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夢の途中6 (182-216)

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所謂【脳死】と云う状況になっておられます。
恐らく・・・・・・意識の戻られる事は無いと・・・思われます・・・
我々としては最善を尽くしたつもりでおりますが、力及ばず、申し訳ありませんでした・・>
テーブルを挟み前に坐った佐藤医師と園田総院長が椅子から立ち上がり、香織に頭を下げた・・・

『・・・・・・・主人に・・・・・主人に会う事は出来ますか?・・・』
<はい、ご主人はICUに運ばれています。>

香織と木島夫婦は佐藤医師に案内されて集中治療室に入った。
その中のベッドに頭を包帯でぐるぐる巻きにされた孝則が、全身にあらゆる管を繋がれて眠っていた・・
ベッドの傍らに液晶のモニターが在って、幾つかの数値と共に孝則の今の生命の鼓動とも言える無機質な電子音が、   ピっ・・・ピっ・・・ピっ・・・ピっ・・・と鳴っていた・・・

香織はベッドの傍らに膝まづき、バイタルチェックのセンサーが付けられた左手を両手に抱いた・・・
『・・・アナタ・・・アナタ・・・アナタ~~~~~!』

治療室の中に香織の慟哭が響いた・・・










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章タイトル: 第25章  帰郷 2008年夏


『その後、3日間夫は生きたわ・・・でも、次第に心臓も弱くなり、血圧がどんどん下がって・・・私はもう彼をこれ以上苦しめたくなかったから、延命治療を拒否したの・・・
埼玉のお父さんは反対したけど・・・・』
飲みかけのビール缶をアゴに当て、白い月を見上げながら語る香織の頬には行く筋もの涙の跡が光っていた。

『はい、お終い!これが私の【不幸自慢】よ♪(^0_0^) 』
香織は優一に総てを話した訳では無かった。
神戸の震災で被災し、その時の過労から夫が亡くなったことだけ掻い摘んで話したのだ。
それに、本当に辛かったのはこの後だったからだ・・・
けれど、そこから先を話す事は女として惨めであり、優一に知って貰う必要は無いと思った。
「・・・・なるほどね・・・旦那さん、頑張ったじゃないか・・・
十分、頑張ったじゃないか・・・」
優一も涙声になり、それ以外言えなかった。
香織が淡々と語った過去は自分の辛い過去にも重なった・・・
恐らく、話の中に語り切れないもっと辛い部分が存在するだろうと察しがついた。

『ごめんねぇ~!こんな話聞かせちゃってェ~!(#^.^#) 誰にも云わない積りだったけど、何か林さんには話したくなっちゃって・・・・・』
「・・・ああ、光栄だね、僕だけが知るママの秘密?(=^・^=) それで、お主人のお墓は神戸に?」
『・・うううん、夫のお骨は埼玉の実家が皆持って行っちゃた・・・だから、彼のお墓は無いの・・・でも、少しだけお骨を分けて貰って、持ってるの・・・部屋に小さな仏壇が在って其処に在るわ・・・』

「・・・・ねえ、香織さんも一度関西に帰らないか? 嫌な思い出も在るだろうけど・・・
何時までも引きずって生きて行く訳にもいかないだろう?」
優一は香織にそう言いながら、内心「しまった!」と思った。
他人(ひと)の事が言える立場では無いからだ・・・優一自身が34年前亡くした恋人の面影を引きずっていたのに・・・
「・・来週の金曜から僕は関西に帰るんだ・・・どう、一緒に?  」
『え?林さんと一緒に?関西に?』
「あ?否、一緒にって変な意味で無くてさ^^;・・・実は僕も香織さんの事、偉そうに言える立場じゃ無いんだよ・・・・出来ればその場所に行って、香織さんにも僕の話を聞いて貰えたらいいなァと思ってね・・・」
『・・・・そうね、自分ではもう一生帰りたくないと思ってたけど・・・・
林さんが私を誘って下さるのも、何か神様にそうしろと言われているような気がするわ・・
・・・そうね、私も来週、お店を休んで関西に行こうかな?(=^・^=)』
「ああ、それが良い♪(^。^)y-.。o○ ご先祖のお墓もあるんだろ?」
『・・うん、生駒の方にね・・・今は池田に引っ越した妹に任せっきりだったもの・・・たまには親孝行もしなとね・・・震災の頃5歳だった姪っ子の麻美も18歳、今年の春からおばちゃんと同じ看護師に成るんだって、大阪の看護短大に入学してね・・・私は内心、あんな辛い仕事、させたくなかったんだけど、本人が決めた事だし、言えなくて・・
姉の奈美は来年大阪の大学を卒業して就職ね・・・・ホント、こっちが歳とる訳よね・・
近鉄の駅で別れる時泣いてたあの子たちがもう・・・・』
香織は遠くを見つめて呟いた。
『林さん、決心したわ、私一度向こうに帰ってみる・・・妹とは此処の処電話や手紙のやり取りだけだったけど、直に会って話をしたくなったわ。』
「うん、それが良い・・・お店を休むのも大変だけど、此処の常連さんなら分かってくれるだろうし・・」
『今週再開したばかりなのにね^^;・・』
「あ、香織さんが帰る気持ちになったのなら、別に僕の予定に合わせる事も無いんだよ?」
『アラ、林さんが関西に旅行に行こうって誘ってくれたんじゃないの?
じゃ、や~~めた!(-_-)/~~~ピシー!ピシー!』
「否、そうじゃ無くてェ~!^^;・・・」




こうして香織は優一の薦めも在って、ほぼ11年ぶりに関西の土を踏む決心をした。
優一は今週いっぱい北海道に居て、週明け東京支社である会議に出席後、関東の土木事業関連の営業部員に技術アドバイザーとして8月5日の木曜日まで同行した後、新幹線で大阪に帰ろうと思っていた。
だから、香織に一緒に行こうと言ってはみたものの、正確には関西に優一が先に行き、後から来る香織を待ちうける形だった。
香織は来週の木曜日からお盆過ぎまでの間店を休み、8月6日の金曜日に大阪へ行こうかと希望を言った。
それはこれから池田市に住む妹・美羽の都合も聞かなければ決められないからであった。
6日は兎も角、8月7日は優一と大阪で落ち合う約束をした。
優一がどうしても香織を連れて行きたい場所があると言ったからだ。
優一は翌週からまた札幌に詰めなければならない予定が在った。
【緊急時の連絡の為】に、改めて携帯電話の番号とパソコンのメールアドレスを交換した。
少し、ドキドキした^^;・・・・




この年の夏も暑かった。 
『猛暑』と云う表現では言い足らないと思ってか、『酷暑』と云う言い方が定着した。
夏でもすごし易い北海道は兎も角、関西の夏は暑かった。
元々関西生まれの香織が知らない訳ではないが、言葉で知るのと身体で実感するのとでは相当な差である。
8月6日、店の扉に
「本日から8月17日まで夏季休暇を取らせて戴きます。何分ご迷惑を掛けますが宜しくお願いします。」
と貼紙をして、藤野の駅から旭川空港を目指し、新千歳空港を経て関西空港に着いたのはもう午後7時前であった。
生憎、妹美羽は仕事の都合で迎いに来れ無かったが、姪っ子の奈美・麻美姉妹が空港まで迎えに来てくれた。
「おばちゃ~~ん!こっち、こっちぃ~~!(^.^)/~~~(^^)/」
国内線の出口を出ると、すっかり娘らしくなった奈美・麻美が手を振った♪
作品名:夢の途中6 (182-216) 作家名:ef (エフ)