天才飯田橋博士の発明
5 肥満防止装置
神楽坂舞子が、太ってきているというのを聞いた飯田橋博士は工房で忙しそうにしている。舞子は、今までの経過から期待をせずに、買い入れた資材の記録をしている。今回は肥満防止なのに、薬品や食品の仕入れはなかった。携帯音楽プレーヤーを流用するのは定番になっている。やはり電子パーツが多い。そして今回なぜかニット帽。
博士は決して自分が被験者にならない。なぜなら、主観が入ると正しいデータにならないと言うが、きっと怖いのだろうと舞子は思った。
舞子は、いつも馬鹿馬鹿しい発明をする博士に呆れてはいるが、またこの仕事を面白いと思っている。次々と未知の経験が出来るなんて他には無いし、自分の性格では普通のOL生活はできないと思うのだ。
「出来たぞ~」と博士のがニット帽を手に舞子の席までやってきた。舞子は胃がキリッと痛んだ気がした。それは、ニット帽かもしれないと舞子は思った。やはりこれを被って歩かなければいけないのだろうか。
ひまんぼうし→ぼうし→帽子 という発想なのだろうなあ。と舞子は、自分がだんだん博士に感化されていくのを感じて、大きなため息をついた。
「博士、どうしてもこれを被らなくてはいけないのですかぁ」
「もちろん、この帽子の中に本体が入っているし、繋がっているイヤホンを装着しなければ効果がないんだ」
「はぁ~いい」もう引き受けるしか無いと、しぶしぶそれを受け取った。
「すぐに装着してくれ、夕飯が済んで、そうだなあ寝る前に外していいよ。朝の身支度が済んだらまた装着してな。じゃあ、頼んだよ」
やはり、肥満防止という言葉が魅力的なので、舞子は僅かの期待をもってニット帽を被り、イヤホンを耳に差し込んだ。
舞子毎日湯上がりに体重を量ってみた。たしかに肥満防止どころか少しずつ体重が減ってきている。しかし、なぜかあまり嬉しくなかった。
数日経って、舞子はなぜか研究所に行くのもイヤになり博士に電話をした。
「博士、なんだか何をするのもおっくうで、今日はお休みさせて頂きます」
「ああ、そうか、分かった。帽子はもちろん被らないでゆっくり寝てくれ。明日も被らなくていいよ」
博士は、やはり問題があったかと少しだけ反省をしてみたが、頭はもう次の研究の方にいっていた。
「おはようございま~す」と舞子が元気良く入ってきた。帽子は被っていない。博士は元気になった舞子をみて、ほっとした。
「博士、私だからこの程度で済みましたけど、これは失敗作です。どんどん鬱になって行くし、もちろん食欲も無くなる。不満もどんどんたまっていくようですわ」
「う~ん、不満ねぇ、んん?」
「博士、今度は不満防止装置だぁ、なんてこと無いでしょうね」
「ど、どうして分かったんだぁ」
「博士が天才なら私も天才ですから。それに結果ももう分かっています」
「イヤホンから音を聞かせて、肥満防止の反対に躁状態を作るんでしょう。今度はどんどん食欲が出て太ってしまいますぅ」
了
作品名:天才飯田橋博士の発明 作家名:伊達梁川