ノブ ・・第3部
え?ちょっと待って・・とリエ坊がサワーを一口飲んで僕に言った。
「シン、現役だよね」
「・・はい」
「じゃ、私とは二つしか違わないんじゃない?」
「今、三つって言わなかった?」
「え?でもリエさん、21だって・・」
「そうよ、7月生まれだからね?この間21になっちゃったのよ」
って事は、ボクが11月で19ですから、2こ上なんですね・・・と、ボクはリエ坊を眺めながら言った。
「そうよ、三つじゃなくて、二つよ?!勘違いしないでくれる?」
はい了解しましたとボクは頭を軽く下げながら笑った。
そして恭子を思い出していた。
そうか、恭子も7月の10日生まれだから・・リエさんと同い年なんだな。
「なにニヤニヤしてんだよ、シン」
「へ?ニヤニヤなんて・・」
「ウソつけ!なに思い出し笑いしてたんだ?!」
思わぬタカダの突っ込みに、ボクはしどろもどろに答えるのがやっとだった。
「い、いや、彼女とリエさん、同じ年なんだな〜って」
「彼女って?あの亡くなった?」
「違います、先月から付き合いだした同級生なんですけど」
「そうか、シン・・彼女出来たんか」
はい、すいません・・とボクは下を向いてしまった。
「あはは、謝るコトね〜じゃんよ、別に」
「でも良かったな、シン!」
「え?何が、ですか?」
タカダは優しい顔になって言った。
「お前、死なれたって言ってたじゃん?」
「はい」
オレ達、こう見えても2人で心配してたんだよな?と、タカダはリエさんを見やった。
「うん、シン大丈夫なのかな?ってね」
「・・・」
「でね、こいつとも話してたんだ」
「新しい恋人でも出来ればねって」
「良かったって言うか安心したよ、オレも」タカダはボクのウーロンハイをグイっと飲んだ。
「あ、わりーな、コレ・・オレんじゃなかったな!」
ガハハ・・とタカダは笑ってまた、ボクの頭をグリグリした。
ボクは・・・子どもの様に頭をグリグリされて嬉しくなった。
そして、目頭がほんのりと熱くなってしまった。
この2人が、ボクの事をこんなに思ってくれていたとは。
「今ね・・」リエ坊がタカダに向かって話し出した。
「アンタがこんなに楽しそうなのは久しぶりだってシンに言ってたのよ」
「うん?オレがか?」
「そうよ、アンタよ!」
タカダのウーロンハイが運ばれてきて、タカダは笑いながらグイっと飲んで言った。
「まぁな、やっと見つかったドラムスだしよ、シンはその、なんだ・・」
もう一口、今度はグイ〜っとジョッキを傾けて、ふ〜っとため息交じりに続けた。
「手垢が付いてね〜じゃん?!素直だしよ」
「手垢ですか?」
そう、手垢・・と、タカダはボクをまっすぐに見て言った。
「お前、未経験だったろ?ドラム」
「はい、あの時が初めてっすから」
「だからよ、こっちの言うコトを謙虚っていうか、素直に聞くじゃん?」
はいとボクは神妙な顔で座り直した。
「ダメなんだよ、オレに言わせりゃ経験者はな」
「中途半端な経験とかテクニックってよ、かえって邪魔なんだ」
オレが組みたいタイコにはいらね〜んだよな・・タカダがショッポに火を点けて煙を吐き出しながら言った。
「プロ級の太鼓叩くヤツは別だけどな、素人の、なまじっか経験者ですみたいなヤツは嫌いなんだ、オレ」
「そんなヤツに限って能書きばっか言いやがってよ、ちょこちょこってオカズ勝手に入れて、いい気になったりな」
「あはは、いたよね、そんなヤツも・・シン、一本ちょうだい?!」と、リエ坊もセブンスターに火を点けて笑った。
「ってコトは、何人かその、オーディションみたいな事したんですか?」
「うん、やったわよ、こっちも焦ってたからね、学園祭まで時間も迫ってきてたから」
そうだったんだ・・で、結局、ボクに白羽の矢が立ったと。
「オーディションなんて大袈裟なもんじゃないけどさ、3人は来たのよ、ドラムス希望者がね」
「はい」
「それぞれ経験者でね、ロック好きです!みたいに言うから叩かせたら・・」
ダメなんだよ・・とタカダが割って入った。
「なんて言うかな・・へなちょこでな、バスドラの一発いっぱつ、ハイハットとかスネアのショットに、気持ちが入ってね〜んだよ!」
そんなへなちょこリズムに乗っかれるワケね〜じゃん?オレのギターがよ・・とタカダは、今度は静かに言った。
「お前の太鼓はな」
「はい・・」
ボクは少し、緊張した。タカダは何と言う積もりなんだろうか。
「まだまだ下手くそなんだけどよ、バスドラとかスネアの一発がな・・」
「届くんだよ、ここに」
タカダは自分の胸を叩いてみせた。
「だから、一緒に音出ししてて響くんだな、お前のやる気、一生懸命さみたいなのが」
「そうね、私も感じるわよ、シンの音っていうか気持ちみたいなの」
ちゃ〜んと響いてるからね?ここにと、リエ坊も胸に手を当ててくれた。
「そう・・なんですか?オレ、良く分かんないっすけど」
音楽って不思議なモンでな・・タカダは続けた。
「適当にやったら、それなりの音しか出してくれないんだ、楽器はな」
「だからなまじっか、中途半端な経験とかテクニックがあると、それなりにしか鳴らないんだよ、どんな楽器も」
「そんなんじゃ、人の心になんか届く訳ね〜じゃん?!」
それよりも大事なモノがあるんだよ、音楽には・・・タカダがジョッキを置いて、静かになった。
そして、言った。
「パッション・・そう、パッションだな、最後に必要なのは」
「情熱、知ってるか?」
「はい、好きで好きでたまらない・・これをヤリたい!って気持ちでいいですか?」
「そう、それだよ、分かってんじゃん!」
「そうなんですか・・でも深いんですね、音楽って」
「そうね、そうかもしれないね、ほんと」
「だからね・・一生懸命に練習するのよ、私も」
いい音だしたいな〜っていつも思いながらね・・とリエ坊もジョッキを傾けた。
「だからな・・」タカダは続けた。
「今、オレ凄く楽しいんだな、ギター弾いててよ、リエ坊とシンの音がこう・・ココに響いてきてな」
「いい演奏しようぜ?!な、シン!」
はい!とボクもやっと、ニッコリ笑うコトが出来た。
「だけどな〜、なんでだ?」
「何が?」
「何でリエ坊は男いねぇんだ?」
突然の話題の転換に、ボクはビックリしながらもつい、笑ってしまった。
「そうですよね、リエさんこんなに綺麗なのに」
「ガハハ、言うな、シン!でもよ、褒めても厳しいぜ?!練習は」
なんたって粘着質だからな、リエ坊は・・とタカダは笑った。
リエ坊
「あのさ、どうだっていいけどね・・」
リエ坊がジョッキをテーブルにドン!と置いて、言った。
「男がいるとかいないとか関係無いんじゃない?この場合」
「そう・・ですよね?!」
ボクは結構、調子がいいヤツだったりもする、こんなバアイ。
「バカ、オレは心配してやってんだぞ?これでもよ!」
「だからぁそれが余計なお世話だって言ってんの、分からない?!」
マズい!2人の間に火花がパチパチっと見えた気がした。
「あ、あの・・・いいっすか?」
「んん〜?」