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夢の途中7 (216-247)

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『ほな、ウチも、ヘレ、戴こうかしら♪うふふふ♪何だか恥ずかしいわぁ~♪(#^.^#)』


目黒の手で手際良く塩胡椒された肉が、分厚い鉄板の上で良い香りと音を立てながら踊っている。
それを眺めながら二人ともソフトドリンクを飲んでいた。
「車や無かったらビール、と云いたいトコやけど、この後行く処は泉佐野の犬鳴山云うてね、車で無いと便利の悪いトコなんですわ・・・まあ、今日はお互い辛抱しましょ^^;・・」
『まあ、お山に登るんですか?』
「いえ、霊園です・・・・・」そう言って、優一は香織から視線を外した・・・・
優一が香織を連れて行きたい場所は・・・・
山の上の霊園だった・・・







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章タイトル: 第26章  飛行機雲 2008年夏


ゆったり時間を掛けた食事を終えて、浪速ホテルの最上階のラウンジでコーヒーを楽しんだ後、ホテルの地下駐車場に止めてあった社用のブルーバードセダンに乗り、優一と香織は一路泉佐野市を目指し走り出した。
まず近畿自動車道に乗り、途中松原ジャンクションを過ぎて第二阪和道に乗り継ぐ。
景色は泉北ニュータウンの真ん中を横切り、山間(やまあい)の緑を目にして進んで行く。
貝塚を過ぎた頃から、遠く右側に泉南の海が見えて来た。
【だんじり祭り】で有名な岸和田の街も眼下に広がっている。
優一は上之郷インターで降りると、泉佐野カントリークラブの脇を通り、山に向かって走って行った。

この周辺は七宝滝寺参道としての犬鳴川を持ち、けして高い山域ではないにも関わらず、渓流沿いの山岳景観は「大阪府 緑の百選」にも選ばれ、地元民に深く愛されていた。
犬鳴山は、1300余年前に修験道の霊場として修験山伏道の開祖といわれる役(えん)の小角(おづね)「役の行者(えきのぎょうざ)」によって大和大峯山より6年早く開山され、現在でも行者の滝に打たれる修験者の姿を見ることができる。
古くは犬鳴山を含む金剛・和泉山系全体を「葛城」と呼び、その中でも犬鳴山は西の行場、東の行場を持つ葛城二十八宿修験道の根本道場。日本の霊山のひとつである。
尚、【犬鳴山】とは標高649mの高城山、高鍋山、灯明ヶ岳等を総称した名であり、単独での【犬鳴山】は存在しない。
それとは別に、犬鳴き山には【義犬伝説 】と云うものが遺されている。
天徳年間(957~961年)紀州のある猟師が鹿を追って滝のあたりに来た時、連れていた愛犬がうるさく吠えた。 そのせいで獲物を取り逃がした猟師は、怒って犬の首をはねてしまう。愛犬の首はそのまま踊り上がって、猟師を呑もうと狙っていた大蛇にかみつき、蛇とともに息絶えてしまった。
犬が吠えたのは、主人の危急にいち早く気づき、救おうとしたからであり、この心を知った猟師は悔いて修行者となり、愛犬をねんごろに供養し、また自分の田地を不動堂に寄進した。
この時より宇多帝(うだてい)より犬鳴山と勅号を賜うたのである。




山間の道を暫く行くと道は急に開け、広大な墓地公園に着いた。
此処が優一の目的の場所であった。
着いた時既に午後4時を過ぎていて、酷暑と云えどこの日の暑さの盛りは過ぎていた。
広大な公園墓地にあって、お盆の一週間前のこの時期は、まだ本格的な墓参りには早く、ましてや関西で云う「墓参り」とは普通午前中にするのが通例であり、あえて墓参する人がパラパラ見受けられるだけだった。
優一は梅田で求めたミニヒマワリを含む花束を手に、数ある墓地を迷う事無く目的の墓石の前に立った。
墓石には真新しい供養花が左右に活けられている。
おそらく、今日の午前中に誰かが手向(たむ)けたものに違いなかった。
花は新しかったが、この暑さに少し勢いを無くしていた。
優一は一旦花を抜き、その花入れにもう一度冷たい清水を注ぎ入れると、自分が持参した花と共に元に戻した。

