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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ ・・第3部

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「でもさ、勘当してた息子と彼女に会いに来るって・・・よっぽどだよね」
「いや、どうだろ・・いくら勘当息子でも病気とか怪我だったら別なんじゃないかな」
「多分、タカダさんの両親も青くなってすっ飛んで来るんじゃん?」
「うん、そうだよね、きっと・・」


一服し終えたボクとリエ坊は、リカバリールームに戻った。

恐る恐る扉を開けると、気付いたキヨさんが手招きした。
「もうすぐ入室なんですって」
「そうなんだ・・」

「リエさん、お願いがあるんだけど・・」
「この人が手術室に入ったら私も控室に行くから、ご両親がみえたら控室の場所教えてあげてくれる?」
「うん、いいわよ」

「5階の手術室の前にあるって言ってたから」
「うん、5階ね?分かった・・」

「・・おい、リエ坊」
タカダが小さな声で呼んだ。
「なに?」
「シンとお前、デキちまったのか?」
「はぁ?!なんですって?」

「だから、付き合い始めたのか?って聞いてんだよ・・・」
「バ、バカ!何言ってんのよ、そんな事・・」リエ坊は、見る見るうちにトマトみたいな色になってうろたえた。

「シン・・」
「あ、はい」
「コイツ、こう見えて弱っちいからよ・・優しくしてやってくれよな?」
「え?!あ・・はい、でも・・」

「スス、照れんなよ、さっきオレが寝てると思って喋ってたろ?お前ら」
「分かっちまうんだよな・・」
すいません・・と何故かボクは頭を下げていた。

「バカ、謝る様な事じゃねぇだろ」
上手くやれよ、色々とよ・・とタカダが言った時、リカバリールームの扉が大きく開いてナースが2人入って来た。

「では、タカダヨシアキさん、手術室に行きましょうね!」
2人の看護婦はベッドの車輪のロックを外し点滴をベッドの穴に差し込んだ棒に移して、「では、行ってきます」と部屋を出て行った。

「じゃ、リエさん・・お願いね?!」
「うん、分かったわ。キヨちゃん、頑張ってね!」
キヨさんはニコっと微笑んで、ベッドの後を追った。

残されたボクらは、ガランと空いたスペースを眺めながらベンチに腰掛けた。

「もうすぐ来るのかな、ご両親」
「どうかな、アイツの家は吉祥寺だからね・・」
「って事は、リエんちよりも遠いって事?」

「うん、ちょっとだけどね」
「そうなんだ・・」
「でもどうなんだろ、電車で来るとは限らないしさ、車だったら」
「そうか・・・」

ボクは色々と考えてしまった。
タカダの怪我に自分の怪我、そしてバレてしまったリエ坊との関係・・・また、タカダとキヨさん、ご両親との事。

「うまくいくといいな・・・」ボクの呟きにリエ坊は「・・うん、そうだね」と答えた。
リエ坊ももの思いにふけっていた様で、ボクらは暫くの間、呆けた様にベンチに座っていた。


「梨恵子さん?!」
突然呼ばれて、リエ坊が顔を上げた。
「あ、おばさん・・」
リカバリールームの扉を少しだけ開けて、年配の婦人がリエ坊の名を呼んだ。

「おじさんは?ご一緒なんでしょ?」
「ええ、主人は直接控室に向かったの。私はアナタから少しお話聞きたくて・・」
こちらに向かって歩きながら、婦人がそう言った。

そして「失礼ですが?」とボクを見た。
「はい、同じバンドの後輩でオガワ君・・」
「タカダ君のお母さんよ、シン」

あ、初めまして・・とボクは会釈した。
「どうなさったの?そのお怪我は」
「あ、はい・・」
「善明の怪我と・・関係あるのかしら?」

「いえ、これはその前に・・」
「お、おばさん、私達も行きましょうよ、控室!」途中まで言いかけたボクの言葉をリエ坊が遮った。
「いいのよ、主人に任せておけば。オガワさん・・って仰ったかしら?」
「はい」

「簡単でいいわ、お聞かせ願えます?」
確かに、今緊急手術している息子の病室に怪我した人間がいたら気になるのだろう。しかも、タカダのお母さんの目には断れない迫力があった。
ボクはかい摘んで事の経緯を話した。

「・・そういう事だったのね」
「では善明だけがとにかく悪いって事ではないのね?!」とリエ坊に念押しした。

「はい、むしろ被害者です・・私達!」
「それはどうかしら、梨恵子さん」
「え?」
「ケンカはね、昔から両成敗なのよ・・・ご存じでしょ?」とタカダのお母さんはリエ坊を軽く睨んだ。

しかし、次には微笑みながら言った。
「まぁ、あの子のトラブルには慣れてた積もりでしたけどね、今回は少し焦りましたよ」
「怪我で緊急手術・・って清美さんからお電話頂いて、流石に慌てちゃったわ」

「はい、済みません」
「いいわ、警察沙汰にもなってるんですから事の善悪はそちらにお任せして、とにかく手術の成功を祈りましょう」
「では、私は控室に参りますね。この際、清美さんともきちんとお話しないとね・・・・」
おばさんの最後の一言は、暗にボクらに控室には顔を出すな・・という意味なのだろう。


「ふ〜・・」扉を出て行く後ろ姿を見送って、ボクはため息と共にベンチに座り込んだ。
「強烈だね、タカダ母は」
「うん、そう・・昔からなの、あの感じは」
はぁ、おっかないね・・と、つい正直な感想を言ってしまった。

「おじさんはね・・・・」リエ坊が続けた。
「違うのよ、雰囲気がまるで反対なの」
いつもニコニコして、人当たりのいいおじさんなのだ・・と。

「お家は?何をしてるの?」
「開業医よ、アイツんちは」
「あ、ただ・・珍しいかもね」
「どういう事?」
「おじさんは勤務医でね、開業してるのはおばさんなの」
「へぇ、そうなんだ・・」

その一言で、何となくあの迫力も納得してしまった。

「キヨちゃん、大丈夫かな」
「うん、どうなっちゃうんだろうね」
ボクらは正直、控室の雰囲気を測りかねていた。
勘当息子とその恋人、しかも恋人のお腹には息子の子供が息づいている。

「でも、この際だからって言ってたからね・・」
「キヨちゃん、追い詰められてなきゃいいけど」
「知ってるのかな、お腹の赤ちゃんの事」
「・・分かんない、それも」

そうか・・ため息しか出てこなかった。歯痒かったが、タカダ家の内情に嘴をはさむ訳にはいかない事はリエ坊もボクも分かっていた。

「ねぇ、学生控室行かない?」
「うん、そうだね」
ボクらは、オペの終わりを学生控室で待つ事にした。タカダが戻ってきたら内線で連絡してくれるように、病棟のナースにお願いして。

本部棟一階の控室は、休み中ということもあって誰もいなかった。

ボクらは自販機のアイスコーヒーを飲みながら、一服した。
そしてボクは、気になっていた事を聞いた。

「当分・・練習は無いのかな」
「うん、そうなるかも」
「少なくともアイツが退院するまでは、3人揃う事はないからね・・」
「そうだよな、仕方ないか」

「でも、それじゃ間に合わないんじゃない?学祭」
「・・・・」
リエ坊はコーヒーの紙コップを睨んだまま、返事をしなかった。いや、出来なかったのか。
ボクは質問した事を後悔した。これじゃ誰かを責めてるみたいだもんな・・・・。

「ね、シン・・・・」
「なに?」
「オペ室、行こう?!」
「・・え、どうして?」
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