天才飯田橋博士の発明
1 高性能情報伝達装置
自称天才科学者の飯田橋博士は、次に発明するべき構想に疲れて助手の方に目をやった。
助手である神楽坂舞子がノートに何やら書いている。はて、記述を頼んだ覚えは無い筈だがと思い、そっと近寄りノートを覗き込んだ。
あの人の
しぐさや言葉が
暗号のように
私を悩ませる
ああ
私は欲しい
あの人の全てが分かる
器械を
「ふーむ。神楽坂君、まだ君はこりずに恋を……」
舞子は、急に耳元で博士の声がしたので、文字通り飛び上がった、気がした。
「博士~、驚かさないで~~。ああびっくりしたぁ」
舞子はあまりのことに自分の詩が読まれたことに気づいていない。
「ああ、すまん。でもありがとう」
博士は嬉しそうに言って机に戻り、精力的に研究の設計を始めた。
そして、数週間後
「神楽坂君、いいものが出来たんだ。人から人へ伝わる情報、これが正確に伝わることは難しい。なぜなら受け手の意識が情報の中身を変えてしまうことがあるからだ。ああ、長くなるから省略して、相手の心が伝わる器械としておこう」
博士は携帯音楽プレーヤーとメガネが繋がったような物を、舞子に手渡した。
「それを装着して、会話をするだけで解ってしまうんだ、相手の心が。すごいだろう。今日はもう帰っていいので、このテストをしてくれないかな」
舞子は咄嗟に彼のことを思い出し、少し頬を赤らめながら「あ、はいっ頑張ります」と大きな声と同時に帰り支度を始めた。
そして、次の日
舞子は浮かない顔をして飯田橋博士の前に立ち、報告をした。
「音声多重で、好きな人の言葉と心の声が聞こえてきて、夢中で聞いていました。それで」
舞子はちょっと言葉を探すように間を置いてから
「よく解ったし、悪い人ではなかったのだけど……」
舞子は、また間を置いてから。
「彼に興味が無くなってしまいました。まるで読み終わった推理小説のようで」
舞子は肩を落として、ふーっとため息をついた。
end
作品名:天才飯田橋博士の発明 作家名:伊達梁川