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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ ・・第3部

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「あ、いけね・・」ボクは、もしも留守の間にさゆりさんが訪ねて来てもいいように、玄関のドアにメモ書きを貼った。
      「「5時までには戻ります。小川」」

ボクはそのままの格好で明大前の坂を急ぎ足で上り、総武線に飛び乗った。
新小岩からの都バスを待つ時間がもどかしかったが、何とか3時前には我が家に着く事が出来た。

「ただ今!」
「あら?どうしたの?急に・・」
「うん、ちょっと・・兄さんは?」

「いるわよ、2階に」
ボクはお袋さんの言葉の途中で、階段を駆け上がった。

兄貴は元自分の部屋・・現物置きの中で、ゴソゴソやっていた。
「・・全く、人の部屋を何だと思ってるんだ」

ボクは兄貴の背中に声をかけた。

「ね、あった?」
「何だ、お前・・もう来たのか」
「いいからさ、テープは?!」

うん、それがな、テープを入れたケースがさ・・・とあっちをがさごそ、こっちをガサゴソ・・ブツブツ言いながらも一生懸命に探してくれていた。

「手伝う?」
「うん・・」

「お、これだ・・あったぞ!」兄貴が埃まみれになった10本入りのカセットケースを掘り当てた!
「おう、これだコレだ」

ケースのスナップをパチンと開けると、確かに几帳面な字でジミ・ヘンドリックス1〜10と書かれたカセットが入っていた。
「はは、あったあった!」
「サンキュー、助かるよ」

「じゃ、これ借りてくね〜!」
「何だよ、すぐに帰るのか?」
「うん、早く聞いてみたいんだ。バンドの練習、明日だからさ、それまでに・・」

そっか・・じゃ、頑張れよ!と兄貴にエールを貰ってボクは玄関でサンダルをつっかけながら「じゃーね!」とドアの向こうのお袋さんに声をかけた。

「ちょっと、ノブユキ〜?!」
お袋さんには悪いがボクには時間が無かった。
一刻も早くアパートに戻って、カセットを聞きながらスコアを見たかった。

そして、あわよくば・・・さゆりさんとの時間を何とか捻出したいという下心も、正直・・あったのだな。



ジミヘンのカセットケースを手に、ボクは急ぎアパートへ戻った。

着いた時間は4時を少し過ぎていたが「ふ〜、良かった」とボクは胸を撫で下ろして、ドアに貼ったメモ書きをはがした。

「まずは・・」早速、一服しながらカセットをかけた。

ラジカセから流れて来るサウンドに正直、ボクは頭を思いっきり叩かれた。
「すげ〜、ジミヘンって・・・」
煙草の灰が落ちたコトにも気付かない位、衝撃と言っていいのかもしれない。

とにかくギターの音色が厚くて多彩で、ボーカルも渋かった。
フォクシィ レディはスタジオ録音版とライブ版が続けて入れてあった。
「兄貴やるじゃん!」

小一時間ほどボクはカセットの前から動けずに、スコアを追いかける事も出来なかった。

「世界三大ギタリストのトップか」
ボクはリアルタイムでジミヘンを経験出来た世代を心底羨ましく思った。

麻薬だかアルコールだかで死んでしまった事も伝説に彩りを添えているんだろうが、死後9年になろうかと言うのに、今だにビッグネームであり続けている事の凄さ、偉大さと言うべきか・・・。

「ギタリストが憧れ続けるわけだよな・・」ボクは独りごちて、ひと休みしたくてアイスコーヒーを淹れた。

「でも、出来るんだろうか、オレに」
カセットを聞きながらボクは考えてしまった。
最初の少しのお湯で膨らみだしたコーヒー豆を眺めながら・・・それはまるでボクの心の中で膨らみ始めた不安の様だった。

