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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ ・・第3部

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「どうしたの、それ」

リエ坊は、可愛いエプロンをしていた。その白いフリル付きのエプロンは、昨日お母さんがしてたヤツじゃなかったか?

ボクがそれを言うと「うん、これも借りて来ちゃった」
舌をチロっと出して微笑むリエ坊は、いつものリエ坊と全く違う雰囲気で・・・ボクは慌てた。

「リエさん、変わるんだね・・感じがさ」
「へへ、どう?変かな?」

ううん、いいよ、可愛い・・とボクは言いながら起きだして、洗面所に行った。

歯を磨きながらボクは、考えていた。
あのリエ坊は一体、いくつ顔を持っているんだろう・・・そうなんだよな、知らない事ばっかなんだな。

ガラガラ・・とうがいを済ませてサッパリした途端、グ〜っとお腹が鳴った。

見ればボクの貧相なテーブルにはテーブルクロスが敷かれていて、朝食の準備がすっかり整っていた。

「ありゃま、何か、豪華な食卓だね・・・」
「ごめん、やり過ぎた?」
「ううん、ビックリしただけ」

テーブルの真ん中にはレースのクロス、上には洒落たパン籠・・中には切ったフランスパンが山盛り。
そして白いお皿にはオムレツと焙ったカリカリのベーコンとサラダ、そしてスープ皿にはあの、ビシソワース・・・。

「シン・・」
「なに?」
「コーヒー、お願いしてもいい?」

「いいよ」ボクはアイスコーヒーを淹れようと立ち上がった。
その時リエ坊が冷蔵庫から袋を出して、ボクに持たせた。

「これも、持ってきちゃった・・・」
「うん?これは?」
「昨日、シンが飲んで美味しいって言ったから」
「あ、マンデリン?」

「うん、ダメ?」
「ダメなんて、そんな・・・有難う・・」

ボクはちょっと複雑な想いでコーヒーを淹れた。
立ち上る香りは、やはり恵子を思い出させた。

「恵子さん・・だっけ?好きだったんでしょ?この豆・・」

「うん、好きだった」
「シン・・・怒ってる?」
「ううん、怒ってないよ、懐かしいなって」
それにオレ、外でコーヒー飲む時はこれなんだよ・・・とボクは微笑んで見せた。
「良かった」
「・・有難う」

そうなんだ・・リエ坊はボクの喜ぶ顔が見たくて、テーブルクロスに食べ物、お皿までふうふう言いながら持って来てくれたんだ。
ムクムクと膨らむ豆を見ながら、ボクは自然に微笑んでいた。

コーヒーをグラスに入れて、テーブルに置いた。

「さ、頂きましょ?」
「うん、頂きま〜す」

スープ、サラダ、オムレツ・・・どれも美味しかった。
「・・リエさん、凄いね!オムレツなんて久しぶりに食べたよ!」
「すごく美味しい!」

「・・良かった。実は私も久しぶりなの、作ったの」
「へ〜、大したもんだよ」

ふふ・・とリエ坊は笑いながら食べた。
ボクもパンを片手に持ったまま、スープとお皿を行ったり来たり・・。

パン籠の中が空っぽになって、リエ坊が言った。
「どうする?もう少し・・パン切ろうか?」

「ううん、いいよ、もう」
「オムレツもベーコンも無くなっちゃったからね」

じゃ、はい・・・とリエ坊は自分の残ったオムレツとベーコンをボクの皿に移してくれた。

「あ、いいよ・・・リエさん」
「自分のなくなっちゃうじゃん!」

「うん、私、朝はあんまり食べないから・・シン、食べて?」

今、パン切ってくるからね・・・とリエ坊は立ち上がって、俎板でパンを切ってくれた。

「はい、お待たせ」
「いいの?」
「うん、食べて?!」

結局ボクは、遠慮なく食べてしまった。
先に食べ終わった・・と言うか、食べるモノが無くなったリエ坊は、そんなボクをニコニコと眺めていた。

「・・今、何時?」ふとボクは聞いた。
「いま?12時半。」

「え〜、お昼じゃん、もう!」
「うん、お昼に朝ごはん食べたんだよね、私達」リエ坊が笑いながら言った。

「リエさんは何時に起きたの?」

「私は・・・9時位だったかな・・」
「そうだったんだ、起こしてくれれば良かったのに」
「だって、すんごい幸せそうな顔して寝てるんだもん・・起こせないよ、可哀想でさ」

