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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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「ほんとだ・・急いで帰った方がいいかもね」

ボクらが二の丸御殿の庭を出口の唐門まで急ぎ足に歩いている時、湿った風が吹いてきて、玉砂利に一つ・二つ・・また一つ・・と黒い染みが出来た。

「あ、来たかも・・」と空を見上げたその時、いきなりザ〜っと大粒の雨が降り出した。





        夕立




走りにくい玉砂利を、ボクは恭子の、川村はユミさんの手を引いて、何とか唐門まで辿り着いた。

門の下に入ると、雨脚は一層強さを増して砂利の庭が煙って見える位になった。

夕立は門の瓦を大きな音で洗い流しながし、ゴロゴロ・・と雲の上からは雷の音まで聞こえだした。

「ひゃ〜、びしょ濡れになってしもた」
恭子が小さなハンカチで手と髪を拭いて「はい、アンタも・・」とボクに渡してくれた。

「これ、ビショビショじゃん、もう」ボクは笑って顔を拭いた。

「仕方なかろ?小さいっちゃけ」
ボクからハンカチを受け取った恭子は、太ももを拭いた。

見れば恭子のサンダル履きの足元は、泥だらけだった。
ボクのスニーカーも泥まみれ。

「足元は、しょうがないけね」

川村は手ぐしで髪を後ろに撫で付けて、恨めしそうに言った。

「いつ、止むんかな、夕立」
「いいんじゃない?涼しくなってさ!」

ユミさんが服とスカートを払いながら、サバサバと言った。

「バッカだな、ユミは」
「こんな夏の夕立の後はな、決まってムシムシになるんだよ、湿気でな?!」

「だって、お天気に文句言ったって、無駄でしょ?」

いいじゃない、町中に打ち水してくれてると思えば・・とユミさんが微笑みながら言った。

「ユミ、いい事言うっちゃ」
「でしょ〜?!いいじゃん、夏らしくてさ!」

ボクら4人は、門の下から夕立に煙る二条城を眺めた。

「なんか、スクリーントーンがかかったみたい・・」
「おう、なかなか風情があるな、こんな景色も」


ラッキーかもね、こんな景色、めったに見られないもんな・・とボクは恭子を見やって、唖然としてしまった。
「恭子」
「ん?どうしたと?」

透けてるよ、ブラがくっきりと・・と小声で言った。

雨を吸った薄いピンクのTシャツは、その下のブラジャーのシルエットを浮かび上がらせていた。

「あはは、仕方ないっちゃ」
「気になるんやったら外そうか?!アンタの嫌いなブラ」

「ば・ばか言うなよ」
ボクの狼狽を楽しむ様に、恭子はケラケラと笑った。


暫くすると雨脚は少し弱まってきて、雲の中の雷様も大人しく遠のいて行った。

「もうすぐ、上がるかな?」
「そうやね」

でもまだ雲が低く、空は暗かった。

「どうするよ、これから」
川村が重い空を門の下から見上げながら言った。

見れば、さっきよりも雲が速く流れだしたから、もうすぐ上がるんじゃないか?・・とボクも空を見ながら言った。

「傘、無いよね」
「仕方ないけ、止むまで待つっちゃ」

「でもさ、恭子」
ユミさんが濡れ鼠の恭子を見やって言った。

「どうすんの?そのまま?」
「うん、ちょっと気持ち悪かっちゃけど・・濡れたのは同じやろ?みんな」アハハ、と恭子は軽く笑ったが、ボクは気が気ではなかった。

「透けてしもたんは・・これも仕方無いけね」
「あんたは、見ちゃダメだからね?恭子のコト!」
ユミさんが川村を軽く睨んで言った。
「お、おう・・大丈夫」

