愛と苦しみの果てに
新しいプロジェクトの立ち上げで、洋介は忙しい日々が続いていた。しかしあと二週間もすれば、仕事も一段落し、時間にも余裕ができる。
その時になれば、可奈子をデートに誘ってみようと思っていた。そして、結婚を前提としたまじめなお付き合いをさせて欲しい、とプロポーズをするつもりだった。
そんなある日、洋介は気晴らしに一杯でも飲もうかと啓太に誘われた。
会社帰り、遅くから二人は居酒屋で飲み始めた。そして酔いも回ってきた頃に、啓太は洋介に漏らすのだ。
「なあ洋介、俺、今度結婚するんだよ」
啓太は真剣そう。そして洋介は、あまりにも唐突な話しにびっくりした。
しかし、結婚はいずれ二人には起こること、「おめでとう。そうか、啓太は先に身を固めるのか、まあ幸せになれよ」と祝した。そして洋介は興味もあり、「お相手は?」と軽く聞き返した。啓太はぐいとビールを一飲みし、はっきりと言い切った。
「可奈子だよ」
洋介は啓太の結婚相手が可奈子と聞き、とにかく驚いた。だが顔には出せない。
一瞬ではあるが、「あれ、可奈子って? 俺じゃなかったのか?」と訝ったが、啓太は可奈子と結婚すると断言した。
もう結婚すると決まっているのならば、親友の啓太を祝福してやらねばならない、洋介は殊勝にそう思った。
「いい人と結婚するんだね。可奈子さんなら啓太も幸せになれるよ、応援するぜ」
洋介は悔しさを隠し、そう答えてしまった。きっと縁がなかったのだろう、洋介は可奈子とデートすることも、プロポーズすることも諦めてしまった。
それ以降、オフィス内でも啓太のことを思いやり、可奈子との距離を置くようにした。
時々、可奈子が洋介の所へ話しにくる。しかし、洋介は本当の気持ちとは裏腹に、軽く会釈するくらいで留めた。
洋介は完全に可奈子から身を引いたのだった。