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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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「どっち行くんだ?二条城は」

多分、こっちやけ・・とボクらはガイドの恭子さんにくっ付いて、四条大宮駅前を横切り、四条通りを東に向かった。

「もうすぐ、大通りにぶつかるけね、堀川通り」
「詳しいな、ヨシカワは!」

「だってガイドブックに書いてあるっちゃけ、お礼ならこの本に言うてな!」

あはは・・・恭子が手に持ってヒラヒラさせた小さな本を見てボクらは笑った。

「でも本当に暑いんだね、京都は」
「うん、風がないもんな」

3時を大分過ぎても、日差しは少し傾いたとはいえまだまだジリジリと強烈だった。

堀川通りにでると、恭子は「ここを左・・・あと10分やね」
「え〜、10分も歩くの〜?!」

ユミさんが悲鳴を上げた。
きっとサングラスの奥の目は、ボクと恭子に非難の眼差しを向けていたに違いない。

「大丈夫っちゃ、ユミ・・」

恭子の言う通り、堀川通りの歩道はビルの影になっていたから、日差しの攻撃は免れることが出来た。

「うん、日陰なら歩けない事もない、か」
「でも疲れたな、私・・・」

弱音を吐いたユミさんに、川村が助け舟を出した。

「よし、じゃ、そこらで休憩しようぜ!」
「この辺に喫茶店かなんか・・ねえのかな?」

「うん、じゃ喫茶店があったら入って休もうよ、少し」

ボクらは少しゆっくりキョロキョロしながら歩いたが、悲しいことにそう都合良く喫茶店は現れてはくれなかった。


結局喫茶店は見つからず、気が付いたら二条城は目の前だった。

「もう、着いちゃったじゃん」
ユミさんがガックリと肩を落として、ため息交じりに呟いた。

「ユミ、いいっちゃ」
「もうひと頑張りやけ!」

二条城の中に入ったら、きっと休憩所位あるっちゃないと?・・・と恭子が励ましたが、ユミさんは「そんなコト言って、なかったらどうすんのよ」としゃがみ込んでしまった。

「なんだよ、情けないな、ユミ」
「仕方ね〜な・・・ほら!」

川村は、おもむろにユミさんの前にしゃがみ込み両手を後ろに伸ばした。

「なに?あんた」
「いいから、おぶされよ!」

「はぁ〜?」
だって、へたり込む位疲れたんだろ?いいよ、おぶってやるから・・と川村が真面目に言ったもんだから。

「ひゅ〜ヒュ〜!!」
「優しいな、川村は・・オトコだね!」ボクと恭子は、おかしくて・・と言うより微笑ましくて笑いながら囃したてた。

「ちょ、ちょっと・・バカ!止めてよ、恥ずかしい」
「いいよ、人なんかどうだって・・遠慮すんな!」

もう、いい!歩けるから大丈夫!とユミさんは立ち上がって、スタスタと歩きだした。ボクら3人をおいて。

「あはは、ユミ、大丈夫なん?」
「ほら、さっさと行くわよ!もう」

何だ、元気じゃね〜か・・と川村はぶつくさ言いながらも、笑いながらユミさんを追いかけた。

「いいな、あの二人」
「うん、見てて楽しいっちゃ!」

ボクらは信号を渡って、二条城の駐車場に入った。

「広いな、ここが全部埋まっちゃうのかな」
「そうやろね、ここは修学旅行でも必ず・・のスポットっち、書いてあるけね」

南北に広く長い駐車場を進むと、左手に立派な門が見えた。

「東大手門、入口やけ」
恭子がガイドブックを見ながら言った。

「お〜い!」
少し先を歩いてた川村が、ボクらを呼んだ。

「自販機、あるぜ!」
「冷たいものが飲めるぞ、ユミ!」

