小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ノブ ・・第3部

INDEX|57ページ/71ページ|

次のページ前のページ
 

「いや〜、参ったよ・・」
「転んじまう・・って思った時な、あ、ストラト!って思ってよ」
「両手で抱えたら顔から突っ込んじまった・・・」

「バカ、ギターなんて庇うから」キヨさんがタカダの頭を撫でながら言った。

「酒井さんのだったから?」
「まぁな・・」


「ごめんね、私のせいなの」リエ坊が言った。

挑発に乗ってしまって、部室で取っ組み合いになってしまったのだ・・とリエ坊はタカダに経緯を語った。

「へへ、そんな事だろうとは思ってたよ・・・いいじゃん、気にしてねぇよ」
「だってアンタは、そのトバッチリ喰った様なもんなんだよ?!」

「・・バカ、仲間が痛めつけられたら放っとく訳にはいかね〜だろ?!」
「ま、逆にやられちまったのはコッチだったけどな・・」

ススス・・と歯の隙間から空気が漏れる音が聞こえた。タカダの笑い声だった。


「・・・連絡したからね?!」
「あ?何だって?」
「お家に、電話入れたの・・・」

「バカ、お前・・・余計な事すんじゃねぇよ!」
「仕方ないよ、こういう事はちゃんとご両親にお話しとかなきゃ」
「・・ふざけんな、キヨ!お前・・・」

「キヨちゃん、コイツの実家に連絡したの?」
「うん、知らせない訳には・・いかないでしょ」
「で?」

「うん・・・」キヨさんは何故か俯いて黙ってしまった。

「いいさ、気にすんな」
「親父やお袋が言いそうな事位、オレにも分かるしよ・・」

「どうせもう、当家とは無関係ですから・・って事だろ?!」
「ヨっちゃん・・」
「アイツ等の言いそうなこった」

違うのよ・・・とキヨさんは顔を上げてタカダに言った。

「この際だからキチンと話し合いたいって・・・」
「だから、もうすぐいらっしゃるの、ココに」

「おいおい!」
「オレは話す事なんか無ぇぜ?!お前だって・・」
「聞いて?ヨっちゃん」


リエ坊が目配せして、ボクの手をそっと引いた。ボクらは断らずに静かに廊下に出た。

「私達は・・いない方がいいでしょ?!」
「うん、そう思ったよ、オレも」

ボクらはナースステーションの前の廊下を進み、エレベーターホールのベンチに腰掛けた。
途端に顔の左半分がズキズキ痛みだして、ボクは頬に手を当てた。

「痛むの?」
「うん。急にね・・・」
あ・・っとリエ坊が小さく叫んだ。

「シンの頬っぺたの色、変わってるよ?!脹れてきた?」
「・・そう?」ボクも頬に手を当てた時に感じたのだが、どうやらプックリ膨れてきたみたいだった。

おまけにジンジンと言うかズキズキと言うか・・熱感を伴った痛みだった。

「どうしよう・・冷した方がいいのかな、こんな場合は・・」
リエ坊が慌ててボクの頬に触った。

「・・熱いよ?シン」
「冷した方が気持ちいいかな・・」
私、看護婦さんに聞いてくるね・・とリエ坊はナースステーションに走った。

「リエ・・・」ボクは走って行くリエ坊の後ろ姿を見送りながら、ふとホールの窓際に目をやった。

そこにはガラスで仕切られた一角があり、煙草のマークが大きく描いてあった。

ボクは立ち上がってその喫煙コーナーに行き、中の椅子に座って一服した。


「ふ〜〜・・」
吐き出した煙には、色んなモヤモヤが入っていたみたいで・・ボクは段々に気持が凪いでいくのを楽しんだ。

話し合いか、うまくいくといいな。
タカダ家の事情はよく分からないが、子供が大変な時に無理難題を言う親もいないだろう・・と思うと、ボクは自然に顔が綻んだ。

キャバーンのボーカルも謝ってくれたし・・・。


