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名探偵カラス Ⅱ

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「さぁ、じゃあお父さん帰りましょう」
 聡子にそう言われ、
「うん? もう帰るのか? 今晩のご飯は何かな? 聡子」 と、言った。
「そうね、じゃあ今日は前祝ってことで、帰りにスーパーに寄って、お父さんの好きな物でも買いましょうか」
 嬉しそうにそう言って、刑事に別れの挨拶をすると、聡子はじいさんの手を引いて、ゆっくりと玄関へ向かって歩いて行った。
 その後姿を見送りながら、刑事はボソッと呟いた。
「気の毒になぁ、自分の父親を殺そうとしたかも知れない男を庇うなんて、なかなかできることじゃないが、よっぽど亭主に惚れてるのかなぁ。少しはあの亭主も反省するなら、まだ見込みもあるんだがなぁ。本当に釈放していいものだろうか……。まぁ、ああ言った手前、上司に相談するか……」
 そして刑事は、上司の部屋へ向かって歩いて行った。

 警察の建物の、すぐ外に立っている銀杏の大木の上で、羽根を休めながら二人が出て来るのを待っていた俺は、ようやく出て来た二人が青い車に乗り込むのを目にして、自宅へ帰るものと思い、先回りして秋山家へ向かって飛んだ。
 家の近くまで来てふと下を見ると、どうも見覚えのある顔の男が、秋山家から三十メートルほど離れた電柱の陰に潜むように立って、秋山家の方を窺っているのが見えた。
「ふぅーむ。いよいよ行動を開始したか……」
 その隠れている男というのは、例の丸金興業の強面だ。先日チュータを訪ねた時に、奴らの計画はチュータから聞いて知っていた。だからこそこうやって、なるべくじいさんから目を離さないようにしているんだが……。
 チュータの話によると、奴らは靖男がやって失敗したことをもう一度やろうとしているらしい。それももっと人が入らない山へ。そしてあわよくば、その罪は靖男に被せるつもりで、じいさんが死んだ場合に出る保険金が最大の狙いのようだ。それは、気の弱い靖男を強請〔ゆす〕ればどうにでもなると思っているらしいから、本当に許せない奴らだ。必ず何かの罰を受けさせてやる!
 俺は取り合えず、その男の頭上をぐるぐると二、三周回り、狙いを定めて、男の頭めがけて糞をしてやった。
 ペチャ!
「うん? 何だー?!」
 男は自分の頭の上に落ちてきた物にそっと手を触れ、途端に顔をしかめた。
「クソッ! 何だこりゃー? ――ウッ! 鳥の糞だなー!」
 男はそのまま顔を上げて空を見上げた。
「カァーカァーカァー!(へっ、ざまぁー見ろ!)」
「あいつだなぁー! 糞ったれカラスのバカヤローーー!」
 男はさも悔しそうに大声で怒鳴った。
 すると、たまたま付近を通りかかった人に「クスクスッ」と笑われ、男はそっちをジロッと睨んだ。通行人は慌てて目を反らしたが……。
「クソッ! 今日はついてねぇや。仕方ねぇ、一旦戻るか」
 そう呟くと、頭の汚れをティッシュで拭いながら歩き出した。
 たぶんこれで、今日はもうじいさんを狙うこともないだろう。そう思った俺は、一旦ネグラに帰ることにした。今日は、朝早くからじいさんに付きっきりだったから、さすがの俺も疲労困憊だった。
 明日、靖男はどうなるんだろう。そうだ、明日三毛子に今日の警察での様子を聞いてみよう。そう決めると途端に腹の虫がグーっと鳴った。
 そう言えば、今日は何も食べてなかった!
 そう気が付いた俺は急遽方向転換をして、縄張りにしているコンビニのゴミ箱を超高速で目指した。
 幸い今日は弁当の食べ残しにありつけて、満腹の態でネグラに帰って早々と眠りに就いた。

