ノブ ・・第3部
いいけどよ、別に・・・タカダも苦笑するしかなかったのだろう、ボクに向かって「そういうコトらしい、心配すんな!な?!」
でも、学年は同級なんだけどな・・と下を向いて呟くタカダに、ボクは笑いながら「すんません・・ご馳走様です!」と言った。
鳥銀で飲み喰いしながら、ボクらは次の曲を話しあった。
「クリームのサンシャインラブと、イーグルスの呪われた夜だろ?」
「後は?どうするよ」
「え?!ちょ、ちょっと待って下さい・・」
「うん?なんだ?」
「後はって、一体何曲やるんですか?」
「そうね、各バンドの持ち時間が50分だから・・・10曲位用意するバンドもあるわね」
「じゅ、10曲?!」ボクは思わず持っていたジョッキを落っことしそうになってしまった。
「そんな、10曲なんて・・無理っすよ、オレ!」
今の4曲でも一杯いっぱいなんすから・・・と。
「な〜に早くも泣き入れてんだよ、シン・・」
「曲が多くて喜ぶんなら分かるけどよ、大丈夫、まだまだ時間あんだから!」
「そりゃそうっすけど」
「シン、考えてみて?今の4曲・・どの位時間かかった?」
「え〜っと、部室覗いたのが日曜日・・・今日が4日の木曜日ですよね・・」
「って事は・・・5日目です」と、ボクは指折り数えて言った。
「でしょ?」リエ坊が続けた。
「初めてドラムに触ってからさ、5日しか経ってないんだよ?シンは・・」
「その5日で4曲何とかなったんだから、大丈夫!まだまだいけるわよ!」
「そういうモンですかね・・何か不安なんですけど・・」
「シン、お前・・意外に肝っ玉小せ〜な」
「キンタマぶら下げてんだろ?でっかいの!」
いや、デカくはないと思いますけど・・ボクは思わず笑ってしまった。
そりゃね、タマタマは2個、持ってるけどさ。
「大丈夫だよ、余裕よゆう〜!」
「そうね、私も大丈夫だと思うわ・・・シンは、結構頑張り屋さんみたいだからさ」
「タマが大きいか小さいかは知らないけどね〜?!」
リエ坊が、ケラケラ笑いながら言った。
酔ったの?
「ガハハ!こいつ、こう見えて・・意外にアッチの方も頑張り屋かもよ?!な、リエ坊?」
「ちょっと勘弁して下さいよ、アッチの方は関係無いじゃないっすか、ドラムには」
「バカだな〜、シンは!」
タカダが、楽しそうに笑いながら言った。
「スケベじゃなかったらいい演奏なんて出来る訳ねぇじゃんよ、知らね〜のか?そんなコトも!」
「え、そうなんすか?」
いい演奏をするには、好奇心と探求心が何より必要なのだ・・・とタカダは言った。
「つまりな、好奇心が強くて、探究心・・・どうしたらいいのか、どうやってんだろう?って思うヤツじゃないと、上手くならね〜んだよ、音楽って」
「はぁ」
「セックスだって同じだろ?」
「どうやったら気持ち良くなるのか、どうしたら彼女が喜ぶのか・・」
「そう、スケベなヤツほど好奇心と探求心が旺盛なんだな!」
「それによ、うまく出来たら・・どっちも最高に気持ちいいじゃん?!」
タカダが、ダハハ〜と笑った。
「・・はぁ、そんなモンすかね」
「そう、そういうモンなんだ、セックスと音楽は似てるんだよな」
「イントロがあって、サビがあって・・・クライマックスってか?」
「だから、バンドやってる連中は、多分みんなスケベだな、オレの分析によると」
タカダはショッポに火を点けて、深く吸った。
ボクらの会話を聞いていたリエ坊も、言った。
「そうね、コイツの言うコトも、満更外れって訳じゃないわね」
「じゃ、リエさんも同じ意見なんですか?」
