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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ ・・第3部

INDEX|40ページ/70ページ|

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「ティア ドロップス・・」

「なに?」
リエ坊は、モグモグしながらボクを見上げた。

「いいよ、リエさん」
「もう、泣かないで?!」
「リエさんだけが悪いんじゃないもん、オレだって・・いや、オレの方だよ、悪いのはさ」

「そんな事ないよ、シンは私の我が儘に付き合ってくれただけなんだから」
「ううん、違うよ?それは」

ボクはキッパリと断って帰る事も出来たし、帰らないまでもリエ坊を送る事だって出来たはずだった。
でも、結局ボクはそうはしなかった。恭子に悪いとは勿論思ったが、でも、あくまでも思っただけ・・・と、リエ坊に言った。

「オレね、弱いんだと思う、自分が」
「・・でもさ、嫌いな人だったら、一晩一緒になんていなかったよ」
「リエさん、いい女過ぎたんだね」

そんないい女に言い寄られたら、男はダメさ・・と。

「じゃ、私達、2人ともダメなのかな」
「うん、もしかしたらね」
ちょっと、悪さ加減はボクの方に傾いてるけどね・・とボクは自嘲しながら続けた。

「このピザ・・」
「うん」
「お母さんの味だよ、シン・・」

お母さん、私が嫌ってても変わらずに作っててくれてたんだね、ピザ・・とリエ坊はピザを全部口に押し込んで泣きながら食べた。
「お母さん、ゴメンなさいって謝りたい」
「リエさん・・」
「おかしいね、私・・」
「泣けてきちゃうんだよ、シン〜!」

リエ坊はボクに抱きついてきて泣いた。
小さな声で、お母さん・・と言いながら。

ボクはリエ坊の頭を撫でながら言った。
「リエさん、やっぱり大好きなんだね、お母さんの事・・」
「・・・・」
言葉は無かったが、リエ坊の頭がコクっと頷いた。

「じゃ、もう・・浮気は許したの?」
「分かんない、でも、もう・・」
どうでもいいのかもしれない・・とリエ坊はボクから離れて、涙を手の甲で拭った。

「ティッシュ!」
ベースアンプの上に置いたあったティッシュで、リエ坊は静かに鼻をかんだ。
「悔しいけどさ、アイツが言ってた事、当たってると思う」
「アイツって?」
「タカダよ、言ってたでしょ?」

「親だって、男と女・・人間なんだから、子供に言えない事情や秘密があってもおかしくないんだって」
「うん、言ってたね」
「そう思う事にする・・」
「多分、お母さん、私が知ってるって分かってないもん」

「そうなんだろうね、きっと」
「だから、もういい」
「お母さんのプライベートは、もういい!」

リエ坊は幾分スッキリとした顔で、ボクに向かって微笑んだ。

「ごめんね、本当に泣き虫なんだね、私・・」
「いいさ、ティアドロップスなんだから」
「うん、浮気しようがしまいが・・お母さんはお母さんなんだよね。私が好きなピザを、いつも作ってくれる・・」

リエ坊は、今度は本当に明るい顔で微笑んだ。
良かった・・ボクもその笑顔に救われた感じだった。

「シン・・のど、渇かない?」
「うん、何か飲みたいね」

私、何か持って来るから待ってて?とリエ坊が小屋を出て行った。
静かに扉が閉まって、小さなウイ〜ンというエアコンの響きだけが耳に付いた。

ボクは、残ってたもう一枚のピザを食べた。
「うん、お母さんの味か」

何故なんだろう、お袋さんのけんちん汁が食べたいな・・と唐突に思って、ボクは笑ってしまった。
「何で、けんちん汁なんだ?」


ピザを食べ終わって一服しながら、ボクはリエ坊の笑顔を思い出していた。
「これからはきっとうまくいくんだろうな、お母さんと」
良かったね、リエ坊。

「でも遅いな・・」         

リエ坊はなかなか帰って来なかった。

「1人でやってるか」
帰って来るまでの間、ボクは自主トレする事にした。

クリームのサンシャイン ラブもイーグルスの呪われた夜も大好きな曲だったから、メロディーもリズムも頭に残っていた。
ハイハットの横に譜面台を置いて、スコアを開き・・ボクはタブ譜を拾いながら叩いた。

「フフフ、フフ〜ン・・」頭の中で曲を鳴らして、スコアの歌詞を口ずさみながら。
2曲を繰り返し叩いているうちに段々とノってきたボクは、いつしか大声で歌いながら叩いていた。

小屋の中はクーラーが効いていたが、それでも汗が目に沁みてTシャツの袖で拭いながら・・・。

「・・・・!」
「・・シンってば!」リエ坊はトレーを抱えてボクの前に立った。

ドラムの音と自分の声で、ボクはリエ坊が入って来た事にも気付かなかったらしい。
「あ、リエさん・・」
「もう、何回呼んでも気が付かないんだから!」
「ゴメン、ちょっと気分出し過ぎちゃった」

ボクはスティックを置いて、マイクのスイッチを切った。

「でも、いい感じだったじゃん?!」
「うん、好きな曲だからかな、タブ追っかけるのも楽だよ」
「・・そんな感じ。今までよりも早く仕上がりそうだね、その調子なら」

「だといいけどね」ボクは笑いながら汗を拭いた。

「はい」
リエ坊が渡してくれたグラスには、アイスコーヒーが入っていた。
「サンキュ、有難いよ」

一口飲んでボクは、懐かしい味に驚いた。
「これ、マンデリンじゃない?」
「知らない、お母さんが淹れてくれたの」
「シンはブラックが好きだからってお願いして」

リエ坊は少し恥ずかしそうに、だから私もブラックなの・・と自分も一口飲んだ。
「いいね、ブラックの方が」
「・・うん」
「本当に香りが良く分かるわ、シン、有難う」

う、うん・・ボクは曖昧に頷く事しか出来なかった。

マンデリンは恵子の味だった。恭子は・・モカか。
コーヒーを飲んで静かになったボクを、リエ坊は少し不思議そうに眺めていた。

「どうしたの?ひょっとして美味しくない?」
「ううん、違うよ!美味しい・・」

グラスを見つめながら、このコーヒー、多分・・死んだ彼女が教えてくれたボクの一番好きな豆だよ・・とリエ坊に言った。

「そうなんだ、ゴメン」
「いや、謝んなくていいって。そんな積もりで言ったんじゃないよ」

懐かしい味だったからさ・・とボクはリエ坊に笑いかけた。
「オレさ、このマンデリンで初めてコーヒーって美味しいんだな〜って思ったんだ」
「だから、思い出の豆って事」

「シン・・」
「なに?」

「・・いい、何でもない!」リエ坊は無理やり笑って、言った。

「少し、合わせてみる?クリーム」
「うん」

ボクはグラスを置いて、スティックを握った。
リエ坊が何を言いかけたのかは分からなかったが、ボクはあえて考えるのを止めた。
きっと・・・。

サンシャイン ラブと呪われた夜・・それからボクらは、この2曲を繰り返して練習した。

前もってタブを見ていたのも随分助けにはなったが、やはりリエ坊のベースが入ると曲が一段と締まって雰囲気が出た。
叩いてても気持ち良かったし、ベースを鳴らすリエ坊もカッコ良かった。
キャバーンのヤツら、リエ坊の腕も勿論欲しかったんだろうけど、きっとこのリエ坊の姿もバンドに加えたかったに違いない。

ボクは、腰の辺りに提げた大きなベースを長い髪を振り乱して慣らすリエ坊に見とれた。

「カッコいい・・」
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