 翌朝俺は、秋山家へ着くと早速三毛子を探した。
 ちょうど散歩から帰って来たのか、三毛子が垣根の途中をくぐって中へ入ってきた。
 俺は三毛子に木の上から挨拶をした。
「カァーー」
 三毛子は俺の鳴き声に気付いたと見えて、上を見上げると俺の姿を探し、目と目が合うと、その右手を耳のそばにひょいと上げ「ミャーー」と答えた。
 俺から見れば、まるで置物の招き猫のようでおかしくなった。
 俺は急いで三毛子の傍へ降りて行くと、昨日の警察での様子を聞いてみた。
「――ふぅーん、じゃあもしかしたら今日、旦那さんは釈放されるかもしれないんだな?」
「うん、昨日聡子さんがそりゃあ必死で刑事さんに弁解してたから、きっと釈放されると思うニャン」
「そうか……。じゃあ、やはりこれが必要になるかもしれないな」
 俺はそう言うと、足に挟んで持ってきておいた、例の靖男が強面からもらった領収書を取り出して、三毛子に頼んだ。
「三毛子ちゃん、悪いんだけどこれを預けとくからさぁ、俺が合図をしたら、これを聡子さんに渡してくれないかなぁ? きっと必要になると思うんだ」
「ふぅーん、いいわよ。じゃあ預かって、取り合えず隠しておいた方が良いわね」
「ああ、それが良いと思う。いいかぃ?」
「分かったわ」
 俺は足で掴んだ領収書を、三毛子の口元にポトリと置いた。
 三毛子はそれを口に咥えると、床下へ入って行った。
「へぇ〜、そんなところに秘密の場所を作ってるのかい?」
 床下から出てきた三毛子にそう聞くと、
「そうなの。ここならヒンヤリしてるから、ちょっとした食料を隠しておくのにもちょうど良いの。でも誰も知らないのよ」
 そう言うと三毛子はニヤリと笑った。

 ふと部屋の方へ目を移してみると、ちょうど聡子が電話で誰かと話していた。
「えぇ、本当ですか? ありがとうございます。では早速迎えに行きますので、宜しくお願いします」
 そう言って電話に向かって頭を下げ、電話を切ると父親に向かって言った。
「ねぇ、お父さん、やったわ! 昨日のことが功を奏したみたいよ。靖男さんが釈放されるんですって! 良かった! 私、ちょっと迎えに行って来るけど、お父さん一人で大丈夫かしら?」
「ん? 靖男くんを迎えに行って来るのか?」
「えぇ、すぐに戻ってくるから、絶対外に出ないでね。お願いよ!」
「ああ、外へは出ないよ。で、どこへ迎えに行くんだ?」
「もう、お父さん! け・い・さ・つ!」
「け・い・さ・つ?」
「えぇ、じゃあ行って来るからねっ」
 聡子が青い車で出かけた後、じいさんは縁側で、また三毛子を相手に寛いでいた。
 もしかして、出かけでもしたら……と、俺は身構えて待っていたが、幸いじいさんはどこへも行かずに、家でじっと留守番をしていた。
 しばらくすると、聡子が靖男を伴って帰って来た。
 靖男はさすがにぐったりと疲れているように見え、二人とも家に入ると、居間のソファーにドカッと腰を落とした。
 そして靖男は、チラッとじいさんに視線を投げた。何か言うべきかどうか迷ってる風である。
「あなた、釈放されたのはとても良かったけど、一つどうしても聞かなきゃいけないことがあるの」
「うん? それって今じゃなくちゃいけないのかぃ? 俺、疲れてるんだけど……」
「えぇ、あなたが疲れてるのは十分承知してるわ。でもね、刑事さんにも言われたのよ。あなたを引き取る前に。後で必ず聞いて下さいって!」
「刑事が俺に聞けって? それ何だよ、一体」
作品名:名探偵カラス Ⅱ 作家名:ゆうか♪