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ef (エフ)
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夢の途中5 (151-181)

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道路に倒壊する恐れがあった。
マンションのまん前は神戸の中央市場があり、荷降ろし場には大きな屋根で囲われている。
今の処その大屋根は大丈夫のようだ。
住民たちはその大屋根の下に移動し始めた。


1月も大寒に近いこの日、尤も気温の低い夜明け前の時刻に、着の身着のままの住民たちが不安そうに中央市場の大屋根の下に集まった。
そこに居たのは一般の住民たちだけではなく、地震発生時構内で作業に忙しかった市場関係者も一緒だった。
広場の様な大屋根の下、市場の関係者が大きなドラム缶を持ちだし、その中に魚を入れる木製の【トロ箱】を砕き、火をつけた。 ドラム缶の中にドンドン燃えるもの投げ込むと、周りに人が集まりだした。
[さあ、皆、火にあったってや! もっとこっち、もっとこっち!
温(ぬ)たいよって、寄って来て!]
冬の構内作業に備えて、ボア付の防寒服を着た中年の関係者が、住民に手招きをした。
「おおきに、おおきに」・・・住民たちは燃え盛る火の前に集った。 
広場のアチコチにそんなドラム缶ストーブが五つ程置かれた。
ドラム缶の暖かな火が住民たちの顔を赤く照らした。
暫くして、構内の一部の照明が点灯した。
住民たちは自分たちの自宅マンションを見た。灯りは点かなかった。 
市場の照明は緊急用の自家発電機によって点けられたのだ。
照明に照らされて、大丈夫だと思えた市場のあちらこちらに地震の被害が露になった。
此処は元々埋立地であった。コンクリートやアスファルトの地面があちこちでうねり、凹んでいた・・
市場の海側の護岸は大きく崩れている・・・
住民たちを夜明けの冷気から守っている大屋根も、海側の支柱から折れ曲がっていた・・・

落ち着いた住民たちは周囲が明るくなった7時頃から、傾いたマンションに貴重品や衣類、毛布を取り出して来た。
部屋に入っている最中に余震が起きたら・・・・
危険だと承知の上で、必要なものを取り出し、広場に戻って来た。
ドラム缶ストーブには何処からか大鍋が運び込まれ、市場関係者の炊き出しの鍋が作られている。
魚介類を中心に、此処は食材には困らないのだ。

孝則は相変わらず、携帯電話で木島医院に電話し続けたが、結果は同じだった。他所にもかけたが、結果は同じだった。恐らく、携帯電話の中継基地がやられたのだろう・・
香織達の住む兵庫区市場前のマンションから木島医院のある中央区春野道まで、普段なら地下鉄で約15分の距離だった。
しかし、その地下鉄の入り口には間もなく、【危険立入禁止】と書かれた張り紙が貼られ、ロープが引かれた。
駅員に聞いた話では地下鉄の駅の何処かが地震で陥没したらしい・・・
徒歩で行けば1時間以上はかかる・・・
しかし、恐らく途中でタクシーを拾える可能性も少ないと思え、注意しながら徒歩で行くしかないと思った。
市場関係者のお陰で暖かい鍋を戴けた為、それだけのエネルギーは十分あると思えた。
孝則の計画に香織も同調し、午後10時過ぎ二人は歩き始めた。

市場前を出発し国道43号線に出ると、二人は早くも目を疑う光景に出くわした・・・
国道の中央部を高架で走る阪神高速神戸線が、高架の太いコンクリートの橋脚が折れ、ドミノ倒しの様に向こうの方まで倒壊しているのだ・・・・国道に落ちた巨大なコンクリートの塊の下に、何台か乗用車が押しつぶされている・・・・
「こ、こ、これは・・・・・・・・・」
二人はその場に立ち尽くし、全身の震えを止める事が出来なかった。
『・・・こんなことって・・・』
今までの二人の人生の中で出会ったことの無い恐怖を味わった・・・
改めて、今回の地震が尋常で無い事を実感するのであった。
国道沿いの人家も何軒も倒壊している。中には周囲の壁が総て潰れ、立派ないぶし瓦の屋根だけがチョコンと上に乗っかっているものもある・・・
その周りでは顔を真っ黒にした住民たちが必死で瓦礫をどけて下敷きになった者の救出活動をしている男たち・・・
傍で、地面に座り込んで必死に祈る女・・・
血まみれになって戸板に載せられた子供・・・
医師と看護婦である二人も、行く先々で地獄絵の様な場面に遭遇する度、怪我の程度を見たり、あり合わせの道具で応急処置をした。
中には30分以上も心臓マッサージをした小学生の男の子も居たが、最後まで蘇生しなかった・・・・
そんな事をしながら中央区の木島医院に到着したのは夕方7時を過ぎていた・・・



木島医院は院長である木島悠平の祖父、忠助がこの地で七十年前に開院した当時のままで、赤レンガ作りの洋館だった。
周囲の人家はかなりの確率で全倒壊・半倒壊していたが、この築70年の木島医院だけは殆ど無傷であった。
三階建てのこの建物は一階を外科・皮膚科と内科・小児科の二つの診察室と受付と十畳程の待合室。
二階はレントゲン撮影室と簡易ベッドに器具・資材置き場があり、三階は悠平・幸子夫婦の居住スペースで在った。
元来、木島医院は言わば【町の開業医】であり、周辺の住民にとっての『かかりつけのお医者さん』ではあったが、大がかりの検査設備、手術室や入院設備がある訳では無かった。
従って、診察の結果重篤な症状が診られた場合や、精密な検査が必要な場合は、木島の出身大学の後輩が数多く居る【武庫川医科大学付属総合病院】に紹介するのが常であった。

中央市場前の自宅マンションから道々被災者の救護をしながら9時間かけて木島医院に辿り着いた孝則と香織は疲れ果てて医院の玄関に入った。
そして一階の待合室に入り、驚いた・・・
十畳の待合室にはすし詰めの患者で溢れている・・・
中には血まみれの顔で、母親と思しき女の腕の中でぐったりしている子供もいた・・・
孝則はすぐにその女の子に駆け寄り、脈を摂り、ペンライトで瞳孔の拡散状態を観た。
[あ、林先生、この子、助かるやろか?]
相手が馴染みの林医師だと気付き、必死の顔で聞いた。
「大丈夫だよ!顔の出血はそんなに酷く無い・・・何処かぶつけてない?」
[二階の子供部屋の二段ベッドの上にこの子おって、ベッドが倒れたんやわ・・・頭、打ったんとちゃうやろか?]
「ん・・・、ここではCTが無いから何とも言えないけど・・・・
取りあえず、点滴を打って、安静にしてくように・・・香織、内科の診察室で点滴の用意!」
『ハイ!』
孝則が木島の診察室に入ると、診察用の小さなベッドにラグビー選手のような大男が寝かされて、[あたたたた~!先生、痛いがなぁ!し、死ぬぅ~~!(ToT)/~~~]
『死なへん、死なへん、痛いちゅうのは生きてる証拠♪(^。^)y 
お?綺麗に折れとるのォ~♪安心せぇ、この方がくっつき易いわな♪(^v^)』
木島の何時もの診察風景だった。
 


「おお、花田君やないか!おお香織さんも!無事やったんやなぁ~!良かった良かった♪君等が無事か、家内と心配しとったんや・・・それで、あっちはどやった?」
[先生こそ御無事で・・・僕たちの住む兵庫区近辺はここよりもっと酷かったです!
僕たちのマンションも、全体が傾いてしまって・・・先生、あの阪神高速の高架道路が倒壊していました!] 
作品名:夢の途中5 (151-181) 作家名:ef (エフ)