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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ ・・第3部

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「しょんなかばい、怒ったところでアンタが他の女を抱いたっちゅう事実は消えんもん」
「消えん事実にいつまでもムカムカしちょったら、馬鹿ばかしいけね!」
「・・恭子」

「もう良かけ、寝り?」
「うちも寝るばい」
「うん・・」
ボクは仰向けになって目を閉じた。
でも体中のあちこちがズキズキして、とても寝られそうにはなかった。

「はぁ〜」暫く目を閉じて眠ろうと頑張ったが、一向に眠気は襲って来なかった。
「・・眠れんと?」
恭子が小さな声で聞いた。
「うん、目が冴えちゃった」
「うちもや」

恭子がゆっくりとボクの隣に来た。
「ね、今でもうちの事・・好いとる?」
「うん、好き」
「うちもアンタの事、好いとって良かと?」
「恭子・・」ボクは一瞬、体が痛いのも忘れて恭子をギュっと抱きしめた。
好きでいて欲しい・・と言いながら。

恭子は顔をボクの胸に押し付けた。そしてボクの胸が少し、濡れた。

「一時・・こうしとって」
そう呟いた恭子の頭は、小さく震えていた。
「・・ごめん」ボクはそれしか言えずに、恭子の髪を撫でた。

「アンタは・・・」
「なに?」
「ううん、良か」
「なんだよ」

良かと・・と呟いた恭子はもう、泣いてはいなかった。

「おやすみ」
「うん、お休み・・」恭子はボクの胸から離れて仰向けになった。
ボクも仰向けになって暗い天井を見上げた。

そのうちに小さな寝息が規則正しく聞こえてきた。
その軽く口を開けた無防備な恭子の寝顔は、ボクに楽しかった京都を思い出させた。

「・・ゴメンな」
恭子に言ってボクも目を閉じた。



「いてて・・」翌朝、ボクは寝返りをうった際の痛みで目が覚めた。
隣は既に空っぽになっていて、キッチンからは恭子の鼻歌が聞こえた。
ボクは痛みを堪えてベッドを抜けだした。

「起きたと?」
「うん、お早う」
「どうね、痛みは」
「さっき寝返った時の痛みで起きちゃったよ」

「顔洗ってき」
「うん・・」ボクは洗面所で苦労して歯を磨き顔を洗った。
右手を動かすだけで、脇腹には強烈な痛みが走った。

「参ったな・・」正直、ここまで痛くなるとは思っていなかったからね。

「朝ごはん食べられそうね?」
「うん、大丈夫・・でも、痛いよ」

見ればテーブルの上にはご飯とみそ汁、卵焼きとお漬物が並んでいた。

「凄いね、これ。恭子が作ったの?」
「当たり前ちゃ!他に誰がおるん」
そりゃそうだけど・・とボクはテーブルに着いた。

「はい・・」と恭子は湯のみを差し出した。
一口飲むと、それは冷たいほうじ茶だった。

「おいしい」
「そうやろ?おばちゃんとこで飲んだお茶が美味しかったけね、さっきスーパーで買うて来たっちゃ」
「ほうじ茶でしょ?」
「うん、やけど関西ではお番茶って言うんて」
お番茶か・・ボクもおばちゃんを思い出して思わず微笑んだ。

「やっと笑ったっちゃ」
「え?」
「アンタ、昨日からず〜っと不景気な顔しとったけね」
「そりゃ・・ね」

今も見られた顔やないけどな・・と恭子は笑いながら味噌汁に手を付けた。
ボクも箸を取った。
「・・頂きます」
「はい、どうぞ」

恭子お手製の卵焼きは、ほんのり甘くて美味しかった。
味噌汁も白味噌を使ってて、具はネギと豆腐。

ボクが無言でパクついてると、恭子がしげしげとボクを見て言った。

「はぁ〜、ほんとなんやね」
「ん?なにが?」
モグモグしながら顔を上げたボクに恭子が言った。

「その人を本当に好きかどうか」
「ん?」
「その人がご飯食べてる顔を見れば分かるんて」
「・・どういう事?」

「相手を心底嫌いになってたら、ご飯食べてる顔見ても何も感じん様になるらしいっちゃ」
「はあ」
「相手を好きな時はな・・」
「無邪気にご飯食べてる姿が、もの凄く愛しく感じるものなんやて」

