ノブ ・・第3部
「キャバレーのバンドマンか・・渋過ぎ〜!」
ハハハ・・と男達の笑い声が続いた。
「でよ、同じ店で女働かせてさ、ここの学費出させてるんだってな!」
「え〜何だそれ、ヒモじゃん?!」
「そうさ、お気楽な身分だよ」
そうやって学校来ねぇでよ、1日中ギター弄くってたら、そりゃ上手くもなるわな・・と男達は笑った。
ん?完全にタカダを馬鹿にしてるのか?でも半分・・・演奏のうまいタカダに僻みまくってる様にも聞こえるし。
ボクはヤモリの様に、ペッタンコになってドアに張り付いた。
「それに、あのリエ様だろ?」
「あ〜、いい女なんだけどね」
「いくらいい女でもよ、あんな生意気な女も滅多にいないぜ?こう、腕組みかなんかしちゃってさ・・」
「でもさ、あの子のベース・・いいんだよな」
「そう、そこなんだよ、悔しいのは!」
「何でオレ達じゃなくてタカダなんだ?」
「なんか高校からの付き合いらしいじゃんよ、アイツ等・・」
そうなんだ、じゃ仕方ないか・・と1人の男がガッカリした声を出した。
ふむふむ・・何となくだけど分かってきた様な気がしたぞ。
とにかくタカダは、いや・・あの2人は、他の部員から一目も二目も置かれているのは間違いない。
でも、どうやら関係はあんまり良さ気では、ないんだな。
「でも、学園祭までにどんなメンバー連れてくる積もりなんだ?」
「どうすんだろ、ドラムとかキーボは・・」
「いいじゃん、アイツ等の事まで心配するコト無いって!」
「もしも見つからなかったら、バンザイだろ・・すんません!ってな?!」
ヤバ・・・ボクはヤモリのまま、凍りついた。
ってコトは、本当にボクがヘナチョコだったらあの2人に大恥かかせちゃうんだ・・と背筋に冷たいものが走った。
ボクは少しだけ後悔した、ドラムを安請け合いしたことに。
「さて・・じゃ、頭からいくか?!」
「うん」
また練習が始まった。
今度は、シー ラブズ ユーだった。
「・・うまい」
ボクは、曲の頭のドラムとコーラスに痺れてしまった。
でも、その演奏を聞いてるうちに、ボクの中でメラメラと何かが湧きあがってきた。
「負けるもんか」
それは、闘志と言っていいものかもしれなかった。
シー ラブズ ユーの後も演奏は続いた。
・・・ア ハード デイズナイト、オール マイ ラビング、涙の乗車券・・・と、どうやら初期から中期のビートルズをやるらしい。
どの曲も完成度が結構高くて聞かせる演奏だった。
コーラスが特に良かった。
「ボーカル・・プレッシャーだね、こりゃ」
食べ終わったマックの袋を丸めて、ゴミ箱に捨てようと立ち上がった時、リエ坊の姿が視界の隅に入った。
リエ坊は長い髪をなびかせて、黒いケースを肩にかけて颯爽と歩いて来た。
「お、シン・・早いじゃない?」
「ども!早く着いちゃったんで聞いてたんですよ、ビートルズ」
「あ〜、キャバーンのヤツらね?!」
で、どうだった?聞いた感じは・・とリエ坊はベースを置いて微笑みながら言った。
「・・いいっすね、上手いっす」
「でしょ、コーラスもいいしね、彼ら」
「でも・・」
「でも?なに?」
何か感じ良くないです、このグループ・・とボクはさっき聞いた話を思い出して、眉間に皺を寄せた。
「何か言われたの?」
「いや、ただ・・タカダさんのコト、あんまり良く思ってないみたいなんで」
「あ〜、いいのよ、彼は敵多いからね。それに・・」
「下手な演奏聞くとあからさまに顔に出すからバレちゃうのよね、思ってるコトがさ」
リエ坊は続けた。
「あはは、いいじゃん・・別に!」
