ノブ ・・第3部
ボクは先に食べ終わってしまい、どうしようかと少し迷ったが・・・ボクは手を上げて彼女を呼んだ。
「中生、二つ!」
「・・・・」やはり彼女は無言で伝票に書き足して、向こうに行った。
「ノブさん・・いいんですか?練習は?」
「うん、一杯だけね!」
何か飲みたくなっちゃった・・・と笑ったボクに、さゆりさんは何も言わずに微笑んだ。
「一杯位は、いいよな・・」
ボクは自分に言い訳する様に独りごちて、煙草を咥えた。
さゆりさんがそれを見て、素早くバッグからライターを出して火を点けた。
そしてその時、ドン!とジョッキが2つ目の前に乱暴に置かれて、泡が少し零れた。
ボクは思わず女の子に目を向けた。
「・・・」彼女はボクと目を合わせず、無言のまま立ち去った。
「なんだろ・・・」
「ごめんなさい、タイミングが悪かったですね」
「彼女とは関係無いのに・・態度悪いな!」
今度は明らかに、ボクも苛ついた。
取り敢えず気持ちを落ち着かせようと、ボクは乾杯もせずに独りでジョッキを傾けた。
「ふ〜!」そんな時でも、生ビールは美味しかった。
冷たいビールが喉を落ちて行って、苛々も少しは凪いだようだった。
唇に泡を付けたままのボクを見て、さゆりさんが笑いながら言った。
「ノブさん、動揺してますね」
「え?そ、そんな事ないよ・・関係無いもん!」
「いいんです、彼女の気持ちは分かりますもん、私にも・・」
勿論、ノブさんの気持ちも・・と続けた。
「どういうコト?」
「きっと・・」
彼女はボクが女連れで来るなんて、思ってもいなかったのだろう。そして・・その事に面白くない感情を持ってしまった。
多分、そんな自分にも驚いて腹を立てているのではないか?と、さゆりさんは言った。
「知らないよ、オレ」
「そうですよね、ノブさんには関係無い事なのかもしれません。」
「でも、女ってそういう所があるんです・・・いきなり自分の胸の内が分かってしまって慌てる・・みたいな」
そこまで言って、さゆりさんは冷し中華を食べながら生ビールを一口飲んだ。
「あら、ビールも美味しいですね!」
結構難しいんですよ?ジョッキにビールを美味しく注ぐのって・・・とジョッキを両手で抱えて言った。
「そうなんだ・・・で?オレの気持ちって?」
「はい、ノブさんはきっと」
「心のどこか、自分でも気付かない所で、彼女に好意を持ってるみたいな気がします」
あはは・・・とボクはいきなり笑ってしまった。
「それは無いよ、全く、絶対に!」
「ううん、あくまでも好意ですからね?ノブさん・・」
「好きとか嫌いとかの恋愛感情じゃなくて・・・」
さゆりさんは微笑みながら言った。
そうなのか?ボクは自問自答しながら、暫く静かにビールを飲んだ。
「でも・・・そうだとしても、やっぱり関係無いよ」
「オレには・・」
ボクはビールを一気に飲み干して、ジョッキをカウンターに置いた。
さゆりさんは、両手で抱えたジョッキをゆっくり傾けながら言った。
「そろそろ、お暇しましょうか・・」
「あれ、もういいの?残ってるけど?」
はい、お腹一杯になっちゃいました・・と、さゆりさんは立ち上がった。
そして「私、払ってきますね」とレジに行った。
うん・・・ボクは出口の扉を開けながら、レジの方を見た。
レジでは、やはり彼女は無言でさゆりさんからお金を受け取った。
そして、二言三言の遣り取りの後、突然彼女が大きな声で言った。
「ありがとうございました!」
ボクだけではなく、店にいた10人近いお客さんが、いっせいに声の方に目をやった。
彼女はさゆりさんを睨み付けて、店の奥に消えた。
さゆりさんが出てきて、ボクらは店を出た。
「ご馳走様・・でも、どうしたの?彼女」
「私が、余計な事を言っちゃったみたいです」
そう言いながらさゆりさんは、悪びれた様子も無く微笑みながら言った。
「私たち、兄弟ですからね、ご心配無くって」
「そうしたら彼女、姉って弟の煙草に火を点けるものなの?ですって」
「はぁ」
「私、われながら下手な言い訳だなって思って、笑っちゃったんです・・」
「彼女、そんな私に苛ついちゃったんでしょうね」
ボクは、何だか少し気分が悪くなった。
「・・良くないよ、そんなの」
「彼女の事、からかってるようにしか思えないじゃん!」つい、強い口調になってしまった。
「ごめんなさい・・でも、ノブさん?」
「なに?」
「そんなに彼女が大事ですか?」
「いや、そういうコトじゃなくって・・」
「それが、私の言ったノブさんが持ってる好意なんですよ」
「え?」
何となく分かっちゃうんですよね、女って・・・と言いながらさゆりさんは、立ち止まったボクの前を歩いた。
そして、振り返って言った。
「・・ごめんなさい、嫌な女ですね、私って」
「彼女がこれからもノブさんに会うんだろうなって思ったら・・」
「それって」
「焼餅、妬いたってコト?」
「はい、そうみたいです」
さゆりさんは目を伏せて、また言った。
「ごめんなさい・・」
ボクはボクで、気分を害した自分にも驚いていたのかもしれない。
「帰ろうか」
ボクは、さゆりさんの手を取って歩き出した。
「オレさ、まだ良く分かんないんだよ、女性の心理って」
「・・単純です、嫉妬深くてエゴイスティック」
「そのくせ、いい子ぶったり年上ぶったり・・・私ってそんな女なんですね」
さゆりさんが、また立ち止まって手を離して言った。
「ノブさん?」
「なに?」
「こんな女で、ガッカリしました?」
ボクらは暫く、もうとっぷりと暮れたすずらん通りで無言で見詰め合った。
「オレね・・・」
「自分でも分からないんだ、なんでさっき・・嫌な気分になったのか」
「自分のコトも分かんないのに、人にえらそうな事なんて言えないよな」
「・・・」
「だから、もういいよ」
さゆりが焼餅妬きだって事が分かっただけで・・とボクは笑った。
そうなんだろう、きっと。
ボクはボクで、傷めてた太腿に気を遣ってくれた彼女に対してきっと好意を持っていたんだろう。
さゆりさんはさゆりさんで・・・そんなボクの気持ちを見透かして、おまけに彼女の気持ちも。
「しょうがないな、さゆりは・・」ボクはまた、さゆりさんの手を取って言った。
「アパート、帰ろう?」
「・・ノブさん」
「せっかく二人でいられるんだから、仲良くしなきゃ、な?」
手を繋いで帰ったアパートは、クーラーをつけっ放しにしてたおかげで涼しかった。
「ふ〜、良かった・・涼しくて」
「はい、結構汗かいちゃいましたね」
「・・さゆり、シャワー浴びる?」
「でも、いいんですか?練習は?」
「勿論やるよ、でもさ、その前に・・・」
ボクは、何も言わずにさゆりさんを抱きしめた。
「ノブさん、嬉しい・・・」
「さゆり」
長いキスをしながら、ボクはさゆりさんのタンクトップの下から手を入れてブラのホックを外した。
そして手を前に回して、両手でオッパイを揉んだ。
「・・んん〜」
「ノブさん?!」
「どうしたの?」ボクは、自分から唇を離したさゆりさんに聞いた。
「私、ノブさんの練習を見てるだけでいいなんて」



