ノブ ・・第3部
「で?アンタは何て?」
「おう、楽しみにしてろよって言ったけど、ピリピリしてたな、アイツ等」
そう言いながらタカダは、ギターとシールド、エフェクターのボードを出して準備を始めた。
「私、言っちゃったのよ、3人揃って良かったね、リエちゃん・・なんて言われて頭来てさ」
「そっちよりいい演奏してやるから!みたいな事をね」
ガハハ・・と今度は豪快にタカダが笑った。
「さすがリエ坊、言ってやれ言ってやれ!」
「どうせ下手くその集まりなんだから、気にするコトね〜って!」
「ま、アイツ等もな、オレとリエ坊に振られて頭来てたんだろ、きっと」
「あの・・」ボクは頃合いを見計らって聞きたかった事を聞いた。
「2人とも誘いを断ったんですか?」
「うん、だって・・・詰まんねぇじゃん、ビートルズのコピーばっかなんてよ、それに」
「・・それに?」
オレ、下手とやってるとダメなんだ、やる気失せちゃうの・・とタカダは笑った。
「セックスと一緒だな、音楽もよ」
「・・はぁ」
「な?!リエ坊もそうだろ?下手な男となんかやりたかねぇよな?!」
バカばっかり言ってるんじゃないわよとリエ坊も笑いながらベースのチューニングを始めた。
タカダもアンプのスイッチを入れて、音出しを始めた。
ボクは何て言っていいのか分からずに黙っていたが、あのビートルズバンドの演奏をボクは上手いと思った。
でも、タカダにかかっては、下手くそ・・と一蹴されてしまう。
「そんな人達と組んじゃったんだ・・」
各々チューニングする2人を眺めながら、改めてボクは身震いみたいなものを感じていた。
本気になった2人の演奏を聞いてみたい・・そして、それをブチ壊す様な無様な真似だけは何としても避けたいと本気でボクは思った。
「・・・じゃキッスから、サラっと」
「おう」とタカダ。
ボクも頷いた。
タカダのイントロが始まった。
しかしそれは、昨日とは違ったアコースティックギターみたいな音だった。
「音、変えたんだ」
ボクは聞き惚れてしまい危うく出だしを間違いそうになったが、何とか入れた。
歌いながら聞いていると、ギターの音がまた変わって今度はエレキの音になっている。
エフェクターって凄いな・・と思いながら、ボクは精一杯ピーターになりきって歌って叩いた。
オカズはまだまだ、うまくは入れられなかったが基本のリズムは何とか叩ける様にはなった。
「・・ベイビー ティル ユァ ファインド ユァ メン・・」
「オ〜イェ バァイバイ キープオンムービン・・」
歌詞が終わって、リフレインの所まで来た時、リエ坊が手を挙げて演奏をストップさせた。
「ちょっとさ、マイク通そうよ」
「ボーカル聞きながらやろう」
そうだな・・とタカダもギターを一旦、置いた。
ベースを置いたリエ坊は、マイクスタンドのブームを一杯に伸ばして横からボクの目の前にマイクを出した。
「これなら、叩くのに邪魔にならないでしょ?」
「はぁ、でも・・」
「なに?」
「叩きながら歌うって、やった事ないんですけど」
「なに言ってるの?!今やってたじゃん、途切れ途切れに聞こえたよ、シンが一生懸命に歌ってたの」
「そのままやればいいのよ、マイクが拾ってくれたら私達もやりやすいんだから・・ね?!」
「はい・・」
汗が、今になって噴きだしてきた。
はいとは言ったものの、自信なんてかけらも無かったし。
でもやるしかないんだな、恥ずかしいなんて言ってられないんだ、ボーカルなんだから・・とボクはタオルで噴きだした汗を拭いて言った。
「・・いいっす、いきましょ!」
タカダがボクを見て、ニコっとした。
そしてイントロを弾き始めた。
リエ坊がボーカルのモニターをボクの方にも1つ向けてくれたお陰で、ボクも自分の声を聞きながら叩く事が出来た。
何とか通しを終えて、また汗がドっと出てきた。
「ふ〜・・」
「シン、覚えて来たんだね、歌詞も大体のタブも!」
「はい、夕べちょっと・・頑張りました」
お陰で太腿が脹れあがっちゃいましたけど・・とボクはホっとして笑った。
「いや、お前って」
真面目なんだな・・とギターをスタンドに立てかけて、一服しながらタカダが言った。
「タブってかスコア、全部目通したのか?」
「はい、やっとかなきゃ・・って思ったんで」
「でもオカズは全然ムリです、叩けません」
いいよ、オカずなんてそのうち自然に叩ける様になるからよ・・とタカダはボクにも一本、勧めてくれた。
「有難うございます」
タカダの煙草は、川村と同じ・・男のショッポだった。
タカダは煙を上に吐き出しながら言った。
「いいよ、マジで。いい感じのタイコだ」
オレ好みの音だよ、シンのタイコは・・・と、タカダは嬉しいコトを言ってくれた。
「お前、結構足の力があるんだな」
「え、何でです?」
「バスドラの切れがいいからさ。初めはなかなか出ないんだよ、切れのいいバスドラの音ってよ」
そうなんだ・・ってコトは、太腿を犠牲にして、右足がピクピク痙攣するまで叩いた昨夜の特訓は無駄じゃなかったワケだ。
はい、休憩しよ・・とリエ坊がコーラを買って来てくれた。
「ほら、アンタも」
「サンキュ!」
3人でコーラを飲みながら、ボクは止まらない汗を拭いた。
「歌詞は?どれ位覚えたの?」
「まだ自信無いっすけど・・スコア見ながら覚えようと努力はしました」
スコア見ながら太腿とか机叩いてたら、頭ん中で曲が聞こえる様な気がして・・とボクは昨日の練習を2人に話した。
「いいんですかね、こんな練習で」
「うん、今はそれでいい」
珍しくタカダは、真面目な顔で言った。
「あとはな、曲を聞くんだよ、それこそ・・・テープが擦り切れる位」
「もう、イヤだ〜って、飽きたよコレって思う位聞くんだ、嫌でもな?!」
「暫くそうして曲を完全に覚えてからまた、タブ見てみな?」
「こんなの叩けないって思ってたトコも、あっさり叩けるぜ、きっと」
「・・そういうもんなんですか?」
おう、そういうもんだ、多分な?!ガハハ・・とタカダは笑ってコーラを飲み許した。
「さ、次いくか!」
「はい」
ドラムセットに座ってスティックを握ると、リエ坊がボクに言った。
「シン、スティックでカウント取って?!」
「・・パープル ヘイズ」
「おう、いつでもいいぜ」タカダは、もう笑ってなかった。
「あ、そうそう・・」
リエ坊は突然ベースを置いて、自分の前にマイクを立てた。
「ジミヘン、私歌うから!」
「いいな、頼むよ」
正直、ボクはホっとした。
ジミヘンの2曲だけは全部をちゃんと聴いた事がなかったから、スコアをいくら見てもピンと来なかったのだ。
それにドラムのタブも難しくて、歌いながらの自信なんて無かったからね。
「シン、カウント・・」
「はい!」
ボクはスティックでカウントを刻んだ。
ワン ツー スリー フォー・・・
特徴的なギターのイントロが始まって、すぐにボクとリエ坊が被さった。
曲の緊張感が、だんだんと高まってきてボクの気分も高揚してきた。
「・・ここからだ」
ボクは初めてのスネアの裏打ちに必死になりながら、ギターを聞いた。
「パープル ヘイズ!」



