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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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川村が、ボクを振り返って言った。

「羅生門って、映画あったろ?黒沢明の」
「あれとは、違うんか?」

「同じだよ、言い方の違いだね」

「あの映画じゃ、悲惨な門だったけどな」
「でも舞台は京の都だったもんな、そうか」
その頃の寺か・・・と川村は独りごちた。

「でも、オガワは」川村が続けた。
「ほんとに詳しいんだな、歴史」

「いや、オレなんか大したコトないよ」
「オレ、中学の時に本読むのが好きになってね、日本の歴史にも興味が湧いてさ、文学部行って歴史勉強して、研究者か、じゃなかったらもの書きになろうかなってね。」

「前にも言ったじゃん?文系志望だったって」

それでも・・すげ〜よ、聞かれたコトにすぐ答えられるんだから・・な?!と川村がユミさんに言った。

「うん、オガワっちみたいな医大生って、多分、あんまりいないと思うよ」
「みんな受験勉強に汲々しちゃってさ、文系の科目なんか・・二の次三の次だったもん」

「はは、だって文系の受験生は、歴史と語学は避けて通れないからさ、みんな必死に勉強するじゃん」
「オレはたまたま、途中で理転したけどね・・・もっと詳しいヤツなんてザラだったよ」

へ〜、おるん?アンタより詳しい人も・・と恭子が言った。

「当たり前じゃんか!オレの知識なんて半端もいいとこさ」
「もっと詳しいヤツ等だったら、お寺とか神社の来歴なんて空で言えるし、実際に足運んで調べる・・なんて当たり前だしね」

「世の中、広いってコトだな」
「あんたも勉強しなくちゃね、忍者は詳しいみたいだけど〜!」
ユミさんの一言に、ボクらは笑った。

「それだって、そうだよ」
「川村だってオレより忍者とか真田一族には詳しいだろ?!」
「そうっちゃ、鶯張りの廊下の話も面白かったけね」

「おう、その辺なら任しとけ!」と川村も嬉しそうに胸を張った。


その時、笑いながらふと見た恭子の横顔がほんのり上気している様に見えて、ボクは西の方に目をやった。

「うわ〜、ちょっと、あっち」
ボクはみんなに西の方を見る様に言った。

「凄いコトになってるよ、空が・・」
ボクらは、展望台の西側に移動した。


京都の西の山並みに沈みかけてる夕陽が、空を燃える様な茜色に染め上げて、展望台の窓からも惜しみなく残照をボクらに降り注いでいた。

「綺麗、ほんとに・・」
「言葉にならないって、このことか」
川村もユミさんも、手すりに前のめりになって窓の外を見た。
そんな2人の顔も、残照に照り映えていた。

「キレイか・・・」
「夕焼けが始まったんだな、いい時間に昇ったね、恭子」
「・・・うん」

「・・・・」
「どうした?」ふと見ると、恭子の頬には、ひと筋の涙が流れていた。
「ううん、何でもないっちゃ」
「おかしかね、勝手に涙が流れてしもうた」

「何か、思い出したの?」
「えへ、いいっちゃ。気にせんで、ね?!」
無理やりに笑顔を作って、恭子は涙を拭って言った。

「気にするなって言われても気になるじゃん!」
「怒らん?アンタ・・」
「ん?何を?」

恭子は窓の外を見やって、言った。

「うちな、アンタとこうして、綺麗な夕焼け眺めて、その前には、見たことも無い様な虹も見て・・」
「幸せやな〜って、思ったと」

「そうしたら、何か恵子さんに悪い様な気がしてしもて」
「もし、恵子さんが生きとったら・・・もしかしたら、こうしてアンタと一緒に綺麗な夕焼けを眺めるのは、恵子さんやったんかなって」

「そんな思っとったら・・涙が出てしもたっちゃ」
「ごめん・・」

恭子は、ボクの胸に顔を押し付けて、静かに泣きだした。

川村とユミさんは気を利かしてくれたんだろう・・いつの間にか離れていた。

「いいと?」
「うちだけ、こんなに幸せでいいと?」
それだけ言って、恭子はまた泣いた。

静かにボクの胸で泣く恭子を抱きしめて、ボクは言った。

「オレさ・・」
「いや、オレも考えたよ、生きてたらって、何度も何日も」
「でも、恵子はいなくなっちゃったんだよね、もう」

「泣いたさ、数えきれない位」
「そしたら、笑う事も出来なくなっちゃった」

「でもね・・・」
「そんなある日、ある女の子がオレの前に現れて、オレはまた、笑う事が出来る様になったんだ」
「だからオレは、その子に凄く感謝してるし、オレもその子と一緒にいると・・幸せなんだ」

「だからさ」

いつの間にか、ボクも泣いてしまっていた。

「その子がオレを好きでいてくれるんなら、オレ、頑張れる」
「だから、もう泣かないで?」

「恭子がいてくれてさ、オレ」
「とにかく・・有難う・・」
うまく言えなかったが、泣いている恭子を抱きしめてボクは言った。

「きっと、恵子だって・・・笑うのを忘れたオレを見たら心配しただろうしね」

そう、そうなんだろうな・・ボクは泣くのを止めた。

「うち、ココにいたい」
「アンタの隣に、いつまでも、いたいっちゃ」
「恵子さん、許してくれるっちゃろか・・」

「うん、きっとね」
胸からボクを見上げる恭子を見て、言った。


窓の外は、さっきの茜色より鮮やかな、緋色に近い紅に染まっていた。

「もう、沈むな」
「うん、いい一日だったっちゃ」

「あの・・」
「そろそろ帰ろうかなって、思うんですけど?」
後ろからユミさんが恐る恐る・・声をかけてきた。

「恭子、大丈夫?」

「へへ、ゴメンっちゃ、ユミ」
「うち、もう大丈夫やけ」
ちょっとな、この人に甘えたくなってしもたっちゃ・・と恭子はモジモジと下を向いた。

「うん・・じゃ、おばちゃんが待ってるから、帰ろうぜ、今度こそ!」

「うん」
ボクらは、名残を惜しむ様に西の窓をもう一度見て、下りのエレベーターに乗った。

タワービルの外に出ると、街は宵の活気に溢れていた。

ボクらは烏丸通りを渡って路地に入り、おばちゃんちに帰った。
店の外に暖簾は出ていなかったが、格子戸の向こうには明かりが付いていた。

「ただいま〜!」恭子が元気良く、格子戸を開けた。

「お帰り!」
奥からおばちゃんが、エプロンで手を拭きながら出てきた。

「ま〜ま・・暑かったやろ、あんたら」
「それに、降られたんちゃうか?さっきの夕立、大丈夫やったん?」

「あはは、うちら、ズブ濡れになってしもうたっちゃ・・な?アンタ」
「はい、もうパンツまでビショビショ」とボクは笑った。

「そやろ思うたわ。お風呂、焚けてるから・・入っておいで?!」
「風邪なんか引いたら、詰らんやろ」

その間に、晩御飯用意しとくさかいな・・とおばちゃんが言ってくれた。





      おばちゃんの晩御飯





ユミさんと恭子、ボクと川村の組み合わせで風呂に入った。

お湯は、先に入った恭子かおばちゃんが気を遣ってくれたんだろう、温めにしといてくれた。

体と髪を洗ってから湯船に浸かり、一息ついた時に川村が言った。
「な、聞いていいか?」
「ん?」

「ヨシカワ、どうしたんだ?さっき」
「うん・・・ちょっとね、オレの前の恋人のコト、考えちゃったんだって」

「そっか、お前らも大変だな」
「セックスのコトで悩んでるオレなんかとは、ちょっと違うな」