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天才飯田橋博士の発明

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4 表情記憶スプレー



「神楽坂君、だんだん発明のレベルが下がっているのは自覚している。この前の心霊写真撮影装置なんて恥ずかしい。しかし、もう大丈夫だ。今度こそ特許、量産化だ」

神楽坂舞子は、飯田橋博士のことばを「はいはい」と聞き流しながら、ここ数日買い込んだ商品の記録を入力していた。今までは電子パーツが多かったが、今回は薬品類が多い。

「聞いているかね、今度は君にしか出来ないテストなんだ」
博士が少し猫撫で声で言った。

「博士、今までもずうっと、私がテストを引き受けて来ました。ああ、それも全部役立たずの試作器ばかり」と舞子が博士を睨みつける。そして「今度は何ですの、若返り薬でも作ったのかしら」と続けた。

「おしいっ! 近いけど違う」
博士は舞子の睨みなどお構いなしに、陽気な声で言った。

「じゃあ、毛生え薬かしら? だったら博士がいい被験者だと思いますけど」
舞子は博士の頭を見ながら言った。博士はちょっとだけ悲しい表情をした。しかし、すぐに変人の顔になって「何と、驚くなぁ」と身を乗り出してきた。

「驚きません」といいながら舞子は後ろに身をひいた。

「これだ、化粧品。ただの化粧品じゃない」と博士がスプレー缶を差し出した。

「いくらしましたの?」舞子がそれを受取って眺めながら言った。

「違う違う。私が研究開発した名付けて【表情記憶スプレー】。これをだな、自分の一番気に入った表情の時にプシューと吹きつけるだけだ。簡単だろう。もちろん顔がこわばったままなんてことはない。食事や会話も普通に出来る。普段は記憶された状態を保たれる。じゃあ、頼んだよ」

舞子は、この試作品はおもしろそうなのでやってみた。鏡を見ながら何十通りもの表情をつくりながら。



翌朝、「おはようございます」という舞子の言葉がいつもと違う。仕草までちょっと違って見えた。顔は無理して微笑んだような、ちょっと媚びをうっている表情だ。ああ、舞子にはこれが一番いい表情に思えるのか。と博士はちょっとだけ残念に思った。博士は舞子の無愛想な顔が好きだったのだ。

「博士、いい人に巡り会いました。このスプレーのお陰ですわ。ふふふ、今晩デートですぅ」

舞子の浮かれ具合に博士は、ある予感を感じて、あいまいに頷いて工房に入った。次の研究開発のために。


それでも2週間持ったとでもいうべきだろうか。舞子が以前の表情で「博士ぇ」と近づいてきた時には、この試作品の欠点発表の時と感じていたのだ。

「で、何が問題なんだろう」と博士は先回りして聞いた。


「好きになってくれた人が最後に言いました。毎日ステーキじゃ飽きるって」
舞子は投げやりにそう答えた。それから気だるそうに付け足した。

「そして、これってかなり疲れるんです。なぜか甘いモノを欲しくなるし、少し太ってしまいました。もう癖がついてしまって困りますわ」

博士は、うんうん頷いて聞いていたが、目を輝かせて言った。
「よしっ、今度は肥満防止装置だ~」





作品名:天才飯田橋博士の発明 作家名:伊達梁川