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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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「さて・・」
ユミさんがグラスとビールを持って来て、僕らの前に座った。
お互いのグラスにビールを満たした後、ヨシカワさんが言った。

「じゃ、オガワ君、お願い!」

「え?あ・・では、カンパ・・・」
「ちょっと、二人ともお誕生日おめでとう・・位のあいさつは、ないのかな?」とユミさんが口を尖らせて言った。

「はい、では」ボクは座りなおして正座した。
「ヨシカワさん、ワタナベさん、お誕生日おめでとうございます!カンパ〜イ!」

「かんぱーい!」

冷えたビールは美味しかったから、ボクは一気にグラスを空けた。

「お、オガワっち、いい飲みっぷりじゃん!」
「ささ、もう一杯」

本日の主役のユミさんが、お酌なんて・・・。
ボクは、ユミさんからビンを取り上げて言った。
「いいよ、自分で注ぐから・・有難う」

でも、オガワっちって・・・。ま、いいけどね。

「恭子は?飲んでる?」
「うん、美味しいっちゃ!」
見ればヨシカワさんも、手酌だった。


「さ〜て・・・」ユミさんは、また台所に行った。

「手伝うけね、何かあったら言うて?」
「うん大丈夫、これ持ってくだけだから・・」

ユミさんは大きな皿に山盛りのオードブルを持ってきた。

「凄いね、これ。作ったの?」
「あはは、まさか。予約しといたのよ、近所のお店に!」

ボクは、こんなリッチな雰囲気の誕生会は始めてだった。
その事を言うと・・・
「今回は、恭子と私、二人のお祝だからさ・・ちょっと豪華にやろうねって」
「エスコート役の紳士もいるしね、恭子?!」

「うん、大学に入って初めての誕生日やけ、二人で気張ったっちゃ、ね!」
「あら、どっちかって言ったら恭子じゃなかった?何とかきっかけ作りたいんだけどってさ〜!」

やめてよ、そんな言うの・・・ヨシカワさんが、赤くなって言った。

その時、ピンポ〜ンと鳴った。

「ハ〜イ!」ユミさんが玄関に飛んで行った。

「遅れた、ゴメンな」
「もう!始めてるよ?!」

聞こえてきた二人の会話は随分と仲良さそうだったから、多分、川村がここに来るには初めてじゃないんだな・・・位の察しはボクにもついた。

「お?やってるね、皆さん!遅れてすまん」
「お、オガワ来たな、ヨシカワに引っ張られて」
「うん、お邪魔してる」

笑顔で話しかけてきた川村、悪いヤツじゃなさそうだ。

「オレも入れてくれよ、もう一回乾杯しようぜ!」
「分かってるわよ、なによ、遅れて来たくせに偉そうに・・」

そう言いながらユミさんは嬉しそうだった。好きなんだな、きっと。

じゃカンパーイ!今度は4つのグラスがカチンカチンと鳴った。

「ふ〜、どれどれ・・」

川村はオードブルを片っ端から突き始めた。

「オガワ、お前も食わなきゃ・・食っちまうぞ、オレが」
「それにどうせ、女子達は食わねえんだろうからな」

「ちょっと、独り占めはいかんちゃ!うちもオガワ君も食べるんやけ!」
ヨシカワさんも負けじと、つついた。そしてボクの分もお皿に取り分けてくれた。

オードブルをつつき、ビールを飲みながらワイワイ楽しい時間・・・なんか忘れてたな、こんな仲間との楽しい時間は。


「あ、忘れてたっちゃ!」とヨシカワさんが細長い包みをユミさんに渡した。
「これ買ってきたけ、冷やしとかな・・ユミ!」
「うわ、有難う。じゃ後でね?!」

何だ、ソイツは・・と川村は聞いたが「ふふん」と軽くあしらわれた。

「恭子、じゃお願い!」
「うん」

ヨシカワさんとユミさんは台所に引っ込んで、なにやらごそごそ始めた。

川村がボクに耳打ちした。

「オガワさ、ヨシカワのこと、どう思ってる?」
「え?可愛い子だよね、彼女・・」
「だろ〜?!付き合ってやれよ、良かったらさ!」
「それとも、他にいるんか、惚れた女」
「・・いや」どう答えようか逡巡していたら、2人が戻ってきた。

