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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ ・・第3部

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「いや、せいぜい頑張れよ・・そのカチっとしたロックとやらを楽しみにしてるぜ!」

「弱い犬ほど・・・」リエ坊はそう呟いてベースをスタンドに立て懸けた。
「なんだと?」
「今、なんつったんだ?」
キャバーンのメンバーでコイツは確か、ボーカルだったはずだ。
ソイツがリエ坊につかつかと寄ってきて、真正面に立ちはだかった。

「もう一遍、言ってみろよ!」
「スピッツって、知ってます?」
「・・なに?」

「真っ白で弱っちいくせにやたらと吠えまくって、人気の無い犬ですよ・・」
「知らないんですか?そんな事も」リエ坊は片頬に薄笑いを浮かべたまま、相手の目を見据えて言った。

「てめえ・・」
ソイツがリエ坊の胸ぐらを掴むのと同時に、ボクは2人の間に割って入った。

「まま、落ち着いて・・ね?!」
「先輩もリエさんも」
ボクは必死だった。
何とかリエ坊の胸ぐらを掴んだソイツの腕を離し、胸を押す感じで部室の外に出て貰おうとした。

「ふざけんなよ、なめんじゃね〜ぞ?てめえ!」
「邪魔だ、お前!」
ソイツはボクを突き飛ばし、尚もリエ坊に向かって行った。
「誰がスピッツだってんだよ、あ〜?!」

「ヤバイ・・!」ボクはソイツを後からタックルする形で抱き留め、体を後に捻った。
するといとも容易くソイツはゴロンと床に転がってしまい、その拍子に譜面台がいくつかなぎ倒されて派手な音がした。

「・・何だよ、何やってんだ?」
部室を出て行ったキャバーンのメンバーの1人が、その音を聞き付けて戻って来た。

「あ〜?何転がってんだ?」
「コ・コイツにやられたんだよ・・・コイツら、なめやがって!」
「いいから落ち着けよ、何だってんだ?一体・・」

転がったボーカルは、後頭部を摩りながらリエ坊に向かって言った。
「人の事、弱い犬とかぬかしやがってよ!」
「ふざけんじゃないわよ!先にケンカ売って来たのはソッチでしょ?」
「全く・・弱い犬程良く吠えるってほんとね!」
リエ坊はもう、笑っていなかった。

「分かったわかった、いいよ、もう・・」
「お前が先にいちゃもん付けたんじゃ、しょうがね〜じゃん。行くぞ?ほら・・」

仲間がソイツを立たせて部屋の外に連れ出そうとしたその時・・腹の虫が治まらなかったのか、ソイツは床に転がっていたボクのスネアケースを思いっきり蹴りあげた。
飛んで部室の壁に当たったスネアを見た瞬間、ボクはソイツに殴りかかった。

ふざけんな!お前なんかに・・お前なんかに蹴られてたまるもんか!オレのスネア!
たちまち取っ組み合いになり、ボクはソイツに馬乗りになって顔と言わず腕と言わずブン殴った。
すると後から引っぺがされて、今度はボクが袋叩きになった。
騒ぎを聞き付けて駆けつけたキャバーンの3人に散々蹴られてぶん殴られて、ボクは亀になるしか出来なかった。

「・・ギャ!」
「おい。止めろ!止めろってば、危ね〜だろ!」
ボクを抑えつけてた手足が一気に無くなって起き上ったボクは、信じられない光景を見た。

リエ坊が重いベースのネックを持って振り回して、キャバーンのヤツらを撃退してくれたのだ。
「いい加減にしなさいよ、え〜?!うちのドラムスに何かあったら・・」
ベースを持ち上げたまま、リエ坊はドスの効いた声でキャバーンのヤツらを一喝した。
「アンタら全員、ブッ殺してやるからね!」

