天才飯田橋博士の発明
11 前世がわかる装置
これはジョークだろうか。飯田橋博士は、赤いパンツを前にしてどう反応すればいいのだろうと悩んでいた。助手の神楽坂舞子が巣鴨で買ったものを「おみやげです」と愛想のない顔で渡して、すぐに去ってしまった。
舞子が結果的にお茶目になるのは、【天然】のせいだと思う。この赤いパンツを買ったのも、その【天然】のせいかなと思うことにした。
…う~むむ、これをどうすればいいんだ…
天才でもこういう場合の思考は苦手であった。結局、家に持ち帰って(気がつけばパンツが無い)という時のためにタンスに入れておくことで自分を納得させた。
さて、舞子には何と言えばいいのだろう。結局パンツの話はせずに舞子に話しかけた。
「神楽坂君。いつも変なテストばかりですまないあなあ。天才ゆえに当たり前の発明じゃ面白くないのでなぁ。でも今までの発明は一応成功していると思っているが、どうだろう」
「博士、みな失敗作です。役立たずです」
「やく、た、た、ず かあ」
「そうです。たまにはちゃんとしたものを発明して下さいよ」
舞子は、PCの画面を見ながら話をしていた。最近は博士に任せずにインターネットで「こんな発明があったらなあ」とか「夢のような発明」などと発明のネタ探しをしているのだ。
「あっ、これなんかどうですか、博士」
舞子が指さしたのは【前世がわかる装置】だった。
「う~ん。簡単すぎて面白くないなあ」
「博士、そういうセリフは私の納得する発明をしてから言って下さい」
「そうか、じゃあ早速作ろうと言いたい所だが、資料が必要だ。神保町まで行ってくる」
「おみやげもねー」
玄関まで歩いていた博士は舞子の言葉に、ドアに頭をぶつけてしまった。
「くそっ!」
博士がめずらしく汚い言葉を吐いたのを聞きながら、舞子は「うんち!」と小さく言って笑った。
博士が、どっさり買い込んだ本と格闘しながら数日が過ぎた。
「できたぞー」と博士が叫んだ。しかし舞子は工房に入ってこなかった。
少し遅れて入ってきた舞子の手には、博士がおみやげに買ってきたマンガ本があった。
「あれっ、今回は帽子もメガネもない」
「今回は、ちょっと格好悪いがゴーグル型だ。かけてみるか」
「あ、博士、あれっ。もぐら?」
舞子はゴーグルを外した。
「何? もぐらだって」博士はにやにや笑いながら、もう一つのゴーグルを舞子に渡した。
「え、これ、同じじゃないの? あれえ、博士しか見えませんよ」
舞子が怪訝そうにゴーグルを外す。
「さて、どちらが本物で、どちらが偽物かあ?」
「そりゃ、もぐらが見えた方が本物に決まっているじゃないですか」
「ところが違うんだ。もぐらが見えた方は、単なる直感を増幅固定させた装置だ。前世も何もない。そして、こちらが本物だ」
「だって、博士、何も見えなかったですよう」
「そりゃあ、そうだ。転生など無い。ちょっと譲ってあったとする。それは死ぬ間際に物凄く死にきれない思いをした者の念で起きる。そして、世界の反対側に生まれ変わることもない。せいぜい同じ国だろう。ましてや他の動物や昆虫などということもないだろう」
「え~っ、博士ぇ夢が無さ過ぎます」
「たとえば、誰の生まれ変わりだと納得するんだい」
「そうねえ、小野小町」
「まあ、可能性は無くはないか。小野小町って結婚したんだっけかなあ。まあいいや、その偽物を成功作として、しばらく研究は止める」
「博士、この研究所無くなってしまんですかあ」
舞子が、予想外に悲しそうな顔になったので、博士は慌てて言った。
「発明製作はやめるが、しばらく研究論文を書こうと思うんだ。だからこの研究所はこのままだ。神楽坂君には、資料収集などやって貰うことはいっぱいある」
「じゃ、【前世がわかる装置】は成功作としておきます。博士」
了
作品名:天才飯田橋博士の発明 作家名:伊達梁川