そうなの・・?ボクはゴックンと飲みこんで恭子を見つめた。
「うん、本に書いてあったんやけど・・」
「本当やったっちゃ」
「後はな・・」
「うん、あとは?」
「笑顔っちゃ」
恭子はそう言ってテーブルの向こうから腕を伸ばして、ボクの頬を撫でた。

「アンタには・・いつも笑顔でいて欲しいけね」
「恭子・・」
「さ、食べり?」
「病院に行きたいっちゃろ?アンタ・・」

ボクは驚いて箸を止めた、図星だった。
「何で分かったの?」
「それ位分からんと思っとると?」
「大事なバンド仲間が緊急オペしたっちゃろ?酷い怪我で」
「・・うん」

「うちは待っとるけね、ここで」
「恭子・・」
「良か、うちは知らん人の見舞はせんよ」
「ここでアンタの帰りを待っとる」
恭子はそう言ってボクを真直ぐに見つめた。

「うん」としかボクには答えられなかった。


それからボクらは、黙って朝食を食べ終えた。
きっと恭子は言いたい事がもっとあったのだろうが、彼女は黙って食器をシンクに下げて洗いだした。

ボクは、気になっていた事を思い切って恭子の背中に問いかけた。
「恭子・・」
「なん?」
「いつまでいられるの?」

洗いものの手を止めて、恭子が振り返った。
「今日中」
「え?」
「アンタがお見舞いから戻ったら帰るけん」
「そうなんだ・・」

「合宿用の荷物を取りに戻るっちゅうたけね、何日もこっちにおるとはおかしかろ?」
「うん、そうだよね」

恭子はまた洗いものにかかり、ボクは食後の煙草に火を点けた。

「コーヒー・・」恭子が言った。
「淹れてくれん?」

「うん」ボクはケトルに水を入れてレンジにかけた。
お湯が湧くまでの間、サーバーに氷を詰めてドリップにフィルターを敷いて、モカをサラサラと入れた。

沸騰したお湯をドリップに注ぐと、モカの香りが立ち昇った。
「いい・・香りだ」
「うん、いい香り」
恭子が洗いものを済ませてボクの隣でドリップを覗きこんだ。
そして続けた。

「アンタが傷の消毒とお見舞い済ませてな」
「うん」
「帰ってきたら・・・」
チュっと恭子はボクのほっぺにキスして、マグカップを並べてボクを見て言った。
「アンタを確かめてから帰りたい」
「確かめる?」
「うん!」

恭子はコーヒーを二つのマグカップに注いでテーブルに置いた。
そして、セーラムに火を点けて小さく煙をはいた。

ボクも椅子に座ってコーヒーを一口飲んだ。
「美味しい・・」
「有難う、アンタが淹れてくれたコーヒーはほんと、アンタや」
「なんだ?それ」
「良かと、アンタなんやけ」
「そうなんだ」

ボクは、マグを抱え込んでゆっくりとコーヒーを飲む伏せ目勝ちの恭子が、この上なく愛おしく思えた。
ふいに涙が溢れて、ガーゼを当てていない右目から転がり落ちた。
「本当なんだね、さっき恭子が言った事」
「なん?どうしたと?アンタ・・泣いとうと?」

「うん、コーヒー飲む恭子見てたら」
「何かすごく・・・」
「なんね?」

好き・・とボクは言って立ち上がって、後から恭子を抱きしめた。
「辛い思いさせちゃってごめん」
恭子は、カップを置いてボクの腕を抱えて言った。
「良かよ、もう・・・」
「その代り、お願いがあるっちゃ」
「うん、なに?」

恭子は一層強くボクの腕を抱きしめて、言った。
「バンド、続けると?」
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