ノブ ・・第3部
「ほんと、ごめんなさい・・」
「いいよ、こうして2人っきりになれたんだから」
謝らないで?ボクはさゆりさんにキスをして言った。
「お腹ペコペコだよ、さゆり!」
「お夕食は、ルームサービスでいいですか?」
「へ〜、部屋で食べられるの?」
「はい、メニューは・・これです」
「ノブさん、何を召し上がりたいですか?」
「見せて?!」
初めて見るルームサービスのメニューは、豪華でそして・・高かった。
「ひゃ、高いね・・オレ、金欠だから・・」
「なに言ってるんですか、さゆりがご馳走するんですから」
「ノブさんは気にしないで、好きなものを選んで下さいね?!」
ボクが、てっきり外に食事に行くとばっかり思ってたと言うと、さゆりさんは言った。
「外のレストランには、組合の方々がいるかもしれないし」
「それに・・」
「それに?」
「お部屋ならずっと2人でいられるかなって」
「そうか、そうだね・・」
ボクは、恥ずかしそうにそんなコトを言うさゆりさんが可愛くて抱きしめてキスした。
「キスは、平気だよね?」
「はい、勿論・・」
ボクらはメニューを放り出して、夜景の拡がる窓際でキスをした。
「ノブさん・・」
さゆりさんが、また硬くなったオチンチンに気付いて言った。
「あは、ゴメン・・シャワー浴びてくるよ!」
「ご飯はさゆりに任せるから」と言い残して、ボクは少し頭を冷やそうとシャワーを浴びた。
ボクは温めのシャワーを浴びながら、京都のビジネスホテルでの恭子とのセックスを思い出していた。
「あの時も、生理だったよな」
すると、角が立った小石が1つ・・・ボクの心の中を転がって、ボクはその痛みを洗い流したくて暫く頭からシャワーを浴びたまま、ジっとしていた。
「恭子、ごめんな・・」
「ノブさん?」
さゆりさんが心配して浴室のドアをノックした。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん、平気・・」
もう出るから・・と言って、ボクはシャワーのコックを捻った。
「フ〜!」
バスタオルで体を拭きながら浴室を出たボクに、さゆりさんは心配そうに聞いた。
「大丈夫ですか?疲れさせちゃったのかなって心配しちゃいました・・」
「うん、大丈夫。今日は結構頑張ってドラム叩いたからさ、ちょっとね」
「それならいいんですけど・・」さゆりさんは、ボクからバスタオルを取り上げて背中を拭いてくれた。
「有難う」
「お食事・・・お好きかな?って思うものを適当に頼んでおきました」
「もう少し、待ってて下さいね?!」
うん・・とボクはバスタオルを巻いたままで、ベッドに横になった。
心の中には小石が転がっていたが・・今のボクにはどうする事も出来なかった。
さゆりさんはボクの横に座って、髪を撫でてくれた。
「練習、大変なんでしょうね、きっと」
「うん、しんどい・・でも・・」
新しい事始めるのって、楽しいんだよね・・とボクは目を閉じて言った。
ボクは目を閉じたまま、今日の他のバンドとの軋轢やタカダの事を話した。
「色々、あるんですね」
「うん、でもさ、組んじゃった人達の足手まといにはなりたくないじゃん?」
「どこまで出来るか分からないけどさ、オレ・・一生懸命にやってみる積もりなんだ」
ベッドの上で、ボクは起き上って煙草を咥えた。
「はい」
さゆりさんが火を点けてくれた。
「サンキュ」
ボクは窓の方を向いて、深く吸った煙を・・ふ〜っと吐いた。
見に行きたいな、学園祭・・とさゆりさんも窓の方を見て言った。
「うん、見て欲しい様な、見せたくない様な・・」
「それは、始めたばかりだから・・・ですか?」
それも、あるけどね・・・と、ボクは曖昧に笑って灰皿に灰を落とした。
心の中の小石が、コロン・・とまた転がった。
そんなボクの横顔を見て、恐らくさゆりさんにも分かったんだろう・・・。
「練習、頑張って下さいね?!」
「ノブさんならきっと、大丈夫ですよ」
私は見に行きたくても旅館がありますから・・とさゆりさんは小さく微笑んで、クローゼットからガウンを出して羽織った。
「さ、ノブさんも」
うん・・ボクは煙草を消して、ガウンを羽織った。
暫くして、部屋のチャイムが鳴った。
「・・はい」
「お待たせ致しました、ルームサービスでございます」
ホテルの制服なのだろう、おもちゃの国の兵隊さんみたいな格好のサービスが部屋に入ってきて、テキパキと折りたたみのテーブルをひろげて真っ白いナプキンを敷いて、料理を並べた。
料理のお皿には、1つひとつに半透明のプラスティックのカバーがかかっていて・・・なんか、大げさな感じだった。
全てを並べ終えた後、カバーを全部外して「では、ごゆっくり・・」とサービスは帰って行った。
「何か、凄いね・」
「ノブさん、沢山召し上がるかな?と思って」
赤いソースのかかった薄いカツみたいなのとビーフシチュー、サラダ、パスタにバゲット。そして、ポットに入ったコーヒー。
「食べきれるかな・・」
「2人でゆっくり、頂きましょう?」
「うん、そうだね」
さゆりさんは、ホームバーの下の冷蔵庫を開けてビールを抜いた。
「まずは、乾杯しましょう?!」
「いいね、それ・・なんてビール?」
「これはバドワイザーです」
へ〜、飲んだコトないや・・・とボクはいやしくさっさと手酌しようとして、案の定・・止められた。
「・・忘れてた、ゴメン」
「いいんです、はい、ノブさん!」
「じゃ、乾杯」
「何に?」
「来てくれたノブさんに」
二つのグラスが、カチン・・と鳴った。
良く冷えた初めてのバドワイザーは、美味しかった。
「日本のより軽いね、これ」
一気にグラスを空けて、ボクは言った。
「そうですね、アルコール分が少ないんですね、きっと」
さゆりさんも、微笑みながらグラスを傾けて飲んだ。
「これは?何て言う料理?」
「ミラノ風カツレツです」
「へ〜、随分薄いトンカツだね・・」
さゆりさんはそんなボクの台詞にクスクス笑いながら、フォークとナイフで、その薄いミラノ風とやらを切り分けてくれた。
「ノブさん、これ」
「トンカツじゃなくて、ビーフなんです」
「え、そうなの?牛のカツ?」
「はい、牛です・・」さゆりさんは、笑いながらお皿を勧めてくれた。
「そっか、牛なんだ・・あ、美味しい!」
トマトソースと、カツと衣の間のチーズが混ざり合って、ミラノ風はビックリする位美味しかった。
初めてのミラノ風カツレツとバゲットをパクパク食べるボクを、さゆりさんはニコニコしながら眺めていた。
「食べないの?」
「はい、頂きます・・」
さゆりさんも、小さく切ったカツを食べた。
ボクはいやしいかな・・とも思ったが、隣のビーフシチューにも手を付けた。
こちらは大きなビーフがゴロゴロしていて、人参とジャガイモと、緑のカリフラワーみたいなのがブラウン色のソースに色どりを添えていた。
お肉はフォークで押しただけでホロホロと崩れて、口に入れたら・・これまた溶ろけるほど柔らかかった。
「こっちも美味しいね!」
「良かった、喜んでいただけて」
「この緑色のは何?」
「それはブロッコリーです」
「形はカリフラワーみたいなのに、緑色なんだね・・」



