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ef (エフ)
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夢の途中6 (182-216)

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「あははは、まあ良いじゃないか。 君は神戸に居る時もずっと標準語で居るのに、美羽ちゃんと居る時だけ何時も関西弁になるから微笑ましくってね♪ 良いね、姉妹(きょうだい)って♪」
『アナタにも居るじゃない、兄妹(きょうだい)・・・・』
「え?  ああ、美智子は・・・血の繋がった兄妹(きょうだい)じゃ無いから、また別物だよ・・」
香織はそれ以上何も言わなかった。 折角の気持の良い朝であったからだ。

二人が散策から帰ると、姪っ子二人も目覚めていて、途端に纏わりついた。
またコタツ台の周りに暖かな人の輪が出来た。



香織と孝則は奈良の妹夫婦の社宅にもう一泊して、日曜日の朝再び神戸に発った。
近鉄西の京駅の改札口の前で姪っ子達共別れをする。
「おばちゃん、また来る?」
『麻美ちゃん、また来月寄せて貰うわ♪』
「ホンマに来る?」
『ホンマや。来月になったらもっと便利よう成って神戸から奈良まで来やすうなってるよって、麻美ちゃんや奈美ちゃんの顔また見に来るわな?』
「・・・・・・・・」麻美は香織の言葉には応えず、母・美羽の背中に隠れた。
その時京都行きの普通電車がホームに滑り込んで来た。
『ほな、美羽ちゃん、武雄さん、お世話になりました。良い骨休めになりました。』
「本当に有難う御座いました。また来月お邪魔するんで、その時は宜しく。」
〈ああ、何時でも来て下さい。孝則さん、また一緒に一杯やるの、楽しみに待ってますよって♪〉
[さあ、アンタらも、おっちゃんとおばちゃんにサイナラしい?]
「・・・おっちゃん、おばちゃん、サイナラ・・」長女の奈美は二人の顔を見ずに別れの挨拶をした。
[・・麻美?おばちゃん、行ってしまうで?サイナラは?]
促された麻美は母親のスラックスの裾をぎゅっと握りしめたまま、イヤイヤをするように黙って顔を左右に振った。見る見る間に麻美の顔が泣き顔に崩れ始めた・・・
[さあ、お姉ちゃん、行き・・麻美が愚図らんうちに・・さあ・・・]
『・・・うん、ほな行くわな・・・そしたら皆さん、サイナラ・・・』
涙を堪える香織と孝則は家族にもう一度頭を下げると、急ぎ改札の中に消えて行った。
香織の背中に麻美の泣き叫ぶ声がした・・・
「おばちゃ~~~ん!おばじゃ~~ん!おばじゃあ~~ん!」




2日前神戸から来た道筋を辿り、帰った。
日に日に交通の便は良くなって来た。青木(おおぎ)駅からのバスもそれ程大きな渋滞も無く、木島医院の最寄りのバス停に着いた。
3日間、木島も妻幸子の実家が在る京都で過ごし英気をやしなっていた。
翌日の月曜日から通常の診療時間とした。
朝は9時から12時 午後は5時から8時までの診療時間であった。
一時機能マヒしていた大規模総合病院も、自衛隊や他府県の医師会から派遣された医師などの手により、この頃にはかなり回復していた。
しかし、まだまだ交通手段の不備などもあり、年配の患者が遠方の総合病院に行くのは大変だった。
従って、震災直後程では無いにしろ、木島医院の診療再開に近隣の住民が大勢訪れた。
季節は一年で最も寒い2月半ばで在り、被災による心労とインフルエンザの流行の兆しも在る。
更に倒壊家屋の撤去も各所で始まり、粉じんの舞う悪烈な環境で、気管支に違和感を訴える患者が多かった。
診療再開4日目のこの日も、午前中の診療を終えたのが午後2時であった。
香織は診療所から自転車で30分程の処にある【六甲総合病院】へ、インフルエンザワクチンを貰い受けに行く予定をしていた。