「人に何言われようが私達はわたし達で、カチっとしたロックやればいいのよ!」
「さ、時間だから行きましょ!期待してるわよ、ドラムス!」
リエ坊はボクの肩を元気良く叩いて、ベースを担いで部室にズケズケと入って行った。
おずおずと、ボクも続いた。
「お疲れで〜す!」
時計を見たら、確かに2時を少し過ぎていた。
「お?!時間?」
「は〜い、撤収して下さいね!もう私達の時間ですから」
「なんだよ、いいとこだったのに」
キャバーンの連中はぶつくさ言ったが、リエ坊は耳を貸さずにドカっとビールケースに座って足を組んで煙草に火を点けた。
キャバーンのメンバーは、楽器を仕舞いながら見慣れぬボクを見た。
「・・だれ?彼」
「あ、紹介しときます、うちのボーカル兼ドラムスのシンです」
「へー、やっと見つかったんだ・・良かったね、リ〜エちゃん!」
「ほんと、3人なら何とかステージには立てるもんな!」
この一言に、他のメンバーがヘラヘラと笑った。
リエ坊の顔色が、一瞬サっと変わった。
「えぇ、お陰さまで・・」
「でも、バンドは頭数じゃないですから」
「どこかの皆さんみたいに人数は揃ってるけど・・っていうのより、3人でもいいプレーが出来ればいいんです、私達」
「何だって?」
今度はキャバーンのメンバーの顔色が変わった。
リエ坊はそんな連中を無視する様にフ〜っと煙を窓に向かって吐いて、ボクに言った。
「さ、シン、準備しようか!」
「・・あ、はい」
ボクはキャバーンのメンバーの刺す様な視線の中をドラムセットに向かい、取り付けられてたスネアを外して後の壁に立てかけてケースから自分のスネアを出して取り付けた。
けっ、カッコつけやがってよ・・・と独り言の様な捨て台詞を残してキャバーンの連中が部室を出て行った。
「リエさん・・・凄いっすね!」
「女の人の啖呵って、初めて聞きましたよ」
「だってムカつくじゃん、あんな言われ方したらさ!」
リエ坊は、咥え煙草で後ろ手に髪を縛りながら言った。
でも、顔はもう笑っていた。
「・・なんか、さっきは僻んでるみたいにも聞こえたんですよ、オレ」
「タカダさんのギターとか、リエさんのプレーに」
「そうかもね、私も以前に誘われてキッパリ断っちゃったし!」
「そうだったんですか?!」
「うん、私がやりたいのはガチガチのロックですから・・って断ったんだ」
「ビートルズも嫌いじゃないよ?勿論」
「でもさ、そればっかって、詰まんないじゃない?」
リエ坊はシールドをベースアンプに繋いで、一旦ベースを置いてこっちに来た。
「なに、シン、スネア買ったの?!」
「はい、スコアとスティック買いに行った所で・・・中古ですけど、実は貰っちゃったんです、これ」
「へ〜、ラッキーじゃない!まだまだ綺麗だしね」
いや、昨夜一生懸命に磨いたんですよ、これでも・・とボクは笑って、昨日の経緯を話した。
「そうなんだ・・良かったね、シン!」
「自分のだと愛着湧くでしょ?」
「そうなんです、何かダッコして寝ちゃおうかな〜?なんて・・」
アハハ・・とボクらが笑ってるところに、タカダが入って来た。
「よう、早いな2人とも・・」
「何言ってんのよ、時間でしょ?もう」
ガハハ、すまんすまん・・・とタカダは笑いながらギターを置いて、ジッポで煙草に火を点けた。
「お、さっきキャバーンの連中とそこで会ったけどよ、何かあったのか?」
「アンタ・・何か言われたの?」
「いや、珍しくアイツ等から声かけてきてな・・」
「後夜祭、楽しみにしてるからって肩たたかれてよ」



