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天才飯田橋博士の発明

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7 愛気注入装置~博士のヴァレンタイン



飯田橋博士がコーヒーを飲みがら「ヴァレンタインかあ」と呟いたのを、神楽坂舞子が聞きとめた。
「博士にもチョコあげますよぉ」と慰めるように言った。

「神楽坂君、いつも疑問に思っているんだが、こんな出会いのない所で仕事をしていて、どうやって男性と知り合うんだい」

「ああ、私には女子大の有志で作った【いく36】というグループがあるんですの、情報交換したり、紹介しあったり、合コンもね」

「その【いく36】というのは、嫁にいくの いく かい?」

「まあ近いわね。【いく36】はいくら何でも36までには結婚しようという会なんですよ」

「う~~~む」

「ああ、博士【いく36】推進装置なんてのは作らないでくださいね。とんでもない欠点があって一生結婚できなくなるとイヤですもの」

「ん、むう」
博士は「ヴァレンタイン、ヴァレンタイン」と呟きながら工房へ入って行った。



「神楽坂君、テストをしたいのだが、チョコレートを買ってきてくれ。どうせ行くのだろうから」

「えっ、チョコレートでテストぉ?」
舞子はかすかにイヤな予感を感じながらも、自分のチョコもじっくり選べるので喜んで出ていった。



舞子の退社時間のちょっと前に「できたぞー」という博士の声が聞こえた。

舞子が工房へ入って行くと、机の上には小さな電子レンジのようなものが置いてあった。

「これがヴァレンタイン向けに作った、名付けて【愛気注入装置】だ」

「あいき? 合気道をする器械ですの?」

「違う違う、愛する気持ちの愛気だ。あ、チョコレートをこの中に入れてだな、扉を閉める時に念じるだけでいいんだ。簡単だろう、とりあえず半分を入れて、う~~~~む」

かすかにモーター音のようなものがして、やがて ぽあん という間抜けな音がした。

「よしっ、オーケー」と博士が中のチョコレートを取り出した。

「そして、こちらの入れなかった半分と味を比べてみる」
博士を真似て舞子も両方を食べ比べて見た。

「ああ、博士ぇ、違いますぅ。まろやかでふわっと温かくなる感じ! 博士久方ぶりの成功ですわ」

「そうだろう、私だっていつも失敗作ではない。特にヴァレンタインデーだしな」

「博士ぇ」舞子が悲しそうな声を出した。

「ん? どうした?」

「博士ぇ、でも手がべとべとになります」




作品名:天才飯田橋博士の発明 作家名:伊達梁川