幸せそうって・・・どんな顔?とボクが聞くと、リエ坊は「・・こ〜んな顔」とポカンと口を開けて目を閉じてみせた。

「なんか・・・間抜けな顔だな」
「あはは、だって本当なんだもん、可愛かったよ・・寝顔」

リエ坊はテーブルに両肘で頬杖をついて、ボクを見た。

「あ〜あ、恥ずかしいとこ見られちゃったな」
ボクはそんなリエ坊の視線が眩しくて、コーヒーを飲んだ。

「シン、あのね・・」
「うん、何?」
「・・いいや、何でもない!」
「なんだよ・・」

さ、御片付けしなきゃ・・リエ坊が立ち上がった。
「あ、いいよ、オレやるから」

「ううん、いい。シンはシャワー浴びて・・出る準備して?」
「もう行くの?早くない?」
「うん、練習は2時からだけどね・・ちょっと聞きたいじゃない?他のバンドの出来も」

そうか、ボクらの前には他のバンドが練習してるんだもんな・・。

「分かった、じゃ、お願いしていい?」
「うん、すぐやっちゃうから」

リエ坊は手早く食器を洗いだした。

ボクはシャワーの後着替えて、スネアケース、スコアとスティックの入った袋を準備した。
あ、タオルも多めにね。

「あ、シン・・これ」
「なに?」
「スコアのお金、払ってなかったでしょ?」
「有難う、助かるな!文無しだったからさ」

ボクは、昨夜の交番での経緯を話した。
「何だ、一度帰ってくれば良かったのに・・」
「行ける訳ないじゃん、カッコ悪くて!」
「変なトコ、ええかっこしいなんだね、シンは・・」リエ坊は笑った。

「だって・・」
「分かった、じゃ・・私が今日帰る時に交番に寄って払っとくよ!」
「いいの?」
「うん、そうしよ?」

「借りたまんまなんて、ヤじゃん?」
「有難う・・・」

ボクは貰ったスコアの代金の中から、電車賃を渡そうとしたがリエ坊は受け取らなかった。
「いいわよ、それ位」
「じゃ、朝ごはん代は?」
「バカ!」

リエ坊はそう言って抱きついてきた。

「好きな男の家に押しかけて、泊って朝ご飯作って・・」
「朝食代・・請求する女なんていると思う?」
「ごめん」
「シンって、子供なんだか大人なんだか分かんないね、ほんと・・」

リエ坊は笑って、ボクのほっぺたをピチピチと叩く真似をした。

さ、行こうか・・・とリエ坊はベースとバッグを抱えて玄関でボクを待った。

「うん」ボクは慌ててカーテンを閉めて、エアコンを切った。
「お待たせ・・・」

重いドアを開けて、一気に暑い空気の中にボクらは出た。

「持とうか?」
「ううん、平気!」

リエ坊が先になり階段を下りて、ボクらは大学へと向かった。

日差しは容赦なくボクらの影を小さくして、アスファルトを焦がしていた。
明大前の坂を登りきって、改札口を右に見て橋を渡り交差点を左に折れると、もう大学は目の前だった。

「あっついね、今日も」
「うん、そうか・・リエさん、普段なら駅からだもんね」

「そうよ、いつもの4倍は歩いてるわね、昨日と今日は」
リエ坊はそう言ってボクを振り返った。

「今のは文句じゃないからね?!」
「分かってるよ、その位」
「なら、いいわ」
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