「うん、私もそう思うけど・・・1つ、足りないかもね?!」
「何だよ、何が足りね〜んだ?」
「愛情よ、相手を思いやる気持ち」
バカだな、リエ坊まで・・・と、タカダが大きな声を出した。
「愛情なんてのはな・・最初に必要なもんじゃんか!どっちにも」
「バンドだったら音楽に対する愛情、もう、この曲が好きですきで・・・ヤリたいんだ〜って気持ちと、仲間に対する愛情だろ?!」
「セックスだって、コイツが好きだ〜って気持ちが無かったらただのオナニーになっちまうじゃんか!」
「オレが言ってる意味、分かるか?」
「そうね、そう言われれば分かるよ、アンタの言うコトも」
「でも、もうちょっと声・・落としてくれない?アンタ、声デカ過ぎ!」
うん、確かに・・ボクは笑ってしまった。
タカダの言うコトは、本当なんだろうな・・と思ったし、リエ坊の声が・・もそう思った。
だって、さっきからセックスとかオナニーとか・・・タカダの声は店中に響き渡っていたから。
「そうか?声デカいか?オレ」
「でも、言ってる事は正しいだろ?だから・・」
コイツもきっと、スケベだぞ〜?!と楽しそうにボクの頭をグリグリした。
「ちょっと小便な」
つと立ちあがって、タカダはトイレに行った。
「久々に見たよ、あんなアイツ」
リエ坊が店の奥のトイレを見ながら、嘆息して言った。
「え?!そうなんですか?」
「うん」
あんな楽しそうなアイツ、久しぶり・・とリエ坊はジョッキを空けた。
「飲もうか、今夜は」
「はい・・」
ボクは、タカダの事を聞いていいのか悪いのか?少しの間逡巡した。
「レモンサワーお願〜い!シンは?」
「あ、じゃウーロンハイで」
アイツはね・・・とリエ坊がオーダーの後に語り出した。
「大学に入ってから、なんか上手く馴染めないみたいでさ、周りの同級生とかとね・・」
「部室にいる時だけ、ギター弾いてる時だけなのよ、生き生きした目をするのは」
「でもさ、メンバーなかなか見つからなかったでしょ?ほら、アイツ我が儘だから、下手だったり気に入らないともう、ヒドい態度取っちゃうんだよね」
「そうなんですか・・」
「うん、きっとね、音楽に関してだけは真面目なんだと思う」
「他は知らないけどさ!」
だから苛々しちゃうんだろうね、中途半端なの見ると・・と、リエ坊は続けた。
お待ちどう様!と飲み物が運ばれてきて、と同時にタカダもトイレから戻ってきた。
「お?お前らだけお代わり頼みやがって、ズルいじゃんかよ!」
オレもウーロンハイね〜?!とタカダが大声で注文した。
「ん?何マジメな顔してんだ?シン」
「あ、いやその〜」
「オレにスケベを言い当てられて、参ったか?」
「はい、認めちゃいます、オレ結構スケベっす」
「お?いいな、うん!正直な若者が大好きだよ、オジサンは」
「ちょっと、なによ、それ」
「ってコトは、同い年の私までオバちゃんって意味なの?」
「いやいや、リエ坊は・・・ガハハ、どうでもいいや〜!」
「失礼なヤツね、アンタってほんと」
「あ、リエさん、若いっすよ!充分」
「あ〜あ、年下のシンにまで言われちゃ私も終わりだ」
ボクなりのフォローの一言だったのだが、ま、仕方ない。
「シン?言っとくけどね・・私まだ21歳なんだからね?!」
「そんなに、シンと変わらないでしょ?」
「はい、そう思います、たった三つですから」
「そうそう、リエ坊はまだまだ若いぜ!なんで男が出来ね〜のが不思議な位だ」とタカダが言った。
「いいの、私は好みがうるさいんだから」