名探偵カラス Ⅱ
「あなた、あの日。父が行方不明になったあの日よ。あなた本当は、父と車で出かけたんでしょ? もう警察でも調べはついてたのよ。それなのにあなた、ずうーっと否定してたでしょ? どうしてなの? 何かどうしようもない理由があったんでしょ? それを正直に話して欲しいの」
「………」
「どうしたの? 言えないの?」
靖男は何とも答えられないのか、またじいさんの方をチラッと見た。まるでじいさんに助けを求めてるようにも見える。
「あなた、何か父に関係あることなの?」
靖男がチラチラと父親の方を見るものだから、もしかしたら理由の一端が父にあるのかと勝手に思い込んでの言葉だった。
「あのぅ、聡子。実は……」
そこまで言いながら、なおも靖男はモジモジとしていた。
「実は、何なのぉー?」 聡子がじれったそうに執拗に問い質す。
「聡子、実は、怒らないで聞いて欲しいんだが……」
「………」聡子はじっと待った。
「――実は借金があって」
「えっ? 借金って……」
靖男には毎月決まった額の五万円を、給料日にきちんと渡しているのだ。それなのに借金って……。聡子にはその理由が思い当たらなかった。
「――で、借金て一体いくらあるの? どこに借りてるの?」
「いやぁ、そんなに大した金額じゃないんだ。ちょっとだけなんだが……」
「ちょっとって、だからいくらなの?」
「う〜〜〜ん」
俺は「今だ!」と思い、三毛子に合図をした。
「カァー! カァカァカーッ!(行けー! 今だ。三毛子ー!)」
俺の合図に、それまでじいさんの膝でゴロニャンを決め込んでいた三毛子は、突然ムックと起き上がると、脱兎のごとき早さでダダダーッと床下に潜り込んだ。
じいさんは『何事?』という顔で床下に目をやった後、じんわり顔を上げて、木の上の俺の姿を認めると、優しい微笑みを投げてよこした。
「おぉ、カァーくん、来とったのか」
「おぉ〜っとっと!」
俺はまたズッコケて、木から落っこちそうになった。
どうも優しくされることに慣れるには時間が掛かりそうだ。
床下から出て来た三毛子は例の紙片を口に咥えている。そして優雅な足取りでタッタッタッとステップを踏むと、聡子の足元にその紙片をポトリと置いて、聡子の足に前脚をチョコンと乗せ、一声「ニャン!」と鳴いた。
「あら、三毛子どうしたの?」
聡子は三毛子を抱き上げようとして、足元の紙片に気が付いた。
「ん? 何かしら? お前が持って来たのかい?」
「ニャン」
三毛子は、問いに答えるようにまた一声鳴くと、今度はスタスタとじいさんの膝へ戻って行った。
その様子を目の端しに捉えながら、聡子は紙片を開いて見た。
「えっ、これって!」
紙片はどう見ても領収証で、宛名に夫の名前、受取人名に丸金興業、そして金額が2万円と記されていた。更には、借入残高が百二十三万円と馬鹿丁寧な文字で書かれてある。
「あなた、借金って、これのことね! 一体どうして!?」
あまりのショックに聡子の身体はワナワナと震え出して、次の言葉が出ない。