「お待たせ!」今度はトマトソースのパスタが来た。
これも大皿にドカンと盛りつけられて・・なかなか豪快だった。

「美味しいわよ、恭子のスパゲッティーは!」
「えへ、うち、これだけは得意なんよ」

ヨシカワさんは嬉しそうに、みんなのお皿に取り分けてくれた。

美味しかった。トマトソースにベーコンと青い葉っぱのスパゲッティー。

「この葉っぱ、何て言うの?」とボクが聞くと「ルッコラっちゃ」とヨシカワさんが教えてくれた。
へ〜、ルッコラ、初めて聞いたし初めて食べたな。

「こんなシャレたスパゲッティー食べたの初めてだよ、オレ」
「うん、うまい!ヨシカワすげ〜じゃん!」

イタリア料理は好きなんよ・・と食べながらヨシカワさんが言った。

パスタを食べてた時「あ、いけね。忘れるとこだった!」と川村が玄関に行った。

「はい、おめでとう、お二人さん!」と、プレゼントの包みを差し出した。

川村のプレゼントは、ぬいぐるみだった。

「こっちが恭子で、こっちが由美・・ハイ!」

大きな袋から取り出してそのまま、むき出しの手渡しだったが、それも川村らしくていい感じだった。

「わ〜、有難う!うち、プーサン大好きっちゃ!」
「あは、有難うね・・・って、何で私、ドナルド?」
「いや、深い意味は無いっす!」

何となく分かったボクは、笑ってしまった。

「ちょっと、オガワっちまでひどくない?ま、ドナルドも好きだからいいけどね!」と言いながらも、ユミさんも満更でもなさそうだった。

「ね、ワインにしない?」

由美さんが台所に行って、赤ワインを持って戻った時に言った。
「じゃ、ボクからは・・・これ。お誕生日おめでとう!」

ジャガールとクリムトの画集を渡した。

「わ、凄か」
「お洒落だね、オガワっち、有難う。嬉しい!クリムト、大好きなのよ、私」

「良かった、気に入って貰えたら」

ヨシカワさんは、画集に見入ったまま呟いた。

「何で?知っとったん?」
「え?」
「私もユミも美術部なんやけど、一番好きな画家がシャガールで、この画集欲しかったヤツなんよ。何で?私、言うた?」

「いや、ゴメン、さっき三省堂で選んだんだ。何かヨシカワさんはシャガールで、ワタナベさんはクリムトかな?って思ってさ」

以心伝心じゃん?恭子・・とユミさんが小声で囁いてヨシカワさんを突いた。

「有難う、大事にするけね?!うち、嬉しい!」

画集を胸に抱いてボクに微笑みかけたヨシカワさんの、揃えた膝小僧が眩しかった。


パスタを平らげて、今度はユミさんはサラダとチーズを持ってきた。

赤ワインも美味しかった。

「初めて、オレ。ワインとチーズでお祝いなんて」
「そうだよな、こんなリッチな宴会・・・あ、お誕生会ね!オレだって初めてだな!」

ヨシカワさんとユミさんは顔を見合わせて笑った。
「だって・・・ね?メンバーだって厳選したんだから」
「そうたい!ドキドキやったもん、うち」

ヨシカワさんのボクを見る目が、心なしか潤んで見えた。
酔ってただけかも知れなかったが。

確かに楽しい宴会だった。飲んで喋って、笑って。
川村はサービス精神旺盛な男で、ボクにも彼女達にも気配りを欠かさなかった。