いいっちゃ、そげん気ぃ遣わんで?!うち、気にしとらんし、そのうちに乾くけ・・と恭子はまた、笑った。

そうこうしている内に、二の丸御殿にかかっていたスクリーントーンが段々と薄くなっていき、御殿の屋根の上に青空が見え出した。

「あっちから晴れてきたっちゃんね」
「じゃ、じきに上がるな、この雨も」

その通りだった。
さっきまであんなに勢い良く降っていたのに、まるで雨のカーテンが通り過ぎて行く様に、ボクらの門の上を最後の一降りが北から南に越えて行った。

その後には、真っ青な空がまた広がった。

「ひゃ〜、またキッパリと男らしく上がったもんだな」
川村の形容がおかしくてボクらは笑った。
その時、恭子が南の空を見て叫んだ。

「ちょっと、あれ見てみ?!アレ〜!」
恭子の指指す方向には、今までに見たコトも無いデッカい虹が、京都の街を跨いで輝いていた。

「すげ〜、こんなの見たコトね〜よ、オレ・・」
「ほんと、綺麗ね」

ボクら4人はポカンと口を開けたまま・・虹を眺めていた。

「何か、神秘的やね」
「ほんと、虹って・・こんなに綺麗なんだ」ユミさんが嘆息した。

夕立が止んで、また蝉の声がやかましく聞こえ出し川村が言った。
「さ、帰るか、ボチボチ」
「うん、そうだね」

全身ずぶ濡れのボクらは二条城を後にして、来た道を戻った。
正面の虹を追いながら。
「まだ、綺麗やね」
虹は幾分、薄くはなっていたが、まだ十分にその姿を留めていた。

「恭子、ここからどうやって帰るの?」
「知らん、アンタ知っとる?」

「いや・・良くわからないけど、とにかく南に向かって、それから東でいいんじゃないかな?」

歩きながらもボクは、すれ違う人の視線が「え・・?」っという感じで恭子に留まっていくのが、気が気では無かった。

「ねえ、オガワっち・・どれ位歩くの?ここから」
「多分・・・結構あると思うよ、まだまだ」

「だよね、私、もうダメかも」
「どうした?バテたんか?」

「ううん、疲れはさっき休んだから平気なんだけどね」

気持ち悪いのよ、全身ぐしょぐしょで・・とユミさんは消え入りそうな声で訴えた。

「そうか、じゃ・・この際だからタクシーで帰るか?おばちゃんちまで」
「うん、そうしよう、恭子も同じだろ?」

「うん、いいっちゃ、たまには贅沢も」
「じゃ・・」

早速、川村は通りに出てタクシーを停めた。
一台のタクシーがス〜っとボクらの前に停まって、ドアを開けた。

「さ、乗れ・・お前らからな」

最初にユミさんが乗り、次に「うち、小型やけ」と恭子。
ボクが続いて、最後に川村は助手席に乗った。

「どちらまで?」
「京都駅のタワー側の方にお願いします」

ボクらを乗せて走り出したタクシーの中は、クーラーが利いてて涼しかった。

「良かった、楽よね、この方が」ユミさんが心底助かった、という感じで背もたれに深々ともたれた。





      タクシーの中





南に向かう堀川通りは夕方の混雑が始まっていたのか、タクシーはノロノロと進んだ。

その内に、ユミさんが軽い寝息を立て始めた。

「ユミ、本当に疲れたっちゃんね」
「アンタは?大丈夫?」

「オレも、眠いな・・少し。恭子は?」
「うん、眠いっちゃけど、服が気持ち悪いっちゃ」

パンツまで濡れとるけね・・と小声で恭子は言った。

「バカ」
「うで・・」

恭子はボクの右腕をとり、胸の前で抱きしめてボクの肩に凭れた。
「ちょっとだけ、寝かしちゃり」
恭子は目を閉じて静かになった。

前からは、川村も寝てしまったのか軽い鼾が聞こえてきたが、ボクは腕に恭子の胸の柔らかな膨らみを感じて、眠るどころではなくなってしまった。


タクシーは相変わらず、渋滞の中を進んでいた。

「混んでますわ、お客さん・・」