愛と苦しみの果てに
可奈子はこんな過激なことを言い放った。それから身に纏っている服をさっさと脱ぎ始める。洋介が目をパチクリしてる間に、目の前には妖艶な女体がさらけ出されてしまったのだ。
可奈子はさらに洋介との一度だけで、啓太をもっと愛せるようになると訴えてきた。
洋介も可奈子のことが好きだった。確かに今でも、可奈子への恋心を引きずっている。
しかし今回、新天地・アメリカへと向かう。洋介も過去の恋心にケリを付けてしまいたい。
そして今目の前に、透き通るような白い肌の可奈子の肉体が……。髪から首筋、そして乳房も腰も足も、全部が美しい。
こんなことはあってはならないこと。しかし、心の底からか、「一度だけでいいの、私を抱いて」と可奈子にねだられる。
可奈子は確実に酔っ払っている。しかし、洋介はそれ以上に酔ってしまっていたのかも知れない。
多分、これは魔が差したということだろうか。洋介は妖しげで妖艶な女体を目の前にして、異常な興奮を覚える。禁断の果実を目の前にして、理性は完全に壊れてしまったのだ。
洋介はベッドの上に転がる妖女に飛び掛かった。そして妖女は、微笑みを持って洋介の身体全部を受け入れた。
洋介も可奈子も気が狂ったように貪(むさぼ)り燃えた。そして、この世の果てにある絶頂の山に、激しい嗚咽とともに……、二人一緒に昇り詰めた。
その瞬間に、洋介は親友の妻を抱き、可奈子は夫の友人に抱かれ、二人は共に至福の中で果てて行ったのだ。
しかし、その感動も喜びも束の間だった。
そこから二人は地獄の底に、瞬く間に突き落とされてしまう。
これは確かに過(あやま)ちだ。そして今、可奈子は……それはそれは悲しそうにすすり泣いている。洋介も自責の念で涙が止まらない。
そんな辛くも悲しい橋を、二人は渡ってしまったのだ。
「洋介さん、後悔しないで」
可奈子が泣きながら訴える。
「後悔すれば、私、もっと悲しくなるから」
可奈子は涙顔を洋介の胸に埋める。
「うん、後悔しないよ。これで、可奈子がもっと啓太を愛せるなら」
洋介はそう言って、可奈子の涙をそっと拭いてやる。
「私、そうするわ。だから今夜のことは、二人だけの秘密にしてね」
可奈子は甘えるように指で洋介の身体を突っつく。洋介はそんな可奈子の長い髪を愛おしく撫でるだけだった。
「そうしよう、今夜のことは墓場まで持って行くから」
可奈子はその端正な顔を持ち上げる。そして、その熱い唇を洋介の頬にぴたりと張り付ける。
「私のこと……、好きだった?」
ねちっこい眼差しで聞いてくる。