名探偵カラス Ⅲ
――何て奴なんだ!
手紙を読み終わった俺は、怒りで身体がぶるぶる震えた。
懸命にあの忌まわしい出来事を胸の中にしまって、いじらしいくらいに忘れようと努力している真由美さんにこんな物を送り付けてくるなんて、絶対に許せない!
どんなことをしても必ず俺が犯人を突き止めて、とことん懲らしめてやる。
俺は柄にもなく、そう神に誓った。
そしてこの時になって気が付いた。さっきの真由美さんの涙のわけが……。
こんな手紙や、あんな厭らしい写真が届いて、真由美さんの心中はいかばかりだろう。彼女の気持ちを考えると、俺の怒りは火山の噴火の如く激しく噴き出した。
――さて、どうするか? 今回ばかりはちと難しいかも知れない。何か作戦を考えないと……。取り合えず夜も更けてきていることだし、今日のところは一旦ネグラに帰るとしよう。
「カァーー、カァーカァー」
俺はホワイティにさよならを言うと、ベランダへ向いて、ガラス戸を嘴でノックした。
コツコツ
その音を聞いて、真由美さんが俺のそばにやって来た。
「カラスくん、帰るの? ホワイティを助けてくれたんでしょう? ありがとうね。また良かったら、いつでも遊びにいらっしゃい」
真由美さんは、本当は辛くって悲しくってどうしようもない状態のはずなのに、そう言って俺に笑いかけ、そうっとドアを開けてくれた。
俺は短く「カァ」とだけ返事をして、ドアの外へ出た。
手紙のことを、ホワイティにも話した方が良かっただろうか? という考えが、一瞬だけ頭を過ぎったが、まだ本調子ではないホワイティに、これ以上心配させるのもどうかと思い、一度振り返りはしたが、敢えて何も言わず夜の空へと飛び立った。
それからの毎日、俺は昼間は、公園や山寺や餌場のコンビニなどを気が向くままにうろつき、夜、真由美さんが帰宅する時間になると真由美さんのマンションを訪ねた。
可愛いホワイティに毎日会えるのはもちろん嬉しかったし、例の「ヒロ」と名乗る男が来た時のためでもあったんだが、実際のところ、まだそいつの撃退方法については何も良いアイデアが浮かばない状態だった。
それでもしばらくは、何事もない平穏な日々が続いて、もしかしたらもう奴は来ないのかも……。そう思ったりもした。
奴は、俺や真由美さんがそう思う頃を狙っていたのかも知れない。警戒心が緩むその時を……。