門の手前の駐車場の隅に、飲み物の自動販売機が置いてあった。

「あ〜ん、嬉しい」
「何でもいいわ、冷たいの〜!」
ユミさんは自販機に向かって走って行った。

「良かったっちゃ、ユミも一息付けるっちゃんね!」
「うん、オレも喉乾いたもんな・・一休みしよう」


ボクと川村はコーラを、恭子とユミさんはアイスレモンティーを買って自販機の横の芝生に座った。
そこは丁度二条城の塀の日陰になっていて、少しは涼しかった。

「う〜ん、生き返ったわ」
ユミさんはアイスティーを一気に飲んで靴を脱ぎ、足を芝生の上にまっすぐに投げ出した。

スカートが少しめくれて、膝小僧から下の白い足が眩しかった。
「あ〜、気持ちいい」
そしてサングラスを外したユミさんは、川村の背中にもたれた。

恭子はホットパンツで胡坐をかいて、空を見上げて言った。
「日差しも、大分傾いたっちゃ」
「うん、涼しくなるね、少しは」


「あ〜〜!!」
川村がいきなり立ち上がって叫んだ。
その拍子に、体重をすっかり川村に預けて寄りかかっていたユミさんはゴロンと仰向けに転がってしまい、スカートがめくりあがって白い太腿までが露わになってしまった。
「キャ、何すんの、あんたは!」
必死で起き上って真っ赤な顔でスカートを直してるユミさんを、川村は見下ろして言った。

「思い出したぜ!」
「何を?」

「二条城だよ、二条城」
「ズっと引っ掛かってたって言ったろ?」

思い出したんだよ、それを・・と川村は満面の笑みを湛えて、ユミさんの前に座り直して言った。

「いいか?聞いて驚くなよ?」
「いいから勿体ぶらないで言いなさいよ・・全くもう!」

「ふふ、お前ら、ウグイス張りの廊下って知ってるか?」
「え?」

「がはは、知らね〜だろ、さすがのオガワもよ?」
「それって」

歩くとキュッキュっと鳴る廊下のコトか?とボクは言った。

「おう、それだ!さすがに知ってたか」
「でもユミとヨシカワは知らね〜だろ?!」

がはは!あ〜スッキリしたぜ・・と川村は笑いながら言った。

「二条城って聞いてからよ、引っ掛かってたんだよな」
「な、オガワ・・ここ、鶯張りの廊下で有名だよな?!」

うん、確かに・・でもボクは笑いを噛み殺すのに必死だった。
だって、あの、山の手のお嬢さんがゴロン!だって。

「もうオガワっち、笑い過ぎ!」
「ユミ、色っぽかったっちゃよ?綺麗な、おみ足」

もう、バカ!あんたのせいだからね・・と川村を睨むユミさんが、また可愛かった。


そんな二人の遣り取りを見て、ボクと恭子は、一頻り笑った。

「さて、ボチボチ行こか?!」恭子とボクが立ち上がって、ユミさんも渋々・・と言った感じで立ち上がった。

ボクらは東大手門をくぐり、正面に見える築地塀に沿って歩き南側の唐門から入った。

時間は4時を過ぎていたこともあり、観光客は既に疎らだった。

凝った造りの唐門をくぐると、少し遠くに大きな二の丸御殿が見えた。

「え〜、まだ・・・あんなに遠いんじゃん!」
ユミさんがまた弱音を吐いたが、川村が「じゃ、おんぶするか?」と声をかけると「いい、歩く!」と健気にも玉砂利を踏みしだいて歩きだした。

「大きいっちゃね」
「うん、デカイね。でもスマートじゃないか?何かさ」

ボクと恭子は、ユミさんと川村の後に続いて玉砂利を踏んで歩いた。

二条城の二の丸御殿は、周囲を睥睨するような雰囲気は微塵も無く、静かにその威厳溢れる姿で佇んでいるように見えた。

ここもまた、歴史を見守って来た建物なんだな・・・と恭子に言った。

「スタイル、良かね・・このお城」
「昔はあったんだってね、五層の天守閣が」

でも、焼けちゃったんじゃなかったかな?確か・・・とボクは知ってるコトを言ったが、そこまでだった。