部屋中に流れるジミヘンのギターを聞きながら、ボクは暫く豆を見つめた。


そして、決めた。

「いいんだ、自分でやるって決めたんだから」
「もうグチャグチャ悩むな!」
ボクは膨らみきった豆に細くお湯を注いで、その下のサーバーから響く、割れる氷の音を聞いた。

「とにかく、あの2人が安心してプレー出来る様に」
ちゃんと狂わない様なリズムを刻もう・・そう、タカダとリエ坊の足さえ引っ張らなきゃいいんだと自分に言い聞かせて、出来たてのアイスコーヒーを飲んだ。

ボクが基本のリズムさえしっかり叩けばあの2人だったら素晴らしい音を出してくれると、ボクはメトロノームに徹しようと決めた。
出来れば、オカズもカッコ良く叩きたいな・・なんてさっきまで思ってた色気は、この際キッパリと捨てて。



ボクはカセットのボリュームを上げて、ジミヘンを流した。

「まずは、パープル ヘイズ・・」
練習の椅子に腰かけてボクはスティックを握った。

目を閉じて耳をすまし、スティックを空振りさせながら必死にドラムを追った。

ギターに気を取られがちになったが、何とか通して聞き終えて、再度カセットを戻した。

今度は歌いながら叩いた。
オカズはどうでもいいから、基本のリズムに注意を払いながら。

リエ坊のボーカルが耳に残っていたせいで、何とか狂わずに叩く事が出来た。

「・・うん、いい感じ」
ひと休みに一服しながら、ボクは氷が溶けて薄くなったアイスコーヒーを一気に飲み干した。

「さて、フォクシィ レディだな・・」
汗止めにタオルの鉢巻きをして、ボクはカセットを進めて頭出しをした。
そしてさっきと同じ様に一度眼を閉じて聞きいった。

「難しいな・・・でも、やらなきゃならないんだ」
またカセットを巻き戻し、スティックを握って部屋に流れるフォクシィ レディに合わせて叩いた。

スコアを見ながら必死に音を追いかけて、途中何度も引っ掛かりそうになったが・・・通して叩く事が出来た。

「ふ〜」
一度カセットを止めて、ボクは天井を見上げて大きく深呼吸をした。
「まだまだ・・か」

それからボクは、何度もなんども繰り返しその2曲を聞きながら叩いて、何とか自分の耳と体に沁み込ませようとした。

3巡目か4巡目が終わって汗だくになったボクは、カセットを止めて休憩する事にした。
正直、ここがあそこが!とダメ出ししてくれるタカダもリエ坊もいなかったから、自分でもいいのか悪いのかが分からなくなっていた。

「・・・いいのかな、こんなんで」
ひと息つきたくて、汗まみれの鉢巻きを外して煙草に火を点けた。


「・・ノブさん?」
「へ?!」
部屋の隅の玄関脇から、さゆりさんがおずおずと顔を覗かせたもんだから、ボクは驚いて火の点いたセブンスターをむき出しの太腿に落としてしまった。

「あ〜っち!!」
「あ、ゴメンなさい!大丈夫ですか?」
さゆりさんはサンダルを脱ぎ捨てて、ボクに駆け寄って来た。
「う、うん・・大丈夫!でも・・」
「・・驚いたよ、いきなりだったからさ」

「ごめんなさい」さゆりさんは笑っていた。

「いつ来たの?」
「はい、ちょっと前です。でも・・」
ピンポン押しても何の返事も無かったから、恐る恐るドアを開けたのだ・・と、さゆりさんは申し訳なさそうに言った。

「そうしたらノブさん・・難しい顔で目を閉じて、一生懸命に練習なさってたから・・」
「邪魔しちゃ悪いかな?って声かけられませんでした」

何だ、声かけてくれれば良かったのに・・・と、ボクは半分照れ隠しに笑って拾い上げた煙草を吸った。
古いフローリングの床に、小さな焦げが付いた。

「・・でも、さゆり」
作品名:ノブ ・・第3部 作家名:長浜くろべゐ