愛と苦しみの果てに
こんな事実を吐いてしまった啓太、後は晴れ晴れとした表情となり、微動だにせず洋介の前に突っ立っている。
「そうだったのか」
洋介はぽつりと呟くだけだった。
しかし啓太は、さらに「若かった可奈子は洋介にふられたと思い、弾みと当て付けで、俺と一緒になってしまったんだよ」と。
啓太は大きく息を吸い込んだ。
「すべてのことは俺の嘘から始まり、結局俺は、可奈子も優香も、お前から奪ってしまった」と言葉を絞り出す。そして、その罰を受けるかのように重く告白する。
「だから、今日……、可奈子と離婚した」
「離婚?」
洋介は驚いた。
「それで、一人となる可奈子さんはどうするんだよ?」
洋介のこの質問に対し、啓太は今度はあっさりとしたものだ。
「それは二人で考えてくれ。ただ優香の育ての親の名誉だけは、残しておいて欲しいのだが」
啓太は昔からそうだった。一旦自分で決断してしまうと、頑として動かない。洋介はもうこれ以上何も言えなかった。
「俺は、今からピチピチギャルでも探して、出直すよ」
啓太はこんな軽いことまで言って、一人で笑っている。
今日、可奈子と離婚した、啓太はそう告げてきた。これは啓太と可奈子がそう選択したこと、洋介にはどうすることもできない。
しかし、洋介には一つ確認しておきたいことがある。
「我々のこのこと、優香は知っているのか?」
啓太は、それは当然の質問だと受け取ったようだ。
「優香はまだ知らない。だけど、新婚旅行から帰ってきたら、俺から今までのすべてのことを話すつもりだよ。心配するな、優香は優しい子だから」
「啓太、ありがとう」
洋介の口から自然と言葉が出た。
啓太はこれでもうすべての用が済んだようだ。「じゃあ、またな」と言い、足早に洋介の前から立ち去って行った。
そして、いつの間にか洋介の横には、可奈子が寄り添ってきている。
「洋介さん、ごめんなさい、こんな結末になってしまったわ」
可奈子が少し震えているようにも見える。
「いいんだよ、みんなそれぞれが、何が一番大事かと迷い、選択してきた道だから」
洋介は穏やかに返した。そして可奈子の震える手を、愛情を込めてそっと握る。可奈子はそれに応え、ぎゅっと握り返してくる。