リンコ
間もなくパトカーのサイレンが外に聞こえ、玄関のチャイムが鳴った。
「ああ、やっと来た」
力なく立ち上がった藤堂は、足を引き摺るようにして玄関まで出た。
その後、警察や鑑識の人間、救急隊員までもが入り乱れ、死体を調べていた。当然、目を覚ました美代や藤堂も、尋問のような質問を受けたが、何を答える術もない。
「わかりません」と、二人は首を横に振るしかできなかった。そして結局、悠介の死は原因不明の死として報告された。
翌日の新聞の片隅にもその記事は載ったが、あまり目に留める人もいなかっただろう。
その記事に書かれていたタイトルは、
「都会の孤独な青年、異常な木肌の死体となって発見」
というもので、その内容もごく簡単なものだった。原因が分からなかっただけに、書き様がなかったのかも知れない。
それから数日後。自宅の居間で、美代は悠介の部屋にあったリンドウの植木鉢を見ていた。
――どうして悠介は、このリンドウをベッドに置いていたんだろう。まるで抱くようにして……。悠介の変わり果てた姿とは真逆に、このリンドウは紫の花を可憐に、そして艶々と咲かせていた。
何故かその土に指を差し入れた悠介の身体から、まるでその栄養を吸い取ったかのように、たった一つだけの花を美しく咲かせていた。普通ならリンドウは、一箇所に幾つもの花をつけるものなのに、どうしてだろう?
でも悠介が大切にしていた花なら、せめてこれからは私が大切にしてあげよう。悠介の代わりに……。
――そんなことを考えながら……。