でも、久しぶりにケンカしちゃったんだな。
考えてみれば何時振りの取っ組み合いだったんだろう・・・とボクは最後のケンカを思い出した。


「確か・・高2の時か」そう、新小岩の駅でボクは近所の私立高校の生徒3人に囲まれて、カツアゲにあったのだ。

ボクの通っていた高校は地元では進学校で通っていたが体育会系はまるでダメダメだったから、良く仲間がカモにされた話は聞いていた。


新小岩駅の改札を出た所で囲まれたボクは、耳元で「顔貸せよ、お前・・R高だろ?」と囁かれて、正直・・キュっとタマが上がった。

「・・ヤバ、3人かよ・・」と冷や汗が出たが、ボクとさも親し気に肩を組んで歩くもんだから逃げるに逃げられないんだな。

またその時は丁度、腹が減って駅の立ち食い蕎麦を食べた後だったから「ヤダな、腹蹴られたらソバ吐いちゃうかも・・」なんて事を考えていた。
1人が肩をガッチリ組んで残りの2人に前後をガードされて、ボクは完全に取り込まれた格好になり駅を背に右に曲がった。

すると細い路地になり少し進むと今度は左・・・。
ボクの前を歩くヤツからは、ブラバスのコロンが香った。


駅のロータリーの喧騒も遠のいた辺りで、肩を掴んでいたヤツがボクの腹にひざ蹴りした。いきなりの衝撃でボクはウッ・・と蹲ってしまった。

「・・ちょっとな、お小遣い・・貸してくんねぇか?」
「さっきお前ソバ喰ってたろ?見ちゃったんだよ、お前の財布」

あ〜、やっぱり・・あの時天ぷら蕎麦を頬張りながら妙に視線を感じていたんだが・・コイツらだったのか。

「ちょ、ちょっと待って・・」
ボクは制服の内ポケットから財布を出した。
しまった・・・今日は本屋に寄って本を買う予定で、ひと月分のお小遣い全額持ってきちゃったんだ。

「ほら、貸してみな?いくら入ってるんだ?」

ボクは、青い二つ折りのビニールの財布を握って考えた。
まてよ?ここでコイツらに奪われたら今月オレはどうやって過ごすんだ?買いたい本も買えないじゃん・・そう思ったら急にムカムカと腹が立ってきて、ボクは財布をポケットに仕舞って立ち上がった。

そしてボクの前に立ちはだかってたヤツの襟を左手でいきなり引っ張って、顔に思いっきりチョーパンを喰らわせた。
「・・なめんな!」そう叫んだボクは、掴んだ襟は離さずに顔面に右でパンチを入れた、1発、2発・・。

「このやろう!」後から蹴られて首をきめられて、ボクはあっけなく道路に転がされた。
「コイツ、オレの歯・・折りやがった!」

ボクが不意打ちのチョーパンを喰らわせたヤツが、押さえた口元から血が流しながらモゴモゴ言った。ざまあみろ・・・。

「R高のくせに・・なめやがって!」
それからのヤツらは容赦無かった。ボクは必死に固まろうとしたが蹴られてひっくり返されて・・・結局、ポケットの財布は奪われてしまった。

何発殴られて蹴られたんだろう、こんな時・・耐えている時間ってのは長いんだな・・。

そのうち「・・ヤベ、おいマッポだ!」3人の内の1人がそう叫んで、ヤツらはバタバタと逃げて行った。

路上で蹲ったボクの目の前には、空っぽの財布が転がっていた。

「君、大丈夫か?」腰の警棒に手を当てながら警官がボクに駆け寄って来た。

「・・はい、大丈夫ですけど、お金が・・」
「全く、○高のヤツらだな・・・立てるか?」

「はい・・」

その後、駅前の交番で被害届を出して、ボクは仰々しくパトカーで家まで送って貰ったのだ。



はは、あの時も後から顔が脹れて体中ズキズキして、ひと晩寝られなかったもんな・・と思い出しながらボクは1人で笑った。
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