その一声でみんな我に返ったのか、ボクに一瞥して部室を出て行った。

「大丈夫?シン!」リエ坊はベースを置いて、ボクに駆け寄ってくれた。
「はは、やられちゃったな・・カッコ悪いや」
「バカ!笑ってる場合じゃないでしょ!」
「怪我は?腕とか足は・・大丈夫?」

「うん、大丈夫みたい・・・」ボクはグッパーしたり足を動かしたりして、取り敢えず骨折なんかはしてないよ・・と呟いた。
「目は?見える?」
「うん、見える・・けど、左が赤いね、切れてる?」
「うん、酷いよ・・ぱっくり切れてる!」
リエ坊はそう言いながら、自分のバッグからハンカチを出してボクの左瞼の傷に当ててくれた。

「もう、1人で向かって行くんだから・・バカよ、シンは」リエ坊はしゃくり上げながらボクの頭を抱いた。
「だってアイツら、リエに乱暴しようとしたし、オレのスネア蹴ったから・・・あ!」
スネアは?無事・・?とボクはスネアをケースから出した。

「良かった、ヘッドは破れてないや・・」ホっとしたボクはまた、床にへたり込んでしまった。

「もう、バカ!スネアなんて・・壊れたって直せるでしょ?シンが怪我しちゃったら、私・・・」
怖かったんだから!と、リエ坊はボクにしがみついて震えながら泣きだした。

「リエ」
「シンのバカ、何であんな無茶するのよ〜!」一頻り、リエ坊は泣いた。
今度は逆に、ボクがリエ坊を慰める番だった。

「大丈夫だよ、ほら・・ピンピンしてるんだからさ!」
「でも、リエ・・凄かったな、重いベース振り回して助けてくれたんだもんな、ありがと!」
「シン、私・・・」
「シンに何かあったらって私、勝手に体が動いちゃった」
「うん、有難う、リエ・・」ボクはリエ坊を抱きしめて、頭を撫でた。

リエ坊の髪の匂いが場違いに甘くて、ボクは声を出さずに笑った。

「さ、行こう?」
「へ?行くって、どこへ?」
「決まってるでしょ?救急外来よ!」
リエ坊はそう言うと、ボクの手を引いて立ち上がった。

「シン、しっかりハンカチ当てといてね?瞼に・・」
「うん、でも」
「なに?」
「診てくれるの?こんな傷でも」
そういう傷は、ちゃんと消毒して縫合しなければいけないんだ・・・とリエ坊は言いながらもう、部室のドアを開けていた。

「ごめん、リエ・・」
「なに?」

「一服させて?」
「え?煙草なんて・・どうして?」
「うん、ちょっと・・落ち着きたいんだ。」

仕方ないな・・とそれでもリエ坊は戻ってきて、ボクの前に座ってくれた。
「痛む?」
「ううん、痛みはそうでもないよ、でも・・」
「でも?」

「ごめんね、練習時間減っちゃって・・・」
「バカ、それどころじゃないでしょ、今は!」
だってさ、2人の足手まといにはなりたくないから・・とボクは続けた。

「いいわよ、今日くらいは」リエ坊は微笑みながら言った。
「でもビックリしたわ・・・」
「え、何が?」

「まさか、シンが飛びかかっていくとは思わなかったもん、私」
「そう?」
「うん、そんなタイプには見えなかったな、シンは・・」
それって、ガッカリって事・・?とボクは聞いた。

「ううん、逆よ。無茶だったけど・・男なんだなってね」
そう言ってリエ坊は、ボクの頬にキスしてくれた。

「そろそろ・・行こう?!」
「う、うん」

ボクは、左手でハンカチを傷に当てたままリエ坊の後について行った。
途中の階段で危うく、一段飛ばして転げそうになったが・・・。

「大丈夫?フラフラするの?」
「ううん、片目だからさ・・遠近感がね」
「そうか、そうだよね・・・ゴメンね?!」
リエ坊がボクの手を引いて歩きだした。

「いいよ、リエ・・恥ずかしいじゃん」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ?」
「躓いて転んで、傷増やしてもいいの?」
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