期に、食い扶持を減らすために家を半ば追い出される形で、独り立ちした。まぁ確かに十五歳というのは十分に大人であるし、身分が高い人であれば十五歳になる前に嫁さんの一つや二つ貰っていてもおかしくはない。そして農村の集落で、農民同士であっても平等ではない。それは家族であっても同じだ。
まず父親というのは、お殿様のような存在だ。そして長男や次男は跡取り候補だったり家の稼ぎ頭である。母親は父親や息子とはまた違った意味で偉い。いかに自分が跡取りとして偉いとしても、生み、そして育ててくれた人間を蔑ろにすることはできない。家に男子が生まれなければ、女は嫁ぎを探すことに尽力する。もしくは女特有の感性を持って農作業の重用な役割にあてられることもある。
ちなみにボクの家は健康に恵まれていた関係から 父親 母親 長男 次男 三男 四男 長女 五男(ボク)という家族構成になる。健康に恵まれていたというのは、理由がある。
一般的に農民は貧しい。切り傷やちょっとした病も満足に治療できずに死んでしまうというのはよくあること。そして薬をもらえたりする武家や商人の家であっても、一家全員が健康で五十年の人生を全うすることは凄く少ないだろう。特に子供というのは脆い。五十どころか十までいかずに死んでしまうことだって多いのだ。
そういう意味では末っ子のボクが十五歳になることや、両親や兄達や姉も健在ということがどれだけ凄いことか少しはわかると思う。男子家系でしっかりと働けるというのはそれだけで集落での偉さに繋がる。ボクの家というのは健康で少しは出世したと思っていいのかもしれない。少なくても働けなくて没落ということはない。
だが、家族の健康が別の原因を招く。単純に食い扶持が足りないのだ。集落で偉くなっても農民は基本的に自給自足だ。そして持てる田畑の量は家族の多さに関係なく大体決まっている。土地が余っていれば開墾とかもできなくはないが、それは一家でやるには何十年かで計画する必要があるし、その開墾と並行して年貢を納めたり、自分で食べる分の作物も作ったりしないといけない。集落総出で開墾をすることもできなくはないが、それは集落の田畑が絶望的な状態であったり、移住をしたりする時だ。ある程度収穫が期待できるならそんな博打は誰もしたくないのはなんとなくわかって欲しい。
「そういえばしの、次はどこに傭兵しにいくの?」
兵士・・・この国では足軽と呼ばれる兵士にもいくつかの種類がある。
武家子飼いの精鋭、定期的に訓練を受ける農民、定期的に徴兵される農民、臨時に徴兵される農民、そして戦を生業とする傭兵である。ボクらは傭兵という扱いになる。傭兵と言えば職業軍人のようになんとなく響きがかっこいいかもしれない、実際そういう人もいると思うが、早い話が定住地を持てない農作業すらできない弾かれ者の集まりをまとめて傭兵と呼んでいるのだ。当然家から追い出される形で傭兵になったボクや、女の身でありながらその素性を隠して男として戦うしのもとりあえず傭兵として戦っているにすぎない。
「近々、山の上に建っている城を攻めるって話があったからそこが手っ取り早いと思う」
「やまのうえ・・・」
なんとなく嫌な予感しかしない。しのと一緒に戦にいくようになってあまり日は経っていないが、そんなボクでもこの戦も危険極まりない傭兵にはとても厳しい戦いであることがなんとなく分かる。
「ねぇ、しの」
「ん?何かあるのか?」
頭は理解していなくても本能が危険と告げているこの戦。とりあえず思った疑問をしのにぶつける。
「ボクはしの程戦に慣れていないけど、城攻めってけっこう大事なんじゃないのかな。傭兵を大々的に募集って、なんかおかしくないかな?」
「あぁ、城攻めには変りないが私らがやるのは正しくは城攻めではないな」
「城攻めじゃない?」
城攻めの傭兵を集っているのに城攻めじゃない? それはどういう意味なのだろう。
「山の上にあるってことは、移動手段が限られているってことだ。城までの守備側のために用意された道ではどんな罠もあるかわからないし、守備も大目に用意されているだろう。そこでまったく整備されていない所から攻めるってことだ」
山の道なき道を進むってことか、戦うよりも命が危ないかもしれない。
「ふーん・・・」
「だが、荷物を持った状態で山をそのまま登るのは危険だ。山登りだけで被害が出来てしまう」
山登りだけで被害が出るというのは装備の重量の関係からだと思う。
作品名:戦国ファンタジー物(仮) 作家名:グランゼーラそうえん