愛と苦しみの果てに
エリート社員・洋介のアメリカへの門出。壮行会は盛り上がった。
洋介は「これでしばらく、日本からもオサラバか」としみじみともなり、かなり酒を呷(あお)った。そして可奈子を見れば、可奈子もなぜか酔っ払ってる。
時間は経過し、会は盛り上がり中で終了した。
その後、有志で二次会のカラオケへと。そしてすべてがお開きとなったのが、終電車前。
「アメリカで、頑張れよ!」
みんなが洋介に声を掛け、さあっと引き上げて行った。
最後に残されたのは、洋介と可奈子だけ。どちらも酔っ払っている。
だが洋介は、可奈子を家まで送り届けると啓太に約束していた。可奈子の手を強く引っ張って、タクシーへと乗り込んだ。
洋介はタクシーから降り、酔った可奈子を抱えるようにして家に入った。洋介も足下がふらついている。
一方可奈子は少し乱れている。可奈子は親友の大事な妻、放っておけない。
なんとかしてベッドに寝かし付けた。さあ帰ろうかと洋介が部屋から出ようとした時、可奈子が声を掛けてくる。
「ねっ洋介さん、もうアメリカへ行ってしまうんだね。もう一生逢えなくなってしまうかも……、だから一つだけ教えて」
「何を?」
洋介は聞き返した。
「洋介さんは、私のこと……、好きだった?」
可奈子が寂しそうに見つめてくる。しかし、洋介はこれにどう返事をして良いのかわからない。親友の妻に、好きだったなんて告白できないし……。
「もういいんじゃない。可奈子さんには啓太がいるから」
洋介は酔っているせいか、少し僻(ひが)みっぽく返してしまった。
可奈子と一緒になれなかった無念さが言葉に滲み出している。洋介は、そんな自分がちょっとまずいかなと思いながらも、可奈子に尋ねる。
「啓太を、愛してるんだろ?」
「もちろん……、愛したいわよ。だから、ケリを付けたいことがあるの」
可奈子はそんなことを言い出した。
「ケリって?」
洋介は問い返した。可奈子は後は泣き顔となり、「洋介さんよ、私を、洋介さんから解放してちょうだい。そのために一度だけでいいの」と小さく呟く。そして、しばらくの沈黙の後続ける。
「だから一度だけ……、私を抱いて」