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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ ・・第3部

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「ええ、結構、やられちゃいましたね」
ボクは左目の眼帯を押さえて、苦笑いした。
「右の肋骨も二本折れてるみたいです」

おたがい、ざまぁ無いな・・とタカダが上半身を揺らして笑いながら書いた。
ボクも笑った。
「でも、元気そうで安心しましたよ」

サンキュー・・とタカダ。

明日には話せる様になるらしい・・とボクに白い板を見せながらタカダは気管切開のカニューレを触った。
「抜けるんですか?」

いや、話せるヤツに交換して、もう少し様子を見るんだと・・と。
「はぁ、話せるタイプもあるんですか?」
スピーチカニューレっていうヤツらしいな・・とタカダが書いた時、ゆっくりとドアが開いた。
入ってきたのはリエ坊だった。
「・・シン」
リエ坊はボクに一瞬済まなそうな顔をして、ベッドの横に立ってタカダに声をかけた。

「気分はどう?」
絶好調〜・・とタカダが書いた。
「良かった、安心したわ」
リエ坊が微笑んで、タカダも微笑んだ。

心配するな、この管と傷のドレーンが抜けて、抜糸したらもう退院だ・・と。
「そんなに早く?」
「顎の骨は?くっつくの?」

そっちはワイヤーで何か所も固定してあるらしい・・と続けた。
そして、完全に骨が着くまでは時間かかるけど生活は問題無いらしい・・とも。

「そうなんだ、じゃまた話せる様になるんだね?」
当たり前だろ、骨折しただけなんだから・・とタカダは笑いながら書きなぐった。

だからオレが復帰するまでの間、お前ら二人で詰めとけよ?決めた曲・・とタカダが書いたのを見た時、リエ坊の顔が曇った。
「あんた、出る積もりなの?後夜祭・・」

リエ坊のこの言葉にタカダはキョトンとして首を傾けた。
なんで?やらね〜のか?・・とタカダは書いた。

リエ坊はそれには答えずに、ボクを見て困った顔をした。
「シン・・」
「リエさん、ちょっといいですか?」ボクはリエ坊を部屋の外に出る様に促した。
「ちょっと出てきますね?また戻りますから」とボクはタカダに言い残して、リエ坊と部屋を出た。

喫煙コーナーには幸い誰もいなかった。
ボクは煙草に火を点けて、リエ坊に言った。

「彼女に泣かれちゃった」
「シン、ごめんなさい、私・・」
「ううん、リエのせいじゃないよ、一番悪いのはオレだもん」
「そんな事無いよ、私が我が儘言っちゃったんだし・・手紙だって」
「仕方ないよ、もう」

「彼女、何て言ってた?」リエ坊が下を向いたまま言った。

「うん、バンドだけならいいって」
「え?」
「バンドは続けてもいいけど」
「その代り、もう二度とあの子と・・って」
「・・シン」

ボクは、深く吸ったセブンスターを一気に吐き出して続けた。

「オレね、二人にひどい事しちゃったんだなって、思ってる」
「リエにも彼女にもさ」
「シン、それは違うよ、私があんなお願いしたから」
「ううん、いくらお願いされてもさ、付き合ってる人がいるんならきっぱり断るのが本当でしょ?」
「・・・」

オレ・・とボクは煙草を灰皿に押し付けて消した。
「黙ってれば、分からなければいいのかな?って思ったの、あの時」
「でもさ、言われたんだよ、彼女に」
「何て?」
「アンタ、あの人も好きなんやね?って・・・」
「・・・シン」

「否定出来なかったんだよ、オレ」
「顔に書いてあるって言われちゃった」
「ごめん、だからリエだけのせいじゃないんだ・・」

「オレ、リエの事も好きになってたから」
「二人とも好きなんて・・・やっぱダメだよね」

「シン・・私、どうしたらいいのかな」
リエ坊がボクを見つめた。
その目には今にも零れ落ちそうな位に、涙が溜まっていた。

そんなリエ坊を見つめながらボクは、昨日も大切な人を泣かせてしまったんだな・・と思った。
「リエさん・・・」ボクは呼び捨てをやめた。
「オレ、リエさんの事、好き。でも・・・」

「いいの、分かってるから」
リエ坊はボクの言葉を遮って、右手で涙を拭って無理やりに笑顔を作った。
「シンを困らせる様な事はしないって、私言ったでしょ?あの夜に」
「こういう事だったんだよね・・」
「私の我が儘が、シンも彼女さんも傷付けちゃったんだよね」

「だから・・シン、有難う」
「え?」
「さっき言ってくれたでしょ?好きだって」
「うん」

「きっと私、そう言って欲しかったの、シンに」
「でも、横入りは出来ない、いけない事なんだよね、やっぱりさ」
「リエさん・・・」
「夕べね、ず〜っと考えてた、ここ何日かの事」
「酔ってシンに迫って、恋人の気分味あわせて貰ってさ、家族に合わせちゃったり・・」

私ね・・とリエさんは俯き加減に言った。
「お母さんやマサルが誤解した時にね、チクっとしたの、ここが」と、自分の胸に手をあてた。
「でもさ、シンの事が好きになってたんだよね、もう完全に」
「だからあの夜、遅くに無理やり押しかけて、恋人・・たとえゴッコでもいいから続けたかったの」
「・・・・」

「まさか本物の恋人さんがいきなり帰ってくるなんて思いもしなかったから・・」
「ごめん、余計なモノまで持ち込んでさ、私・・いい気になってたね」
「彼女さん、きっと凄く嫌な気分だったと思うわ」
「そりゃそうよね、好きな人が待ってるって思った部屋に違う女がいておまけに着替え持ってたらさ」
そう言ってリエ坊は、上を向いて自嘲気味に笑った。

「あ、私って最悪の女なんだって、思い知ったの、あの時ね」
「だから暫く戻れなかったのよ、学生控室に」
「シンに会わす顔が無くて、どう言ったらいいのかも分からなくてさ・・」
「だからあんなに時間かかったんだ。なかなか帰って来なかったよね」
「うん、近所の喫茶店でコーヒー飲んでたの、少し頭冷やさなきゃって思って」

コーヒー、苦かった・・と無理やりに笑ったリエ坊の頬を、また一筋の涙が転がり落ちた。

「リエさん・・」
「有難う、シン」
「私、少し分かったよ、人を好きになるって本当に素敵な事なんだね」
「でもさ、その相手を間違えちゃうと・・・」
そこまで言って、リエ坊は言葉を飲みこんだ。

「シンが言ってくれた一言、私、宝物にする」
「こんな私でもそう言ってくれる人がいたんだって、ちょっとこれからは自信持ってもいいよね?」
リエ坊の笑顔は、やはり痛々しかった。

「バンドは・・・」
「え?」
「シンに任せるから」
「・・・どういう事?」
「せっかく始めたドラムだけどさ、シンの気が進まなかったらもういいよ」
「それって、やめちゃうって事?」
「ティア ドロップス、いい名前だけど」

「うん」
「アイツもあんなだし、彼女さんの気持ち考えたらさ、いくら続けていいって言ってはくれても・・」
「絶対にいい気持ちはしないと思うんだ、同じ女として」
「そう・・なのかな」

「うん、そうだと思うよ、好きな人が浮気相手と・・・バレちゃった後も同じバンドやってるなんてね」
「・・・・」
「それか・・」
「なに?」

試してるのかもね、シンの事・・とリエ坊が続けた。
「試すって、恭子が?」
「うん」

一瞬ボクは何を言われてるのか分からなかった。
「バレちゃった後でもシンと私が会う事を認めたって事はさ・・」
「・・・うん」
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