【第七回・弐】焼き焦げ
「何だまだ悠帰ってないのか?」
カラカラという戸が閉まる音と京助の声に慧喜が顔を上げた
「義兄様…おかえり」
膝を抱えたままで慧喜が京助を見上げた
「珍しいな悠が四時過ぎて帰らないなんて」
靴を脱ぎながら京助が言う
「今日友達と遊ぶとか言ってたっちゃ。お帰りだっちゃ京助」
家の奥から出てきた緊那羅の手には大きめのタオルがあった
「へぇ…そっかまぁ雪溶けてきたしな…【愛の鐘】なったら帰ってくるだろうしな」
京助が頭をかきながら言う
「慧喜寒くなってきたからこれ…」
緊那羅が大き目のタオルを慧喜の肩に掛ける
「ありがと…」
慧喜がふっと微笑んでまた膝に顔を埋めた
「…なぁいつもこんな?」
鞄を肩から降ろして京助が緊那羅に聞く
「うん…毎日悠助がいない間の慧喜はいつもこうだっちゃ」
「ふぅん…」
緊那羅の説明に京助が何度か頷いて慧喜を見た
「悠は慧喜にとっての活力源なんだな」
鞄を引きずりながら京助が自室に向い歩き出す
「慧喜は本当悠助が好きなんだっちゃね」
先を歩く京助に小走りで追いついた緊那羅が言うと京助が足を止めた
「…京助?」
京助が急に止まったせいで京助より一歩進んだ緊那羅が京助を見た
「緊那羅お前さ…無理してんだろ」
京助の言葉に京助に向けられていた緊那羅の目が大きくなる
「え…なん…」
【何でもない】そう言おうとしたらしいが図星だったのか緊那羅は言葉をかんだ
「作り笑いバレバレ」
京助はそういながら緊那羅に指を突きつけた
「乾闥婆になんか教えられただかされてからお前ずっとそうだろ」
またも図星だったらしく緊那羅は黙って俯いた
「俺でよかったら話してみてもいいし? 一応【関係者】なんだろ? 俺もその【時】だかいうのに。少しでも話すと結構楽になるかもだぞ」
俯いたままの緊那羅の横を通って京助は再び自室に向って歩き出した
「…ま、気が向いたらでいいけどさ」
ズルズルという鞄を引きずる音とに混じって聞こえた言葉に緊那羅が顔を上げる
そしてきゅっと唇を噛み締めた後二歩後退して茶の間の戸を開けた
作品名:【第七回・弐】焼き焦げ 作家名:島原あゆむ