此処の病院は震災で病棟の二分の一が半倒壊となり、ほぼ機能停止となっていた。
患者の多くは他の病院に移ったが、病棟の屋上にヘリポートが在り、空からの救援物資の受け取り基地となっていた。




『じゃ、アナタ、行ってくるわね?』
ジーンズにダウンジャケットを羽織った香織が自転車で六甲総合病院へ出かけようとしていた。
「ああ、気をつけてね・・あの・・・・コレ、持ってけよ?」
孝則は自分の携帯電話を白衣のポケットから取り出し、香織に手渡した。
「何かあったらこれで病院と連絡出来るだろ?」
『・・・ん、そうね・・・じゃ、借りようかな。』
香織は孝則の携帯電話を受け取り、冷え込んだ神戸の街へ漕ぎだした。

この日は午後になり急に冷え込んで来た。
30分程で行けると思っていた総合病院までの道は、倒壊家屋の撤去やら、交通規制による迂回やらに山沿いの急こう配も重なって1時間近く掛ってしまった。
倒壊を免れた病棟の受付でワクチンを受け取りに来た旨を告げ待つ事更に1時間余り、帰りは下り坂で往き程時間はかからぬとは思うものの、これでは夕方5時からの診療時間に間に合うか心配になって来た。

いざと云う時には孝則から借りた携帯電話で診療所と連絡を取るしかないと思ったその時、その携帯電話が鳴った。
『・・・モシモシ・・・・』
「あ、香織さん?幸子です!木島です!」
『あ、奥さん?すみません、遅くなっちゃって!まだ受け取れ無いんですよ・・』
「か、香織さん!そんなことエエからすぐ帰って来て!孝則さんが!孝則さんが往診に行った大場さんのおばあちゃんの家で倒れはってん!主人が今駆けつけてるとこや!仔細はまだ分からへんけど、はよ帰って!」
『え?・・・・・・はい、分かりました!すぐに帰ります!』
香織は受付に事情を話すと、すぐに自転車に跨り急こう配の帰り路を全速力で引き返した。




やはり下り坂の坂道とは言え、迂回する処もあり、30分程かかって医院に着いた。
『奥さん、主人は?主人は?』
「ああ、香織さん!さっき主人から電話があってな、救急車呼んで武庫川病院に連れて行く言うてはった!」
『そ、そんなに悪いんですか?』
「どうも主人の診立では・・クモ膜下出血とちゃうかて言うてはったけど・・・」
【クモ膜下出血】・・・・それは3年前、孝則の母・登美子の命を奪った病名であった。
香織は一瞬目の前が暗くなり眩暈を覚えた・・・
「香織さん、大丈夫か!しっかりせなアカンえ!」
『・・・ああ・・大丈夫です・・・取りあえず、これから大場さんのお宅まで行って来ます!』
香織は再び外に出ると、医院から自転車なら5分の大場サトの自宅に向かった。
大場サトはこの年85歳の独居老人であり、築50年の平屋の借家に住み、震災で半壊したが屋根は安物のビニールの波板葺きであったため、かえってその軽さが良かったのか、当面住むには差し支えないような程度の被害で済んだ。
一時は近所に住む長男夫婦と近所の中学校の体育館に避難したが、住みなれた我が家で無ければ眠れないと、独り戻ったのが2週間程前の事であった。
香織が六甲総合病院に出かけたあとすぐに、サトの長男から医院に電話が在り、サトが2、3日前から寝込んでしまい食事もロクに摂れないので往診して貰えないかと言って来た。
孝則はそれに気安く応じ、診療鞄を自転車に積んで独りで大場サトの元に向かったのが2時半のことであった。
サトの長男もそこには居て、30分程サトの診察をし、栄養剤の注射をした後、長男に後から医院に薬を取りに来るよう言った。
そして暇の挨拶をして玄間を出た時、孝則の白衣の背中がスローモーションの様に崩れて倒れた・・・


作品名:夢の途中6 (182-216) 作家名:ef (エフ)