愛と苦しみの果てに
外へ出てみると、そこには南カリフォルニアの明るい陽光が溢れている。その煌(きら)めきが、洋介の涙目にいきなり射し込み、痛い。
太平洋に面し、気候温暖なサンディエゴ。美しい港町で、アメリカ人の間でも人気の高い町だ。
いつも町全体がキラキラと光り輝いている。そして、国境を越えて入ってくるメキシコ文化の影響なのだろうか、人々は陽気。人の笑いが絶えることはない。そんな町なのだ。
しかし、洋介の心はいつも雲っていた。
洋介は、かって日系一流企業の米国駐在員として、北のケンタッキー州で働いていた。しかし、二十三年前に会社を辞めた。
その時、気持ちを紛らわすためにも、この明るいサンディエゴに移り住んだ。それからずっとこの地で、たった一人で暮らしてきた。
そこまでさせたもの、それは幼子(おさなご)の優香だった。
洋介はオフィスを飛び出し、眩しい光を全身に浴びながら、今ふらふらと歩いている。そして思うのだ。
「あの過ち……、俺はまだ、その罪の償いができていないなあ」と。
当時、洋介も友人の啓太も若かった。
二人ともエリート社員。厳しい競争社会の中にあったが、それでも同期の二人は気が合い、同じ釜の飯を食う親友だった。
「なあ洋介、俺が社長でお前が重役、これでこの会社を乗っ取ってしまおうぜ」
「バカ言うなよ。俺が社長、啓太は木っ端、これで行くしかないか」
「ヨッシャー、それでも良い、俺たちは死ぬも生きるも一蓮托生だ。互いに裏切らないでおこうぞ!」
二人はこんな会話をしながら、よく飲み明かしたものだ。
しかしある日、そんな二人の前に一人の女性が現れた。それは中途採用で入社してきた可奈子。端正な目鼻立ちで、理知な雰囲気。だがそこには冷たさはなく、爽やかな笑顔が魅力的だった。
オフィス内ではいつも長い髪をポニーテールにまとめ、それを揺らしながらオフィス内を颯爽(さっそう)と闊歩していた。
「可奈子さん、助けて。ちょっとこれどうしたら良いの?」
洋介が資料作成に行き詰まる。パソコンのエキスパートの可奈子に聞くと、パソコンの前に座り、チャカチャカと処理してしまう。
「洋介さん、お酒ばっかり飲んでないで、ちょっとはパソの勉強もしなさいよ」
こんな勢いの良い女性でもあった。
「じゃあ可奈子さんに、特訓……お願いしてみようかなあ」
洋介が軽くからかう。
「月謝高いわよ。そうね、私、お寿司が好きなんだけど」
可奈子は反応良く返してきた。
そんな響きの良い可奈子。洋介は徐々に彼女の虜となり、思いが募っていく。そして密かに、熱い恋心を寄せるようになってしまったのだ。