墓石には『 藤 家 之 墓 』と在った。 墓石の横に「 瑛子 昭和51年8月 享年20歳 」と・・・・
優一は無言のまま線香に火を点けると、墓石に向かい手を合わせた。
香織も何も聴かず、優一に倣い手を合わせ瞑目した・・・・・

『えいこさん、と仰るのね・・・・・』
「・・・ああ、僕の昔の恋人でね、二十歳の時交通事故で亡くなった・・・
僕はその時、大学の友達とアメリカに貧乏旅行に行っててな、旅先のデトロイトで偶然実家に電話して彼女が亡くなった事を知らされた・・・
もう亡くなって10日経ってた・・・・
彼女、僕がアメリカに行く云うた時、えらい心配してなァ・・・
優ちゃんになんかあったらどうするの?行かんといてって、泣き出して・・・
なんか、虫の知らせやったんやろな・・・・」

やはり優一も、自分同様悲しい過去を背負っているのだと香織は知った。

「僕と瑛子は大学2回生の時に、彼女の大学の学園祭にバンドとして呼ばれてなァ、
僕の高校の時の同級生が実行委員やってた繋がりやった。
瑛子は看護学校の学生やったんや・・・・
10月の演奏予定日の2週間前に、僕等バンドのメンバーが初めて彼女等の看護短大の現場見て打ち合わせをすることになって、そこで同じく学園祭の実行委員やってる瑛子に出会った・・・・
やせっぽちの女の子で、クルクル動く黒目勝ちの目が印象的やったなァ・・・・
学園祭が終わって、それで彼女との縁も終わりかと思っていたら、小さな偶然が僕等二人を繋げてくれた・・・・
1か月後には二人とも恋に落ちてたわ・・・
その年のクリスマスの夜、初めて結ばれて僕等は互いに無くてはならない存在になったんや・・
年が明けて二人とも三回生になったら、互いに実習やらゼミやら忙しいなったけど、週に一度は必ず逢って、宇治の平等院や、琵琶湖に行ったり、近くの喫茶店で長い事喋ったり・・・
それで十分幸せやったな・・
そうそう、宝が池のライブハウス、【ホンキートンク】にはよう通ったなァ・・・
互いに音楽が好きやったから・・・
今みたいに携帯電話やパソコンが無い時代やったさけ、手紙や家の電話が唯一の連絡手段ややって、毎晩代り番こで電話したけど、家族の居る居間に電話が在るよって、恋人同士の甘い囁きなんか出来ひんし・・・向こうも寮の公衆電話からやしな・・・・
今の若者には想像出来んやろなァ・・・・
でも、・・・・・・幸せやったなァ・・・・」

優一の目が遠く海上に浮かぶ関西空港から飛び立つ飛行機が描く飛行機雲を見やり、呟いた。
香織もまた同じ飛行機雲を見ながら幸せだった神戸での生活を思い出さずには居られなかった・・・




ふたりは霊園の中の小高い丘の上にある東屋に移った。
既に陽は勢いを無くし、遠く淡路島の方に沈む途中であった。
東屋の屋根がその西日を遮り、海から吹く風が心地良かった。

「瑛子の死を聞いて、僕は急遽デトロイトから16時間かけて日本に帰国した。
瑛子の実家は泉佐野の鶴原の市営住宅にあってなァ、僕はその時初めて瑛子の両親に会ったんや。
南向きの6畳の部屋に白い骨箱があってなァ、その脇に帯帽式に撮った瑛子の写真が飾られてた・・・笑顔の写真でな・・・
作品名:夢の途中7 (216-247) 作家名:ef (エフ)